「石炭灰を中心とした産業廃棄物の人工ゼオライト転換処理及びリサイクル技術」

本論文の構成は以下のようである。

第1章 廃棄物としての石炭灰

 第1節 廃棄物

  第1項 はじめに

  第2項 環境問題

  第3項 資源・エネルギー問題

  第4項 廃棄物の資源化と再生資源利用の促進

 第2節 石炭資源と石炭灰

  第1項 石炭資源の現状

第2項 石炭灰の現状

   1)はじめに

2)石炭灰の発生

   3)石炭灰の種類と理化学的性状

     1.石炭灰の種類

     2.物理的性状

3.化学的性状

4)ゼオライト転換利用法の着想

 

第2章 ゼオライト概説

 第1節 ゼオライトとは

  第1項 はじめに

  第2項 ケイ酸塩化合物におけるゼオライトの位置

第3項 ゼオライトの化学構造と分類

   1)基本構造単位

   2)ゼオライトの分類

第2節 ゼオライトの一般的特性

  第1項イオン交換機能

1)イオン交換反応

2)イオン交換容量

   3)イオン交換平衡

   4)イオン交換選択性

   5)ゼオライトのイオン交換部位

  第2項 吸着機能

   1)物理吸着と化学吸着

   2)吸着現象に係わる力(吸着力)の種類

     1.ファン・デル・ワールス力

     2.疎水性結合力

     3.水素結合力

     4.配位子交換力

     5.静電引力

     6.双極子どうしの相互作用力

     7.化学結合力

   3)ギブスの吸着理論(Gibbsの式)

     1.Gibbsの式

   4)吸着平衡

     1.ヘンリー型吸着

     2.ラングミュア型吸着

     3.フロインドリッヒ型吸着

     4.B.E.T.型吸着

  第3項 触媒機能

 

第3章 石炭灰のゼオライト転換法

 第1節 石炭灰そのままでのゼオライト転換

  第1項 実験室的規模でのゼオライト転換

   1)フライアッシュのゼオライト転換

    1.フィリップサイト、ホージャサイト、水和ソーダライ       トへの転換

  2)クリンカーアッシュ、製紙スラッジ焼却灰、活性汚泥焼却灰のゼオ     ライト転換

  第2項 プラントによる工業的規模でのゼオライト転換

第2節 副原料を添加した石炭灰のゼオライト転換

  第1項 石炭灰を原料とするZSM−5の合成

 

第4章 ゼオライト転換した石炭灰のリサイクル技術

  1. 吸着機能を活用したリサイクル技術
  2.  第1項 消臭、脱臭、除臭への利用

  1. 家畜排泄物の脱臭悪臭
  2. 汚泥類の無臭化

   3)換気装置のフィルターへの利用

  第2項 除湿・乾燥・脱水と調湿への用

  第3項 鮮度保持への利用

  第4項 廃油処理への利用

   1)廃油の硬化処理および吸収処理

第5項 アスファルト改質への利用

  第6項 排水の浄化・脱色への利用

  第7項 抗菌・抗カビへの利用

  第8項 農薬の吸着除去への利用

 第2節 イオン交換機能を活用したリサイクル技術

  第1項 土壌改良への利用

   1)砂質土壌の改良

   2)有機無機複合土壌改良剤

  第2項 土壌解毒への利用

   1)塩類濃度障害および微量要素過剰症の回復・防止

  第3項 植物の養液培養への利用

  第4項 酸性雨に対する無公害的(環境の生態系を壊さない)中和処理      への利用

  第5項 根腐れ病防止への利用

  第6項 藻場を形成する漁礁や消波ブロックへの利用

 第3節 触媒機能、その他の特性を活用したリサイクル技術

 第1項 NOx分解への利用

  第2項 PCBの吸着固定および分解への利用

  第3項 脱酸素剤への利用

 第4節 開発可能なリサイクル技術

   1)酸素富化剤

2)鑑賞用の水槽などに発生する緑藻類など水生微生物の生育・繁殖の     防止・阻止剤

3)高度浄水処理資材としての利用

4)メタン発酵生成ガスの純化剤

   5)機能性の栽培用鉢、機能性のプランター

6)石炭灰とアスベストの同時処理および再資源化・リサイクル

7)硝酸化成抑制材

   8)脱硫剤

9)ゼオライト転換した石炭灰の種子保存剤としての利用

10)人工ゼオライトを利用した養液栽培

11)燃焼排気中のCO2ガスの除去回収

12)人工ゼオライトを利用したフェロモン吸着担体

  13)芳香剤としての利用

14)ゼオライト転換した石炭灰による放射性廃棄物の処理

15)家畜、家禽、ペットなど動物排泄物の無臭化洗浄剤

  16)ゼオライト転換処理した石炭灰から純粋ゼオライトの分離精製

17)可塑剤が溶出しない防水シート

18)人工ゼオライト粉末を利用する消火剤

  19)石炭灰のZSM−5転換処理と廃重油、廃ピッチ、廃プラスチック     などのガソリン化への利用

20)石炭灰と故紙の合併型再資源化

21)高速道路の法面(のりめん)や中央分離帯の土壌改良資材

 

第5章 ゼオライト転換石炭灰の資源リサイクル促進

 

 

本文

第1章 廃棄物としての石炭灰

 

 第1節 廃棄物

 

