研究室だより vol.3
論文が書けない人のために 論文の季節が終わりました。博士論文の審査を受けるために、悪戦苦闘していた人も一段落してほっとしているかもしれません。卒論が間に合わなくてあせった人もいたでしょう。そんなつらい思いを来年審査を受ける人はしなくてもいいように、この文章は書かれました。頭を休めて、一寸一息いれてください。 そもそも論文というものは、感想文やエッセーではない、というところから物語は始まります。論文というのは、はなはだプライドの高い文章です。それなりの格式と準備がいるのです。「ネェ、チョット、アンタ、アタイノハナシ、キイテヨ」てな具合には始められないのです。「いずれのおおんときにか にょうご こうい あまたさぶらひたまひけるなかに」と格調高くいかなくてはいけません。 したがって、ふだん礼儀もわきまえず、言葉遣いも気にしないで暮らしてきた人には、そう簡単に書けるものではない。あなたが、いざ書き出そうとして、突然筆が止まってしまったとしても何の不思議もありません。ごく軽い初期の症状ですから、近所を散歩でもして、体の血のめぐりをよくしてから、また机に向かいましょう。 次によく起るのは、せっかく集めてきた大量のデータを前にして、どうやって使っていいか分らなくなってしまう症状です。これは、せっかくのデータがあるのに使えないというのですから、かなりつらい症状です。こういうときは先生の所へ行きます。しかし、いきなり「どうしましょう」と聞いても何も教えてくれません。教育的配慮と称して、まず自分で考えろといわれるのが落ちですから、少し準備をしていきましょう。 さて、先生のところへ来たら、自分で考えたことを少し喋ってみます。何でもいいのです。思いつきでも何でもいいから、喋ってみる。それからデータを見せます。するとたいていの先生はデータが好きですから、どれどれ見せてみろということになる。そうなったらしめたもので、あとはじっと待っていれば、むこうからおのずと何か喋りだすでしょう。 次にかなり書いてきて起る症状です。仮説をたてて、実証試験なり現地調査をやって、いざ結果はいかにと期待していたら、仮説と逆の結果になってしまった、というやつ。このときに三つの症状が表れます。躁鬱症、統合失調症、テンカンで、いずれも大変危険な症状です。 ついさっきまで出来た出来たと喜んでいたのが、突然落ち込む。これが躁鬱症。自分がいままでやってきたことはなんだったのか、とお先真っ暗になり、これではいかん、こうしてみようか、ああしてみようか、と迷い始めるのが「統合失調症」。これはかつて精神が分裂すると言われた病気なので、ここにもってきました。ただしこの症状の本当の意味は外の世界と心の世界が分裂することです、念のため。そして最後にテンカン。これはですね、今までの論文のフィールドをすっかり取り替えてしまおうとするタイプ。だから「転換」と言います。これが一番危険です。今までの蓄積が全部ふっとんでしまう。リンゴが駄目だったから今度はミカンでいこう、というので、また新規巻き直し。これでは多分時間切れになりますね。人生の。 じゃ、どうしたらいいのさ、と聞きたげなあなた。こういうときは、逆の結果が何を意味しているのかよく考えることですな。そこから思わぬ発見がでてくる(かもしれない)。出てこなかったら? そのときはそのときのこと。もう一年がんばりましょう。 2005.3.3 . |
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