1996〜2001年におけるロシアの農業実績 (愛媛大学農学部教授・農学博士 細川隆雄)
1.はじめに
プーチン政権下において,近年ロシア経済は好調に推移しているが,農業部門の具体的状況がどのようになっているのか必ずしも明らかではない。そこで本稿では,ロシア発行の学術誌である「農工コンプレックス:経済,管理」誌、2002年11月号を主要資料として、1996〜2001年における農業投資、耕種部門の現況、畜産部門の現況,農業企業の収支,等について明らかにしようとしたものである。
2.農業投資の増大
最近の3年間、ロシアの農業生産は拡大傾向がみられる。1999〜2000年における農業生産量は年平均で6.2%の伸びを示した。この伸びは特に耕種部門の伸びによってもたらされた。1996〜2001年において耕種部門の生産割合は半分以上を占めるようになった。ただし1998年はのぞく(表1)。
農業生産の拡大、農業経営体の収支面での改善が、特にこの2年間において農業への投資を促進した。農業投資の主要な資金源は農業企業の自己資金であった。ちなみに2001年における全体に占めるその割合は74.9%になった。
ロシアに流入する総外資中の農業部門への外資の割合は2001年度においては0.4%になった。ちなみに1996年度のそれはわずか0.1%であった。2001年における農業部門への外資の流入額は対前年比で実に30.7%であった。うち直接投資に限ると対前年比で53%増であった。部門別に見ると畜産部門への直接投資額は対前年比で実に4.2倍に達した。2001年度における海外からの農業投資は22ヶ国にのぼった。うちオランダがほぼ38%、パナマが30%、フランスが20%を占めた。畜産部門への基本投資額のほぼ89%をオランダが占めた。
2001年初めにおける農業部門の基本フォンド評価額(家畜の評価を含む)は12兆ルーブルに達した。2001年度における農業部門の基本フォンドの更新率は1996年の0.56から0.66になり、0.1ポイント上昇した。これに伴って農業生産設備の償却が進行した。2002年の初めには農業部門における大規模および中規模農業企業の基本フォンドの償却レベルは1996年の38.7%に対して48.6%に上昇した。
大規模及び中規模農業企業の基本フォンドの内訳を見ると、1996〜2002年の間に、建物の割合が減少して、それにかわって機械・設備類の割合が増大していることが特徴である。すなわち機械・設備の総基本フォンドに占める割合を見ると、1997年は15.8%であったが、2002年には19.3%に上昇した。一方建物の割合は同49.1%から44.5%に低下した。ちなみに1999年まではトラクターおよび農業機械の生産台数はいちじるしく減少していたが、1999〜2001年の間にそれらの生産台数は急増し、実に3.5倍になった。同期間に穀物コンバインの生産台数は8.7倍、播種機の生産台数は4.9倍になった。しかしながら農業企業におけるトラクターおよびコンバインは依然として不足している。播種面積あたりのトラクターおよびコンバインの台数は表2に示す通りである。
3.耕種部門の現況
1996〜2001年においても農地の減少傾向は続いている。2001年における総農地面積は1995年に比べて1370万ha減少した。経営体別にみると、農業企業が保有する農地が同期間に1710万ha減少しているのに対して、農民経営の農地は550万ha、一般市民が利用する農地は100万ha増加していることが特徴である。総農地に占める農業企業の割合を見ると,1996年は81.4%であったが、2001年には78.7%に低下した。一方農家の割合は同期間に5.2%から8.1%に、また市民利用の農地は4.8%から5.6%に上昇した。
1996年から2001年において一般市民が利用する農地は増加したが、その主な原因は農業企業がその構成員に農地を引き渡したからである。2002年1月1日現在において一般市民が所有あるいは利用している農地は1190万haになった。この他にレンタルによって季節的あるいは一時的利用に供されている農地は1660万haにのぼる。
農家(家族経営)が総農地にしめる割合は1996年〜2001年の間に5.2%から8.1%に上昇した。もっともこのプロセスにおいて農家戸数はむしろ減少している。結果として、1農家あたりの農地面積は1996年の41haから59haに増大した。
2001年において、1995年に比較するとすべての種類の経営体における総播種面積は1780万ha減少した。内訳は、農業企業のものが2090万ha減少したのに対して、農家経営のものは270万ha増、一般市民によるものは40万ha増であった。
1996〜2001年における肥料の投与状況は表3に示す通りである。面積あたりの化学肥料の施肥量は漸増しているが、その施肥水準は依然として低い状況にある。この際に有機質肥料の施肥水準は大きく低下していることが特徴である。
近年、穀物の播種面積は増大していることが特徴である。ちなみに2001年の穀物の播種面積は2000年に比べると160万ha(3.5%)増えた。この際にすべての農産物の総播種面積は減少している。結果として穀物の播種面積は総播種面積の半分以上を占めるようになった。ヒマワリを主とする工芸作物の播種面積の減少がいちじるしいのが特徴である。ジャガイモ、野菜・瓜類の播種面積も若干ながら減少している。飼料作物の播種面積の割合は1999〜2000年の間は大きな変化がなかったが、2001年度には著しく減少し、総播種面積にしめるその割合は1996年の36.1%から2001年度には32.9%に低下した。
1996年から2001年における主要農産物の生産量を見ると,1998年は不作に見舞われたものの、その後は増大している(表4)。2001年度における穀物生産量は8520万tで、前年比で実に30%増であった。テンサイ(工業用)は同3.6%増、ジャガイモは同3.6%増であった。ヒマワリの生産量は播種面積の縮小によって低下した。
ジャガイモおよび野菜の生産は、主として一般市民によって担われている。ちなみに、2001年の一般市民によるジャガイモの生産シェアは1996年の90.2%から92.5%に、野菜のシェアは同76.8%から79.9%に上昇した。
1996年〜2001年におけるロシアの穀物自給率は89〜98%のレンジで推移している。1999年度の穀物自給率が88.9%に低下した理由は、1998年度の穀物の大幅な不作のためである。