  第1項 はじめに

 宇宙は、今からおよそ250億年前に生じた。地球は約46億年前に誕生。地球生命の起源は、30から34億前とされる。人類の出現は、古く見積もってもたかだか400〜500万年ほど前とみられる。地球的な時間スパンではごく最近の出来事である。初期の産業形態として、農業を始めて約1万年と言われている。それまで、人間は、われわれの時間感覚で長い間、自然に存在する動植物の採集や狩猟に依存してきたのである。農業を起こすまで、活動の基礎となる食糧供給を自然環境に求めていた。農業の開始は、食糧の人工的な生産活動の始まりである。自然への人為介入の第一歩となったとも言える。このことによって、採集狩猟生活の不安定さを軽減できるようになり、定住が可能となったのである。時代が進み、200年ほど前の産業革命以来、近代的な科学技術が誕生、成長した。化学肥料や農薬の製造に代表されるような諸技術の発展とあいまって、農業生産は急速に増大した。その結果、多大な人口を養うことができるようになった。農業から工業中心の産業への形態変化も起こった。20世紀後半に入り、種々様々の科学技術が加速度的に進展した。ついには生物の本質である遺伝子までも人為で操作しようという、バイオテクノロジー(生命工学)等の先端技術をも利用した産業が芽ばえてきた。この一連の産業技術の進展は、宇宙が誕生し地球が生まれて後いろいろな物質変化・エネルギー循環が繰り返されて平衡状態となっていた地球上の自然環境に、多大の影響を与えた。科学技術は、1860年ごろから産業経済の面で実用化され、今日の繁栄と文明社会の出現をもたらた。その大きな自己加速性によって、今後もなお一層の革新的発展を遂げようとしている。確かに、この科学技術の進歩は、産業革新、工業生産の飛躍的な発展、医学の進歩、衛生施設の改善、食糧生産の増大などによる人口の指数的増加、生活水準の向上、大量消費の普及をもたらし産業経済の著しい拡大につながった。しかしその反面で、様々な領域に思いもかけなっかったような歪をもたらすことともなった。その典型的かつ代表的な現象は、現在、人類が直面している環境問題、資源・エネルギー問題となって吹き出し現れてきた。これまで、われわれは、自然や天然の資源をいかに効率的に獲得・利用し開発するかのみに集中し過ぎ、自然や環境との調和を無視し続けてきたきらいがあった。

その結果として、とくに第2次世界大戦後、経済発展が急速に推進され、天然資源の利用・消費・廃棄など、一方的な自然への働きかけが急増した。この働きかけは、自然が元来有していた緩衝能力(人間の作用を同化・吸収・処理する力)をはるかに越えてしまい、深刻な反作用をわれわれに及ぼすようになった。つまり、環境破壊が重大化し、資源の枯渇が深刻に懸念されるようになった。そして、人間の存在までもが脅かされるようになったのである。

 

  第2項 環境問題

 様々の産業が目ざましい発展を遂げるなか、経済活動は活発化し、人々の生活様式は変化してきた。これに伴い、環境の汚染が問題視されてきた。環境汚染とは、近藤次郎氏の環境科学読本によると、われわれを取り巻く環境に主に人為的な要因によって物質とエネルギーが付加された結果、人間にとって好ましくない影響を引き起こす現象である。人間活動の影響は、環境を構成する大気圏、水圏、岩石圏および生物圏の各々に直接的あるいは間接的に及ぶ。例えば、人間活動をとうして生じる工場排煙、自動車や航空機の排出ガスは、大気圏を汚染する。大気汚染物は、雨に混ざり地上に降りると土壌(岩石圏)を汚し、陸水や海水に降り込むと、水圏を汚染する。汚れた土壌は、風で舞い上がって大気を汚染し、水質汚濁も引き起こす。水圏や土壌が汚染されると、水生生物や森林の動植物など生物に悪影響を与える。人は、大気を呼吸し水を飲み生物を食糧としているので、環境を汚染すると、結局、人間自身に好ましくない結果を招く。

 近年、廃棄物が、その発生量が増加するだけでなく、種類も多様化し、環境汚染の大きな源の一つとして顕在化してきた。廃棄物は、1971年に制定された「廃掃法」では、産業廃棄物と一般廃棄物に二大別されている。産業廃棄物には、事業活動で発生した廃棄物で、廃掃法で定める6種類および政令で規定す13種類の合計19種類がある。一般廃棄物は、産業廃棄物に入らない他の廃棄物であって、事業系と家庭系とに分けられる。前者は、事業活動によって生じた廃棄物であるが、上の19種類には入らない物をいう。後者は、国民の日常生活に伴って出てくる家庭ゴミのことである。わが国の産業廃棄物の排出量は、昭和60年度において、3億1、227万トンであり、家庭系一般廃棄物の約7倍もの量を排出した。世界的にみた産業廃棄物排出量は、多くの国で正確に把握していなかったり、国別に廃棄物の定義が違うため、詳しい相互比較は困難だが、OECD加盟諸国の全体で1980年代前半が年間10億トン、中期が13億トン、1990年で15億トンと見積もられている。

 一方、廃棄物を処理・処分するための施設は、確保がますます難しくなっている。昭和60年以来一貫して増加している一般廃棄物は、その最終処分場の残余が急速に減少しており、とくに東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県など首都圏にでの残余容量は、昭和63年であと4年とわずかであると見られている。日本は一人当たりの排出量は、諸外国に比してとくに多いというわけではないが、最近の5年間(昭和60年から平成元年にかけて)をみると、増加率が高い国の部類に入る。排出量の多い産業廃棄物は、中間処理による減量や再利用に回るものを除く全体の約30%、9、033万トンが最終処分場に送られる。平成2年2月末での産業廃棄物最終処分地の全国残存容量は1億5、667万平方メートルである。首都圏での容量は、昭和61度に2、017万平方メートルあったのが、平成元年度には714万平方メートルに激減している。この減少は、首都圏から地方への廃棄物の広域的な移動を引き起こすだけでなく、不法投棄など不適正な処理の原因ともなる。廃棄物による環境への負荷の増大が、将来、人類の健全な生存環境を損なうおそれがあると認識されてきている。

 

  第3項 資源・エネルギー問題

 現代の社会は、原料物資とエネルギーの大量消費および製品の大量生産体制によって支えられているといっても決して過言ではない。1970年代に入って、世界的規模での未曾有の人口増加を背景として、ローマ・クラブの一研究である人類危機レポート「成長の限界」が発表され、人類の危機・資源の危機が差し迫った問題であるとセンセーショナルに説かれた。実際、1973年10月の第4次中東戦争を契機として、石油資源の危機が大きくとりざたされた。この危機の後遺症で世界経済の成長はスローダウンしマイナス成長に陥り、資源危機論は勢いを失っていたが、1978年末、情勢混乱からイランの石油輸出が一時完全に途絶した結果、再び石油危機論が打ち出されるようになった。これらのいわゆる第一次、第二次オイルショックと度重なる石油危機を経験して以来、地球上の資源の有限性に対する認識は著しく高まってきた。「成長の限界」によれば、もし世界が、今の人口増加率、経済成長率、工業化のテンポをこのまま持続していくとすれば、地球と人類は、食糧不足、資源枯渇、環境汚染等によって、100年以内には、破局が訪れるだろうと警告している。年率5%の経済成長率は、経済規模が14年ごとに2倍に膨れあがる結果を招き、年率2%の人口成長率は、35年ごとに人口規模が倍増していく結果を生じさせるという。このように、一定の成長率・増加率を維持し続ける幾何級数的・指数関数的な増大の持つ意味を十分に認識しておくことは重要である。したがって、人類がこうした幾何級数的・指数関数的な成長を続けていくならば、いわゆる「宇宙船地球号」的な限られた面積と空間および有限な資源しか持たない地球上では、その限界に早晩到達せざるえないのは明白であり、資源枯渇の危機が差し迫った問題であるとしている。

