放射

放射は主に4つの観点から植物の生育に重要だと考えられている。
1. 温熱効果
 放射は植物体と環境との間で行われるエネルギー交換の主要な方法である。太陽放射は、植物体への主要なエネルギー入力で、そのエネルギーの多くは、熱に変換されたり、他の放射交換や蒸発散といったプロセスを駆動したりする。また、組織の温度を決定し、代謝反応速度や代謝反応間のバランスに影響を及ぼす。
2. 光合成
 太陽放射の一部は植物に吸収された高いエネルギーを持つ化学結合の合成や、炭素化合物の還元に用いられる。この過程(光合成)が植物の特徴であり、生物圏への主要なエネルギーの取り込み口となっている。
3. 光形態形成
 短波放射の量やスペクトル分布は、植物の生長や発達の調整において重要である。
4. 突然変異の誘発
 紫外線、X線、γ線などの波長がとても短く、エネルギーが高い放射は、生きている細胞にダメージを与えることがあり、特に、遺伝物質の構造に影響を与えるため突然変異の原因となる。

この章では、環境生理学の理解のために必要な放射物理の基本原理を紹介し、植物の立場に立って、放射環境のさまざまな側面を述べる。



放射法則

放射の性質
 植物生理環境に関係する放射の波長は300nm〜100μmの間にあり、紫外線(UV)、光合成有効放射(PAR)、赤外線(IR)を含んでいる。放射は波(波長)と粒子(量子、光量子)の両方の特性を持つ。ある光量子のエネルギー(E)はその光量子の波長(λ)またはその光量子の振動数(ν)と関係がある。

       E=hc/λ=hν・・・式(2.1)

 hはプランク定数(6.63×10-34Js)、cは光速(3×108ms-1)を表す。この他に一般的に使われる振動の単位に波数(λ-1,cm-1)というものがある。式2.1を用いれば、ある波長のひとつの光量子の持つエネルギーを計算することが出来る。

赤色光(λ=650nm):E=6.63×10-34×3×108/(6.5×10-7)                  =3.06×10-19 J
青色光(λ=450nm):E=6.63×10-34×3×108/(4.5×10-7)                 =4.42×10-19 J

  これは、ひとつの青色光量子がひとつの赤色光量子より44%多くエネルギーを持っていることを表している。なお、光量子1mol(アボガドロ数=6.023×1023)でエネルギーを表すと便利である。つまり、650nmの放射についていえば、波長ごとの1モル当たりのエネルギーはE=3.06×10-19×6.023×1023=1.84×105 Jmol-1である。1モル当たりのエネルギーの違いを図2.1に示す。Einsteinという単位は、光量子1molを表しているが、SI単位系に含まれない曖昧な用語なので使用を避けるべきである。

 植物生理学を学ぶ上で有用な放射に関する単位が表2.1に述べられている。さらに知りたいならBell & Rose (1981)の論文を参照すればよい。単位時間あたりに表面で放射したり、通過したり、受け取ったりする放射エネルギーの総量は、放射束( ,単位は力の単位、すなわちJs-1or W)と呼ばれている。表面の単位面積を通過する放射束は、放射束密度(Qe ,Wm-2) と呼ばれる。表面に入射してくる放射束密度は放射照度と呼ばれ、一方、表面から放射される放射束密度は、放射力(もしくは放射発散度)( Wm-2)と呼ばれる。下付きの文字eはエネルギーに関するものにつけられ、下付きの文字P(表2.1を参照)によって確認される光量子に関するものと見分けるために用いられる。例えば、光量子束密度(φp)の単位はmol m-2s-1である。

 植物生理学の論文の中で使われている2つの違った用語に付いても述べる価値がある。そのうちのひとつである放射強度(intensity)は、フラックス密度の同義語として大雑把にしばしば使われるが、正確には、点源から放射された単位立体角あたりのフラックスとして定義され(単位はW/Sr)るので、この意味に限定して使うべきである。もうひとつの用語であるフルエンス率もまた、しばしばフラックス密度の同義語として使われるが、2つの用語は同じではなく、フルエンス率は、球状の物体上にすべての角度から入射する単位断面積あたりのフラックスであり、そのため、その測定には球状の検出器が必要となる。例えば、葉緑体に入射する光を測定しようとする場合、フルエンス率が入射光の尺度として最もふさわしいと思われるが、その測定に必要な球状の測定器はめったにない。

 
Last Update 2005/5/18
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2005 Laboratory of Physiological Green Systems