研究の背景−蛋白質輸送

1.概略  2.蛋白質輸送におけるエネルギー要求性
3.蛋白質輸送機構の研究の現状について   4.われわれは何を明らかにするのか


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葉緑体への蛋白質輸送

1.概略

図1AB 蛋白質輸送概略図

 葉緑体への蛋白質輸送は、葉緑体と同じく細胞内共生を源と考えられているミトコンドリアへの蛋白質輸送と同一視されることがあるが、 葉緑体とミトコンドリアへは蛋白質は、異なるシステムで輸送される。葉緑体は、独自の蛋白質輸送装置を有しており、エネルギー要求性も 独特である。

 葉緑体はそれ自身ゲノムを有しているが、葉緑体蛋白質の大部分は核内遺伝子にコードされており、細胞質で合成された後葉緑体に運ばれる。 一部の例外を除き葉緑体蛋白質は、アミノ末端に葉緑体移行シグナルであるトランジット配列をもった前駆体として合成される(図1A)。 これらの蛋白質は葉緑体を取り囲む外・内両包膜に存在する蛋白質輸送装置を通って、葉緑体の内部に輸送される(図1B)。外包膜、内包膜に 存在する蛋白質輸送装置をそれぞれToc複合体(Translocon at the Outer membrane of Chloroplast; 図1Bで青で示した蛋白質複合体)、 Tic複合体(Translocon at the Inner membrane of Chloroplast; 図1Bで赤で示した蛋白質複合体)とよぶ。 蛋白質輸送装置を構成する因子をそれぞれToc因子、Tic因子と称し、分子量を付加することにより、それぞれの因子の呼称とする (例えば、75kDaのToc因子の場合、Toc75)。前駆体蛋白質は葉緑体内に輸送された後、ストロマプロセシングペプチダーゼによって トランジット配列が切断され、ストロマ空間内でフォールディングするか、もしくはチラコイドなどの最終目的地に向かう。

 

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2.蛋白質輸送におけるエネルギー要求性

 前駆体蛋白質はToc因子、Tic因子を通って葉緑体内に輸送されることは上で述べたが、その際、低濃度(0.1mMオーダー)のGTP及び ATPの存在下で、前駆体蛋白質は葉緑体表層で不可的な結合をし、"binding"と呼ばれる初期膜透過中間体を形成する(図2)。その後、 高濃度(1mMオーダー)のATPの存在下で、前駆体蛋白質は、葉緑体包膜を膜透過し、葉緑体内部に達する。葉緑体における蛋白質輸送においては、 ミトコンドリアにおける蛋白質輸送で必要とされる膜電位の関与はない。初期膜透過中間体の形成におけるGTPの要求性はGTPase活性を持つ Toc159とToc34の関与によるものであるが、いずれのToc因子が前駆体蛋白質の受容体として機能しているのかに関する解釈は、研究者によって 異なっている。一方、低濃度のATPの作用点は膜間部に存在するHsp70の一種Hsp70-IAPであることが推測されているが、未解明である。 ストロマ空間には、少なくとも2種類のDnaKタイプHsp70が存在することがわかっているが、包膜透過の際には、Hsp70ではなく、 ストロマ空間に存在するHSP100分子シャペロンであるHsp93が前駆体蛋白質の引き込みを担うモーター蛋白質としての機能を果たしていると 考えられている。

図2 蛋白質輸送モデル図

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3.蛋白質輸送機構の研究の現状について

 上で葉緑体への蛋白質輸送機構の概略を述べたが、この概略は主に生化学的解析によって得られた研究結果をもとに記述したものである。 現在の研究は、生化学的側面からのみならず、シロイヌナズナの変異株を用いた遺伝学的解析も広く行われている。ところで、本研究分野は、 研究グループによって全く別の研究対象を扱っているのかと見まごうばかりに実験結果に統一性がない。その一因は、本研究分野は、葉緑体を 用いた物質生産といった応用面に直接関わっている重要課題であるにもかかわらず、携わっている研究グループの数に限りがあることであり、 他のグループの追試もままならぬ状況下にある。も混沌としている。例えば、Toc因子、Tic因子として報告されている因子は図1Bで挙げたもの 以外にもいくつか報告されている。上で述べた概略はあくまでも、私が自分なりに正しいと判断したものである。したがって、他の著者による 総説の類とは様相が異なることがあるので注意が必要である。

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4.われわれは何を明らかにするのか

 前項での指摘のとおり、研究グループの数に限りがあって、実験結果に統一性がないということは、逆にわれわれにもチャンスがあるとい うことを意味している。目先の真新しさに惑わされず、われわれも地道に研究を続けていれば確固たる統一見解を構築することもできるし、前言 とは相反するかもしれないが、われわれにも世界をあっと言わせるような研究結果を発表することのできる可能性を秘めている。とはいえ、私た ちのグループは、立ち上げてから日が浅く、限られた人員であれもこれもできないので、われわれは、現在以下の三つの課題に的をしぼって 研究を進めている。
 @初期膜透過中間体の解析
 A葉緑体への蛋白質輸送における分子シャペロンの関与と機能解析
 B葉緑体蛋白質輸送実験系の開発
さらに、これら三つの課題以外にも国内外の研究グループ同士で共同研究を行ったり、学会などで再会するたびに意見交換を行っている。

主な研究テーマの項において、それぞれのトピックについて説明する。

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