 わが国は、昔から、「狭い国土に、乏しい資源」ときまり文句のように言われてきた。

資源の賦存量は面積にほぼ正比例するので、約37万平方キロメートルほどの狭小な国土に豊富な資源を見いだすのは、もとより無理な話である。各種の資源を海外から輸入せざるえなかった。都市生活は近代化し、農村社会の生活意識が都市化の一途をたどるなか、消費・支出のレベルは全国的に上がってきている。このような状況で、様々な資源やエネルギーを大量に消費するいわゆる大衆消費の時代を迎えた。一方、輸入先の資源保有国は、最近では、自国の経済的発展を目指して、資源をそのまま簡単に輸出する傾向を改めるようになった。自国内で、資源を加工したり利用するようになり始めたのである。このような国内外の状況のもとで、各種資源の安易な輸入依存体質は、長期にわたる供給の安定性を欠くのではないかという不安感を招くと言う意見は多い。今、資源のあり方を、資源枯渇の危機も含めて、新しい観点から考え直さなければいけない時期になっているのである。

 

  第4項 廃棄物の資源化と再生資源利用の促進

 経済社会が安定して健全に発展していくためには、省資源、省エネルギーを根本を置く社会産業構造および日常生活様式へ、変容することが大切であろう。廃棄物の資源化は、ただ単に、省資源、省エネルギーや、ごみ処理の費用を削減するだけでなく、有限な資源、制限された経済成長という21世紀指向の社会にとって、非常に大切な意味を持っている。このような中で、とくに最近、廃棄物の再生資源化が世界各地で強く叫ばれるようになった。増大する廃棄物問題の解決はもちろんのこと、地球上の天然資源の枯渇問題が、将来、資源やエネルギーの深刻な不足を招と予想されるからである。アメリカにおいては、早くも1976年に、「資源保護回収法」(RCRA:Resource Conservation and Recovery Act)が制定され、廃棄物の減量化や資源化の調査・研究開発などの活動も盛んである。豊かな資源に恵まれた大国であるにもかかわらず、資源再生利用に多大の努力がなされているのである。

 先述のように、狭い国土に膨大な人口をかかえるわが国は、資源・エネルギー・食糧など人間の生存に必要な基本的資材の大部分を海外に頼っている。近年の国民経済の大幅な発展による生産と消費の拡大、生活スタイルの変化などがバックグラウンドになって、廃棄物の発生量は大きく増大し、その大部分は再資源化・再利用されることなく捨てられている。廃棄物の環境への負荷が急速に増加したため、将来の発展の基盤であり、かつ、われわれの健全な生活に欠くことのできない場となる「環境」を損なうという恐れが、広く国民の間に認識されるようになってきた。廃棄物処理を兼ねた再資源化の方法を発展させることは、貴重な天然資源の節約だけでなく、廃棄物による国土環境・生活環境の汚染や自然環境に及ぼす悪影響を最小に食い止めるためにも、緊急を要す重要事項である。また、資源リサイクリングは、ゴミ処理費用や労力の軽減だけでなく低経済成長という近ごろの日本社会ともよく合致する。米国に遅れること10余年、やっと、1991年(平成3年)の4月に「再生資源利用促進法」(生産、流通、消費の各プロセスで生じる廃棄物を積極的に資源化して再利用することを促す法律、通称、「リサイクル法」)が成立し、同年10月に施行された。この法律の下で、有限な資源のリサイクルを図るとともに、廃棄物発生の抑制および環境の保全を促進しようとしている。同法では、再生資源の利用を総合的かつ計画的に進めるための基本方針を定めるとともに、製紙造業などの特定業種における再生資源の原材料としての利用、自動車なども第一種指定製品における製品の製造・材質等の工夫、アルミやスチール缶などの第2種指定製品における分別を容易にするための表示、石炭灰や鉄鋼スラグなどの指定副産物の再生資源としての使用の促進を実施するため、それぞれの業種・製品および副産物について、主務大臣が事業者の判断基準を定め、それに基づき指導・助言を行い、必要な場合には勧告等の措置を取り得ることになっている(環境白書 各論 平成4年版)。さらに、1992年(平成4年)の7月には「新廃棄物処理法」が施行され、この法律と上の「再生資源利用促進法」を合わせて通称「ゴミ二法」と呼ばれている。本法の制定に伴い、国立試験研究機関や各県の技術試験センター等で、国レベルや県レベルにおいて本格的に、廃棄物の再生資源化と利用促進についての研究が全国的にスタートしつつある。

 世界的にかってないほど環境問題への関心が高まり、地球環境の保護と経済開発の調和を目指して、国際的な会議(地球環境を守る21世紀の国際ルール確立を目指す国連環境開発会議、通称「地球サミット」)も開催されるようになった。1992年6月3日から14日まで12日間リオデジャネイロで、合計175にものぼる政府・国際機関の代表が、次世代に健全な地球を引き渡すために「持続可能な開発」をテーマに討論した。本会議では、マクロ経済の指標である国民総生産(GNP)に、環境汚染による生活の質低下や、自然資源の減少などを盛り込んだ新たな国民経済の概念として「グリーンGNP」の採用を呼びかけた。経済成長の物差しであるGNPから、環境を復元するための費用を差し引いた経済の新指標を導入する必要のある時期にきているのである。現行のGNPは、環境破壊や資源枯渇などは、経済取引として貨幣価値に換算できないために盛り込まれておらず、環境汚染対策のための支出や森林伐採による経済取引の増加などがGNPを押し上げてしまい、環境が悪化するほど国民経済が大きく成長しているような結果を示すという不都合が出てくるからである。グリーンGNPでは、産業廃棄物処理や再生資源利用など、政府や企業が経済活動と切り離して行う環境保護のための諸活動を環境関連として分離・独立させて、経済活動の一つとして考慮し、また、石炭・石油などの化石燃料や森林など自然資源の量を、大気・水・土壌など自然環境の質的変化の量をそれぞれ貨幣評価し算入するのである。環境を貨幣価値のどのように換算するかなど、このグリーンGNPを実現するまでの課題は少なくないが、この新経済指標が導入されると、会計面だけのこれまでの企業監査に、新たに環境面での監査が加わることになり、企業による環境貢献への責任が本格的に求められるようになる。 

