微生物学研究室

2022年5月更新

研究室紹介

微生物は自然環境(土壌、河川、植物など)や生体、食品などに様々な環境に生息しており、これらには共生、拮抗、阻害といった相互干渉による調和と秩序に基づいたコミュニティー、いわゆるミクロフローラ(微生物叢(そう))を形成している集団があります。一方で他者とは関わらず単独で生息しているものもあり、そうした微生物社会がどのようなしくみで構築されているのか大変興味深いところです。

 このような微生物の中には人々の生活にとって有益な働きをする株が数多く報告されており、今後も新たな株が発見されることが期待されます。加えて自然界に生息する大部分の微生物は、生きてはいるけれども培養できない(VBNC: vaiable but not culturable)、つまり我々が取り扱うことができないタイプの微生物であることから、これらを操作できる技術が確立されればさらに可能性は広がることと思います。本研究室では、食品や自然など生活環境から試料を収集して微生物株を分離し、特定の目的に適する株の選別やその機能を解析するとともに、得られた知見をふまえて食品、環境、資源に関わる課題解決に向けた教育研究を行っています。

研究概要

*日本の伝統的発酵食品*

古来食されてきた発酵食品は、無菌環境で作られているわけではなく、様々な微生物がいる中でのいわゆる開放発酵系の食品なので、仕込み当初はその環境に存在する様々な微生物が混入することになります。しかしながら時間の経過とともに、微生物間での競合を通じて次第にある種の微生物は淘汰される一方で特定の菌種が優位になり、結果それらで構成されるミクロフローラの確立とともに食品特有の風味が形作られます。
ふなずし
くさや

◎近江地方の伝統的食品。琵琶湖で取れたニゴロブナを塩蔵しておき、後に米飯とともに乳酸発酵させる。(左写真)

◎伊豆諸島に伝わる伝統的干物。漬け汁(くさや汁)は海水をもととし、これを長年継ぎ足しながら用いてきたとされる。ムロアジ、トビウオなど近海で獲れた青魚をくさや汁に漬けることで独特な風味が付与される。(右写真)


日本の伝統的後発酵茶:石鎚黒茶の微生物

*発酵食品に生息する微生物が作り出す抗菌物質*

納豆菌は、学名をBacillus subtilis var.natto(バチルス ズブチリス ナットウ)といい、分類学上はB.subtilis、いわゆる土壌細菌や食品汚染菌として知られる枯草菌の変異種と位置づけられています。枯草菌が作り出す抗菌物質については20種以上の物質の報告がありますが、一方で普段我々が食している納豆にかかわる”一般的な納豆菌”については、その食品機能性に関わる働きは数多く紹介されているものの、本物質に言及した報告はわずかしかありません。そこで本菌の作り出す抗菌物質の種類や性状について調査解析しています。

セレウス
納豆菌

◎日本三大納豆菌として古くから利用されている3種の納豆菌(成瀬、宮城野、高橋)を、寒天培地のシャーレ中央から放射状にあらかじめ増やしておき、これに食中毒菌をあとで加えて培養したところ、納豆菌の集落周縁には食中毒菌の生育はみられなかった。このことから、納豆菌が食中毒菌の増殖を阻害する物質を菌体外に分泌したため、食中毒菌の増殖が抑えられたことが推察される。(左写真)

◎納豆菌は短径1マイクロメートル、長径3~5マイクロメートル程度の細長い桿状の細菌である。(出典:NBRC)(右写真)


納豆菌が生産する抗菌物質

*農産廃棄バイオマスの利用に向けた微生物発酵法の確立*

食品加工(ジュースなど)において排出される搾りかすなど柑橘残渣は、重量にして果実全体の約50%を占め、その中でセルロース、ペクチン、ヘミセルロースからなる高分子多糖類が全体の60~70%を占めます。搾りかすには微量成分として、リモネンやフラボノイド、カロテノイドのような付加価値の高い機能成分が含まれますが、”マス=量”として残存する上記の三成分を如何にして有効利用するかが長年にわたって検討され続けている課題です。我々は、糖化と呼ばれるこれら多糖類の分解工程と、特定の微生物による有用物質に変換する発酵工程を確立するにあたり、「環境負荷の小さい簡便でかつ汎用的な発酵技術」を目指して模索検討しています。

酵母
黒麹カビ

◎柑橘残渣成分を資化する微生物分離株(左写真)

◎一般的に酵素的糖化法では真菌の一種であるカビが生産する酵素が用いられる。味噌、醤油など醸造に関わる麹菌(Aspergillus oryzae)は平成18年日本醸造協会により「国菌」と認定された。写真は黒麹菌(出典:NBRC)(右写真)