次の3点に重点をおいて研究を行っている。@初期膜透過中間体の解析、A蛋白質輸送における分子シャペロンの機能解析、 B蛋白質輸送実験系の開発。それぞれについて簡単に説明する。
@初期膜透過中間体の解析
初期膜透過中間体は、少量のGTP、ATP存在下で、前駆体蛋白質が葉緑体表層において不可逆的な結合(binding)をすることによって形成される
膜透過中間体である(図1)。しかし、エネルギーの要求性は知られていたが、例えば、GTP、ATPが単独の場合、形成される初期膜透過中間体は
同一のものであるのか、中間体の形成に温度は無関係なのか、など初期膜透過中間体の性質については調べられていなかった。そこで、われわれは、
初期膜透過中間体に対して、プロテアーゼを用いた限定分解を行うことによって異なる条件において形成される中間体には差異があることを見出し
た。次の段階としては、それぞれの中間体にかかわる因子の同定を行い、蛋白質輸送初期段階における前駆体蛋白質と蛋白質輸送因子との逐次的な
相互作用を明らかにしたい。

図1 蛋白質輸送モデル
A蛋白質輸送における分子シャペロンの機能解析
「分子シャペロン」とは、蛋白質がフォールディング(蛋白質が機能を持つ正しい構造を持つようにすること)したり、アセンブリー(他の蛋白
質とともに集合体を形成すること)するのを補助する蛋白質のことであり、蛋白質輸送の際には、モーターとして、蛋白質を引っ張る役割を果たす
ことがある。すなわち、細胞内部において、蛋白質が機能を発揮するのを手助けする蛋白質のことである。葉緑体への蛋白質輸送においても分子シ
ャペロンは重要な役割を担っていると考えられており、図1中でエメラルド色で示した因子、すなわちCom70、Hsp70-IAP、Hsp93が分子シャペロンで
ある。これらのうちで、Hsp93は秋田によって見出された(Akita et al., 1997)。これらの分子シャペロンが、蛋白質輸送において、どのような役割
を担っているのか、現在も解明されていない。そこで、われわれはこれら3つの分子シャペロンのうち、Hsp93とHsp70-IAPについて機能解析を行
っている。一部の課題では、愛媛大学無細胞生命科学工学研究センター遠藤弥重太教授
の開発した無細胞蛋白質合成システムを活用している。
B蛋白質輸送実験系の開発
古典的な蛋白質輸送実験の方法は、葉緑体に限らず、放射活性をもつアミノ酸を用いて無細胞蛋白質合成系で前駆体蛋白質を合成し、種々の
エネルギー条件下で、蛋白質輸送を確認したい生体膜材料(例えば、葉緑体、ミトコンドリア、小胞体)と混合することによって、輸送実験を
行う。蛋白質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって分子量の大きさで分離した後、ゲルをX線フィルムに感光させ、輸送前後
の前後の分子量を比較したり、生体膜材料とともに回収された蛋白質を検出することで、蛋白質の輸送を観察していた。われわれは、放射活性
を用いないでも葉緑体への蛋白質輸送を観察することができないかということで、前駆体蛋白質のカルボキシ末端側にエピトープタグ(ある種
の抗体が認識することのできるアミノ酸配列)を遺伝子組換えにより挿入し、さらに、前駆体蛋白質を無細胞蛋白質合成系ではなく、大腸菌菌
体内で過剰発現させた。このようにして獲得した前駆体蛋白質を用いて蛋白質輸送実験を行い、SDS-PAGEの後、ウエスタンブロッティングを行
うことにより、抗体で認識できるレベルで蛋白質輸送実験を行うことができることを葉緑体への蛋白質輸送実験で初めて明らかにした。現在、
生命科学研究の広い分野で蛍光が蛋白質の挙動を知るための道具として用いられており、その中でも蛋白質自体が蛍光ももつ緑色蛍光蛋白質
(GFP)が幅広く用いられている。われわれも葉緑体蛋白質実験にGFPが応用できないかについて研究を行っている。それ以外にも、蛋白質を
様々な修飾試薬で修飾することで、蛋白質輸送に対する影響を調べている。
葉緑体における物質輸送に関与する輸送蛋白質としてアミノ酸トランスポーターに焦点を当てる。植物、特に葉緑体のアミノ酸 トランスポーターに関しては、ほとんど未解明であるので、まずは、他の生物、特に酵母で見つかっているアミノ酸トランスポーターのシロイヌナズナ における相同遺伝子を検索し、次に、シロイヌナズナのcDNAクローンを入手、これらのクローンを大腸菌ベクターにサブクローニングすることから始め ている。ベクターができたら、蛋白質輸送実験系を用いて、はたしてクローニングした遺伝子産物が葉緑体の蛋白質であるのかのチェックを行う。確認 の取れたものに関して、アミノ酸輸送活性測定などの生化学的実験を行う。本研究テーマは、開始したばかりである。
一般に生物においては、ある種の環境変化に対してその環境変化を和らげるために一群の蛋白質の発現が誘導されてくる。植物 においてもそれは例外ではない。植物における環境応答機構の研究は、ストレスに強い作物を育種するために広く行われている。特に、近年のプロテオ ミクスの発展によって、発現量の変化した蛋白質の同定が、以前に比べ容易になり、多くのストレス誘導性蛋白質の同定がなされるようになった。われ われもその流れにそって、水耕栽培したエンドウにおいて、塩化ナトリウムの濃度を増加することによって発現が誘導される蛋白質の解析を行っている。
これまでの卒業生、現在在籍している学生の卒業論文、修士論文、博士論文のテーマについて以下に列挙する。 右側に示された数字は、上の研究テーマの番号に該当する。