 

 第2節 石炭資源と石炭灰

第1項 石炭資源の現状

 現在、華々しく栄えている科学技術は、18世紀の末に起こった産業革命に基をたどることができるのは言うまでもない。その産業革命の動力的契機となった蒸気機関の燃料として、「石炭」が重要な地位を占めていた。石炭は、その後約200年間にもわたって、主要なエネルギー源として使われ続けた。しかし、中近東地域において、とくに第二次大戦の後、相次いで多くの大油田が発見されたため、エネルギーは石油へと急速に転換していった。わが国では、1955年頃からの高度経済成長期に、石油エネルギーへの大幅の切り替わりが起こり、一般産業に石炭を使うのは希少となっていた。ところが、1973年秋の世界的な石油危機をきっかけに、安定供給できるエネルギー源として、近年、にわかに石炭が見直されてきたのである。石炭需要は、ゆっくりしたテンポながらも、確実に広がってきている。運輸、一般製造業など、石油と競合する一般炭の需要は、少なくなっているものの、電力用の一般炭や、鉄鋼用などの原料炭は、需要が著しく増大してきた。こうしたなか、1975年7月石炭鉱業審議会は、石炭は、新しいエネルギー情勢に対応した主エネルギー源に位置づけられる可能性が高いと予測した。1988年には、石炭輸入が初めて1億トンを越し、電力向け中心の一般炭も、その輸入量の増加が大きくなっている。170年分以上の埋蔵量があると推定され、世界中に広く分布する石炭は、度重なる原子力発電所の事故により石油の有力な代替とされた原子力への反省の高まりと相まって、燃料として再認識されるようなたのである。石炭燃焼時に発生する硫黄酸化物や窒素酸化物に対する脱硫、脱硝技術はほぼ完成し、二酸化炭素の処理技術もまもなく出来上がると考えられていることから、燃料用石炭は近い将来さらに増加すると見られている。

 地球規模での石炭の埋蔵量は、今のところ8兆1300億トンと推定されており、このうち経済ベースで採掘可能量(経済可採埋蔵量)は4300億トンと言われてい(第1表:世界の石炭賦存量)。経済可採埋蔵量を石炭種別にみると、原料炭が800億トン、一般炭が3500億トンである。ソ連や開発途上の多くの国では、まだ十分な埋蔵量調査が行われておらず、今後の埋蔵量はさらに拡大する可能性はきわめて高い。石炭は莫大量が世界各地に賦存しており、量的に無限に近いポテンシャルを持つ資源といっても決して過言ではない。

 わが国の現時点での石炭埋蔵量は、経済可採炭量で約10億トンと見られている。実際に採炭するには、保安の確保、鉱害の防止、環境との調和、地域住民との協調など、採掘技術とは別に考慮しなければならない種々数々の条件も多い。これら条件が制限因子として働くためか、閉鎖する炭坑も少なくない。石炭火力発電所では、国内炭を約40%、海外炭を約60%と、大部分を輸入石炭でまかなっている。輸入炭を大量に利用していこうという体制づくり進んでいることから、今後、石炭輸入は増加するものと見られている。

 主な石炭輸出国は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ソ連、ポーランド、南アフリカ共和国、中国、インドである。

 

第2項 石炭灰の現状

 

   1) はじめに

 石炭は世界的にみて豊富に埋蔵されていることから、差し迫った石油不足時代の有力な代替エネルギー資源と考えられている。その見直しが国際的も共通の課題となっており、これから利用が広がるものと期待されている。今後の石炭利用拡大とともに、燃焼時に発生する酸化硫黄、酸化窒素、ばいじんなどの除去や石炭灰処理に万全を期す必要がある。現在、いろいろな除去・処理技術の研究開発が速いスピードで行われており、成果をあげつつある。このうち、石炭灰については、今のところ、一部がフライアッシュとしてセメント混和材、セメント原料、などに使われているが、多くは埋め立て地造成用に用いたり灰捨て地に投棄処分するしか方法がない。

 わが国で埋め立て処分する場合には、石炭灰は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)」によって、「もえがら」あるいは「ばいじん」に相当し、産業廃棄物として管理型の最終処分場(埋め立て地などの灰捨て用地)で処理される。灰捨てについては、これまで、海面の埋立および陸上投棄に頼ってきたが、処分場の適地には当然限界があり陸上投棄の困難性が増大してきたことで、捨て場を海面埋立に大きく求めざる得ないケースが多くなる傾向にある。石炭灰の溶出試験(純水に石炭灰を入れ良く撹拌し、上澄みに含まれる水銀、カドミウム、鉛、6価クロムなどの各種有害成分を分析する試験)の結果から、「水質汚濁防止法」に定める排水基準を越えるような有害物質を含んでいないのが通例である。従って、石炭灰埋立が海象に与える影響は、埋立地内から排水される余水によって周辺海域が汚染される心配は全くないとされており、埋立海域の水質調査からも安全性が証明されている。しかし、大規模かつ長期間にわたる廃棄物投棄による埋立は、地元住民、漁業関係者などの理解と協力が得られなければ難しいこと、近ごろでは、沿岸環境問題などとの関連も強く言われるようになったことなどから、埋め立て用の海域を確保するのに大変困難をきたしている。石炭灰処理問題の緩和のためにも、さらに、廃棄物の再利用促進のためにも、新たな再資源化技術の開発が必要な時期になっているのである。

 

   2) 石炭灰の発生

 石炭灰は、石炭の燃焼やガス化に伴って生じる残物である。石炭には、普通、5〜25%くらい灰分が含まれる。この灰は、かなり良質な石炭からでも15〜20%、低品質石炭ではそれ以上の灰量と、きわめて大量に発生するため、その利用や処理に対して世界各国が様々なやり方で対応している。火力発電における石炭利用は、アメリカ、中国、旧ソ連が群を抜いて大量に使用しており、ついで、イギリス、東西ドイツ、オーストラリア、カナダ、日本、フランス、スペインの順に使用量が多い。発生する石炭灰の量もおおむねこの順に多い。地球規模での石炭灰発生量は、年間約4億トンにもなるといわれている。国土の広い旧ソ連やオーストラリアなどのを除いて、いずれの国においても合理的・効果的かつ公害を起こさないような石炭灰処分の必要性に迫られており、そのリサイクルの拡大や開発は不可欠となっている。わが国は、国内炭の生産量は年々減少の一途をたどっており、海外炭の輸入が増え、全体として灰分の少ない石炭を利用する傾向が高まっているが、それでも1年間に約4500万トンの石炭を燃やしており、ほぼ540万トンの石炭灰が発生している。石炭灰排出の内訳は、2450万トンほどの石炭を燃焼する火力発電所で約400万トン、製鉄、製紙など一般産業から約140万トンである。平成2年7月現在において、灰を比較的多く発生する石炭火力発電所は、稼働中の発電所が25カ所、45ユニットあり、設備容量は1267万kWに達する(第1図:石炭火力発電所の場所;第2表:既設稼働中の石炭火力発電所)。建設中であったり、建設が計画されている石炭火力発電所は22ユニット、予想容量は1720万kWもある。電気事業審議会による長期電力需給見通しでは、石炭火力発電所の設備容量は、1988年度(昭和63年度)の1112万kWから22年後の2010年(平成22年)には4000万kWへ増加し、発電量は昭和63年度の636億kWから2000年(平成12年)には1560億kWへの増大を見込んでいる。このようになれば、石炭火力発電所から出る石炭灰は、量的に現在の二倍強と大幅に増加することになる。

 

   3) 石炭灰の種類と理化学的性状

 

     1.石炭灰の種類

 石炭灰の性質は、ストーカ式燃焼、乾式燃焼(微粉炭バーナ燃焼)、湿式(スラッグ・タイプあるいはサイクロン燃焼)燃焼、流動燃焼など石炭の燃焼方式によって、また、歴青炭、かっ炭など炭種によって、異なっている。

 現在わが国では石炭焚きボイラーの大部分は、粉末状の石炭を用いる、つまり、微粉炭を燃料として利用する方式になっている。この燃焼方式で出てくる灰は、PFA(Pulvelized Fuel Ash)呼ばれており、ボイラーのどの部分から発生するかで類別することができる。第2図に石炭灰のボイラー部位別にみた分類を示す。ボイラーは、主燃焼部の他に、クリンカホッパー、節炭器、空気予熱器、集じん器、集じん器ホッパー、煙突などからなる。煙突の手前に付けた排ガス処理用の電気集じんの所で集められる灰、つまり、フライアッシュ(ElectricPrecipitator:EP粉と称すこともある)と、主燃焼部の直下に位置するクリンカホッパーに落下する灰、つまり、クリンカアッシュ(スラッギングアッシュと呼ばれることもある)とに大きく分けることができる。発生量は約8割程度がフライアッシュであり、石炭灰処理問題としては、大部分がフライアッシュにあることになる。フライアッシュは、節炭器や空気予熱器下でわずかだが採集できるシンダアッシュ(粒が粗いため煙道内で早めに落下する)と混合し原粉とした後、粒子径により分級し、細かい方の灰をJISフライアッシュという。

 

     2.物理的性状

 フライアッシュは、石炭に含まれる無機質成分(灰分)が高温の燃焼で熔融し、温度低下に伴う再凝固時に表面張力の作用で球状の形の微粒子になったものである。粒子径は、1〜200μm位の範囲にあり、径の平均はほぼ20μmである。粒径分布は、約60%のフライアッシュが20〜200μmにあり、土壌学や土質学でいう「細砂」(ファインサンド)に相当する。残り40%ほどは、2〜20μmにあり、「微砂」(シルト)にあたる。ごく少量だが、1μm以下の粒径を有すサブミクロンオーダーのフライアッシュもある。比表面積は、JISフライアッシュで2400cm2/g以上となっている。比表面積は、粒径が小さいほど大きいことから、粉体の粉末度(細かさ)、流動化性(流れやすさ)、反応性などを表す指標にも使える。上の比表面積値は、フライアッシュをセメント混和材と利用するのに適す値である。

 石炭灰の真比重は、2.0〜2.2ほどの値をとる。灰粒子の間に水や空気を保有している通常状態での比重(かさ比重、あるいは見かけの比重)は0.8〜1.0程度である。フライアッシュの中には、中空球状形態の灰がごく一部存在し、これは比重が約0.44ときわめて小さいく、石炭火力発電所などの灰沈澱池に浮遊することから、「浮灰」とよばれている。浮灰は、埋立地では海面への流出を防止する必要があるが、イギリスでは断熱用資材などとして利用価値が高い。

 石炭灰の一割強を占めるクリンカアッシュは、微粉炭ボイラ内で熔けた灰分が、水封された火炉底部のクリンカホッパに落ち急冷凝固したものを破砕して得ており、普通、粉砕器で10mm以下に砕く。当然、フライアッシュよりは粒径が大きい。

 物理的性状の一例をまとめ、第3表に示す。

 

3.化学的性状

 化学的性状の一例をまとめ、第4表に示す。石炭灰は、化学組成的には、SiO2(シリカ)とAl2O3(アルミナ)を主に含んでおり、この両成分で70〜80%にも達する。後に述べる石炭灰のゼオライト転換はこの多量成分を利用する方法である。その他の成分として、Fe2O3(鉄)、CaO(カルシウム)、MgO(マグネシウム)、SO2(イオウ)、Na2O(ナトリウム)、K2O(カリウム)などが存在し、多くは酸化物の形である。組成的に、石炭灰は、土壌や粘土に類似している。鉱物学的・結晶学的にみると、溶融物が急冷して生じた非結晶(ガラス相)の部分が多く、これに結晶性鉱物の石英(SiO2)、ムライト(2SiO2・Al2O3)、時にはマグネタイト(Fe3O4)などが混在する。鉱物組成は、炭種によって多少変動するが、一般的にいって、輸入炭の方が国内炭より結晶性鉱物含量が多い。

 最近、窒素酸化物(NOx:ノックス)発生の低減化を目指して、二段燃焼ボイラーなどで低い温度(約1600℃で燃やしていたのを約1400℃に低温化)で微粉炭を燃焼することが多くなる傾向にある。このため、石炭灰中に未燃焼の炭素分が増加してきた。横浜国大の早川氏らの研究では、未燃炭素含量と色とは必ずしも単純には結びつかないという結果がででいるが、灰の外観が黒っぽくなりはじめてきたのは確かである。石炭灰を利用する際には、含有カーボンの功罪を考慮することが必要となりつつある。従来のセメント混和材としての利用は、ボードパネルなどのセメント二次製品が暗色化するため、良くない影響が出始めている。

 流動燃焼方式の場合は、石炭灰と、脱硫に使用した石灰石(CaCO3)が石こう(CaSO4・2H2O)に変化したものとの混合物が出てくる。流動燃焼ボイラーから排出混合物を各成分に分けるのは非常に困難なため、この灰を利用する時には、イオウ分やカルシウム分がかなり含まれることに注意しなければならない。

 

   4) ゼオライト転換利用法の着想

 現在、リサイクルされている石炭灰のうち、50%以上がセメント分野での利用である。

セメント原料の一つである粘土の代替に用いたり、セメントに少量混合したり、混和材として利用するのである。その他の利用は、建築分野で人工軽量骨材など、土木分野で路盤材夜路床材など、農業分野でケイ酸カリ肥料など、水産分野で人工魚礁材料などがある。先述のように、石炭灰の発生量は年々増加しており、近い将来、この灰は急激に多量化することはほぼ確実になっている。石炭灰の大量に活用する新たなリサイクル技術の開発・確立が強く要求されているのである。石炭灰をこれまでにない方法で再資源化しリサイクルする新技術としての、石炭灰のゼオライト転換着想は次のような背景で生まれた。

 ケイ酸アルミニウムから成るコロイドが、海洋、湖沼、河川の低質、陸地に分布する土壌など、広く自然界に存在している。このコロイドは、表面が活性なため環境中のいろいろな天然あるいは人工物質と相互作用を起こし、これらの物質の挙動や動態を左右する大きな要因の一つである。例えば土壌中において、植物養分や水分の移動、汚染物質の集積・残留や地下水への移行などに対して、直接的あるいは間接に影響を与えるなど、重要な成分である。このため、環境中で起こる諸現象を解明したり予測するためには、このコロイドについて深い知識を持っておく必要がある。化学構造を形成するケイ素やアルミニウムなどの原子が、規則正しく配列した結晶性コロイドと不規則に並んだ非晶質コロイドとに大別できるが、後者はとくに表面活性が大きいので、たとえ量的に優勢でない場合でも、環境の諸現象発現の主な原因や理由になっていることが多い。大切さが認識されているにもかかわらず、非晶質ケイ酸アルミニウムコロイドは、その非晶質性そのものが原因して研究手法が少ないため、結晶性コロイドに比べて、わからない点が多く残されている。

 筆者はテーマの一つとして、環境の非晶質ケイ酸アルミニウムコロイドのうち、とくに火山灰土壌にしばしば含まれる「アロフェン」と呼ばれるコロイドについて、微細形態および化学構造を調べてきた。形態や構造を明らかにすることによって、アロフェンの特性、物性、機能などが理解でき、火山国のわが国に広く分布するこの土壌で起こるいろいろな現象を本質的に説明できるようになり、この土を効果的に取り扱え利用できるからである。

 アロフェンは、主としてケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)および水素(H)から組み立てられており、多数のSi−O−Al結合を含むことで特徴づけられた和水ケイ酸アルミニウムである。X線回折図上に鋭い反射ピークを示さないこと、および、通常の電子顕微鏡下では定まった形状を認めることができないことから、長い間このケイ酸アルミニウムは非晶質無定形であるとされていた。アロフェンは本当に形の無いあやふやな物資なのであろうか。こんな疑問を持ち続けていたのである。最近の電子顕微鏡の進歩はすばらしく、性能(分解能)は著しく高い。原子オーダーの観察も可能になってきた。アロフェンを高分解能電子顕微鏡を用いて観察してみたのである。低倍率では、これまで言われていた形状となんら変わりはないが、高倍率で調べると、なんと、小さいがはっきりした形態が認められたのである。従来のあまり性能の高くない顕微鏡では、いくら倍率を高めても分解能が良くないせいで見えなかったのである。その形態は、直径35−50A位の均一な微小中空状の単位粒子が多数集合したものであった。集合体の全体的な形は種々様々と決っておらず、このことが今まで無定形とされてきた所以であろう。個々の中空球状粒子は一定の形態を有しているので、Si,Al,OおよびHは、全く無秩序に並んでいるのではなく、ある程度決まった規則性で配列して球壁を構築しているのである。従って、アロフェンは、原子配列が短距離(中空球の大きさ程度)規則性(short-range order)のみを有している微結晶であり、各々の微結晶片(個々の中空球)どうしの並び方には秩序がほとんど認められなもの、という新しい概念規定でとらえることもできるようになったのである。中空球の大きさがあまりにも微小であるため、X線回折的に非晶質として振る舞うのである。しかし、全く無秩序な原子配列の状態を指す「非晶質」という言葉を用いるのは厳密に言えば適切ではない。むしろ、アロフェンに対しては「低結晶質」とするのが妥当であるという新見解も出てきたのである。

 では、Si,Al,OおよびHの各原子がどのように結合して中空球を作り上げているのだろうか。数多くのアロフェン試料を化学分析したところ、球壁を構成するSiとAlの含量が一定ではなく、ケイバン比(SiO2とAl2O3の分子比)で約1から2とかなり組成に変動のあることが明らかになった。そこで、化学組成を異にする一連の試料を集めて、諸性質や表面特性を調べてみたのである。その結果、概してアロフェンは、ハロイサイトよりもむしろイモゴライトに性格的に近く、とりわけケイバン比の低い(1.0に近い)アロフェンほど、種々の点でイモゴライトに似ている程度が大きいという結果を得ることができた。ハロイサイトおよびイモゴライトは、それぞれ、結晶性およびの準結晶質のいずれも和水ケイ酸アルミニウムコロイドであり、ケイバン比は前者が2.0で後者が1.0である。すでに、化学構造が明らかにされていた両者を参考にして、アロフェンの構造は根本的にはイモゴライトそれに類似していると考えて、ケイバン比が1.0のものに対する構造モデルを提案したのである。このモデルは、第3図に示したように、モノマーのケイ酸陰イオンがギプサイトの単位シートに結合したものが、SiOH基を球内部側に位置するようにして、球壁となっている構造である。 球壁の欠陥部(球の内部と外部を連絡する穴)の回りに存在する2個のAl(OH)H2Oグループは活性アルミニウムとして振る舞う。同モデルの正当性を確認する手法をしばらく探したが、何分にも結晶度が低いためX線回折法などの構造解析の常套手段の適用が困難であった。これまで、固体試料の核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、通常、幅広い吸収帯から成っており、化学構造に関わる有力な情報をあまり与えなかった。ところが、測定装置の改良やマジック角法などの実用化によって、つい最近、固体に対しても吸収線幅の狭い(いわゆる、固体分解能)NMRスペクトルを得ることが可能になってきた。このスペクトルを測定することで、結晶、非結晶ということをあまり気にすることなく固体状態の物質の構造解析ができるようになったのである。そうは言っても、この固体高分解能NMRスペクトル測定装置は高価なことなどから、現在、普及率は極めて低い。幸運なことに、この装置を使ってアロフェンの29Si−および27Al−NMRスペクトルを測定できた。ついに、第3図のモデルは妥当であることが証明されたのである。モデルのようなイモゴライト類似構造のアロフェンは、"プロトイモゴライトアロフェン”と呼ばれることもあり、この構造がアロフェンの基本的構造だったのである。ケイバン比の高いアロフェンは、基本的構造のシラノール基(Si−OH)や活性アルミニウムとなるAl(OH)H2O基の部位にケイ酸が縮合(脱水的に結合)した構造になっていると考えてよい。この考えの正しさは、火山灰や浮石の風化物から分離したアロフェン試料を分析すると、ケイバン比の大きい試料ほど、1)シロキサン(Si−O−Si)結合が多く存在すること、2)H2O(+)(構造OH)含量が”プロトイモゴライトアロフェン”のそれに比べて大きく減少していることから、明らかである。室内実験によって、”プロトイモゴライトアロフェン”試料とケイ酸を反応させると天然に生じたケイバン比の高いアロフェンに諸性質のほとんど一致するものが生成すること、および、 天然産の比の高い試料は脱ケイ酸反応によって”プロトイモゴライトアロフェン”に近いものに変化することからも、上述の考えの正しさが証明できる。 火山灰土壌は、活性アルミニウムを多量に含む、リン酸固定能が大きい、腐植(土壌有機物)を多く集積する、KやNH4イオンなどの陽イオン(植物養分となる)の保持力が小さいなど、また、仮比重が小さい、土粒子間の結合が弱いため風蝕や水蝕うけやすい、孔隙に富み自然状態の全水分含量が高いが、非自由水含量も大きい、こね返しによる土木施工の困難性など、他の成因の沖積土壌とか非火山灰土壌に比較して、性質や現象発現が特異である。アロフェンについて、上述のように明らかになった化学構造を念頭におき、火山灰土壌を眺めることで、これらの特異性をうまく理解でき説明できるようになったのである。

 非晶質ケイ酸アルミニウムを主成分とする廃棄物がある。その一つは石炭灰である。石炭灰は、石炭を燃焼した際に排出する灰(石炭の20〜25%は灰分)灰であり、燃料として石炭を用いる火力発電所や工場等から膨大な量排出される。これから益々増加するであろうこの廃棄物の処理問題を解決することは急務となっており、その有効的なリサイクリングあるいは積極的な再資源化を目指して新しい技術を速やかに開発・確立することが強く切望されていることは周知のとうりである。

 先述のように、石炭灰は大部分、石炭に含まれていた無機質成分が燃焼の後に酸化物などとして残ったものから成っている。この灰の主な成分は、れき青炭、あるいは、かっ炭と言うような炭種の違いによって化学組成が多少の相違するが、ケイ酸およびアルミナであって、それぞれ、40−65%および25−40%ぐらい含まる。さらに、マイナーな成分として、少量の酸化鉄(5−10%)が存在し、これに微量のMg,Ca,P,Tiなどの酸化物が混在している。これらの成分は石炭の燃焼時に熔融し、灰の中では急冷され非晶質となって存在する。石炭灰は、結局、不純物を含んでいるが、非晶質ケイ酸アルミニウムとみなせるのである。事実、X線回折を測定してみると、石英やムライトと呼ばれる結晶性物質が少量含まれているが、大部分は非晶質の回折図である。また、ケイ素成分とアルミニウム成分が単に混合して含まれるのではなく、赤外線吸収スペクトルから、Si−O−Alの結合が示唆されることから、ケイ酸アルミニウム構造を持っているらしいと考えられる。ここで、前述のアロフェンとの類似性に気がつくのである。熱分析から、石炭灰は構造OHをほとんど含んでおらず、無水物であることががわる。アロフェンが非晶質和水ケイ酸アルミニウムであったのに対して、石炭灰は非晶質無水ケイ酸アルミニウムであると言ってもよい。違いは和水か無水かと点にある。アロフェンは、アルカリと反応すると、結晶化し、ゼオライトと呼ばれる物質に変化することが知られていた。筆者も、実験室でアロフェンからゼオライトを合成した経験を持っていたのである。当然、無水物の石炭灰も、アルカリで処理するとゼオライトに結晶化するだろうということはすぐに予測できた。ゼオライトはいろいろな産業分野で重要な材料、資材である。石炭灰がうまくとゼオライトに転換できれば、廃棄物を有用資源に変えることができ、あわせて、産業廃棄物処理問題をも解決する道を開くことになるのである。

石炭灰のアルカリ処理を実際に試すことにした。石炭を微粉などにして燃やした時に生じる灰は、ボイラーの底に落ちてくる粒径のかなり大きな部分(クリンカーアッシュ)、燃焼ガスの流れに乗って飛び出す微粒の部分(フライアッシュ)などがある。これらのアッシュ試料20gを500ml容の三角フラスコに取り、3.5M NaOHの水溶液を160ml加えスラリーとした。このフラスコに還流冷却管を取り付け、ホットプレート上でスラリーを約95℃にて加熱処理してみた。処理物を、X線回折法や赤外吸収スペクトル法などで分析したところ、いずれの試料からも確かにゼオライトが生じていたのである。なお、ゼオライトに関しては第2章で概説的に述べる。生成したゼオライトは、ホージャサイトおよびフィリップサイトと水和ソーダライトなどであった。ホージャサイトは、Me2/nOAl2O32.4−6SiO2mH2O(Meはアルカリまたはアルカリ土類金属で、nはその電荷)で表される化学組成を持っており、分子ふるい作用を有すると共に固体酸としての性識も発現するので、一定の直径以下の分子のみを選択的に吸着あるいは触媒する有用なゼオライトである。フィリップサイトは Harmotome-Phillipsite グループに属するゼオライトの一種であり、その化学組成は、Na2OAl2O33.3−5.3SiO2nH2Oで表されるように、ホージャサイト型ゼオライトの組成に似ているが、結晶構造が異なるため、結晶格子の空洞(細孔)の大きさは約3.2Aであってホージャサイトの細孔径(9−12A)に比較してかなり小さい。水和ソーダライトは、ゼオライト骨格構造の代表例的な化学構造を持つソーダライト(Na4Al3Si3O12Cl)の結晶格子の空洞に水分子を含む構造をしている。この水は、加熱または減圧することによって、結晶格子の構造を破壊することなしに、一部あるいは全部がかなり容易に脱水されることから、フッセキ水呼ばれる。利用価値のより高いホージャサイトを効率よく合成するためには、アルカリ濃度、加熱温度、あるいは副原料(シリカゲル、水ガラス、食塩など)の有無等の反応条件の検討が今後の課題も

残っている。

 後述するようにゼオライトは、概して、高い陽イオン交換能を持っている。その交換容量はpHにほとんど依存しないことから、安定した陽イオン交換体となる。ゼオライトの性能評価の指標となる陽イオン交刊容量(CEC)を測定したところ、未処理試料では、3から20me/100gの範囲であったのに対し、処理物では小さいもので150me/100g、大きいものでは400me/100g近くにも達したのである。ここで得られたCEC値は、市販されている天然産ゼオライト資材(例えば、栃木県産大谷石などのゼオライト質凝灰岩を粉砕したもの)その値が130−150 me/100g前後であることを考慮すると、同等あるい約3倍も大きい。このことより、上述のようなアルカリ処理法でゼオライト化した石炭灰は、比較的高性能のゼオライト資材になり得ると考えられる。土壌改良剤、汚水や廃水中のNH4+ の除去などを行うための陽イオン無機交換体ないしは吸着剤として水処理に、また畜舎の床に散布するとで除湿および除臭剤としても用いることができるであろう。ゼオライトを材料や資材として用いているあらゆる産業分野に、ゼオライト化した石炭灰を適用してみると、数多くの用途がさらに広がると思われる。石炭灰廃棄物、廃アルカリ、廃熱など一緒に廃出している工場等では、廃物だけを集めてゼオライトを合成できるという大きなメリットが期待できるのである。

 

第2章 ゼオライト概説

 第1節 ゼオライトとは

  第1項 はじめに

 ゼオライトは、古く18世紀(1756年)にスエーデンの鉱物学者クロンステットによって、アイスランドの玄武岩中の空洞に晶出した鉱物として記載された。この記載が、ゼオライトが天然に産出するの鉱物としての最初の発見であった。初期時代に岩石や鉱物分析に用いられた吹管で加熱すると、ホウ砂球反応のように膨れ、結晶水があぶくや水蒸気となって放出され、ちょうど沸き上がっているように見えることから、沸騰する石という意味のギリシャ語からゼオライト(zeolite:沸石、zeo=boil;lite=stone)と名付けられたという。今では、約40種類にのぼる天然ゼオライトが発見されており、合成物までも含めるとさらに多くの種類が知られている。結晶水が出て行った後の細かい間隙や孔路が分子オーダーのサイズを有し、分子をふるい分ける作用、つまり分子篩作用を示すので、「モレキュラーシーブ」という名称も与えられている。間隙や孔路に、アンモニア、水素、二酸化炭素などをはじめ各種の分子を吸着できる多孔質の海面状骨格構造から組立られている。天然ゼオライトの脱水、吸着、イオン交換など諸機能が、鮫島、マックベイン、バーラー等によって物理化学的に研究されて始めて以来、ゼオライトを人工的に合成する試みも行われるきた。Linde A型と名付けられたゼオライトが、一番始めの合成ゼオライトであり、空気から窒素と酸素を分離する能力は、天然ゼオライトのチャバサイトより勝っている。石油の接触分解に優れた触媒能や選択性を持つ合成のフォージャサイト型ゼオライトも登場した。1970年代の終わりに、ZSM−5というゼオライトが合成され、これはペンタシル型ハイシリカゼオライトといわれるもにで、分子の形状選択性を持つ固体酸触媒機能があり、各種の炭化水素変換反応用に利用されつつある。ゼオライトは、固有の細孔径、表面電荷、イオン交換能、吸着能、分離能、固体酸性など有用な諸特性を活用して、乾燥剤、吸着剤、分子篩、イオン交換剤、触媒、肥料・飼料添加剤、農薬添加物、土壌改良剤、製紙用充填剤、ゴム・プラスチック用添加剤などとして、さまざまな分野で応用されている。

 

  第2項 ケイ酸塩化合物におけるゼオライトの位置

 ゼオライトは、化学的に見るとアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を包含する含水アルミノケイ塩であって、一般式が,XmYnO2n・SH2O(X=Na,K,Ca,まれにBa,Sr,Y=Si+Al(Si/Al>1),S=不定)で表されように、いろいろな化学組成を有すケイ酸塩である。そこで、まずケイ酸塩の基礎的事項から述べることにする。ケイ酸塩とは、ケイ酸という酸と水酸化アルミニウムのような塩基が中和反応によって生じた塩とみなすことができる。塩基として、アリカリ金属、アリカリ土類金属、遷移金属などの水酸化物から成るケイ酸塩もあり、それぞれ、アリカリ金属のケイ酸塩、アリカリ土類金属のケイ酸塩、遷移金属のケイ酸塩などという。一般にケイ酸塩は、可溶性ケイ酸塩と難溶性ケイ酸塩とに分かれるており、ごく低分子のものを除き、多くは難溶性である。

 ケイ素は、その3s軌道と三つの3p軌道(3px,3py,3pz)とから成るsp3混成軌道を通して酸素と強く結合し、中心にケイ素を置いた四面体の各頂点に酸素を配した形状の錯体を形成しやすい。この錯体は、ケイ酸塩の化学構造を構成する基本単位(SiO44−)になり、ケイ素酸素四面体(Si−O四面体、第4図)と呼ばれる。各種のケイ酸塩の構造は、このSi−O四面体相互の配列様式から生じる。つまり、四面体どうしが互いに分離した別々の単位として組み込まれたモノマー型のケイ酸塩から、四面体頂点の酸素を共有するように結合して一次元鎖状、二次元環状、二次元層状、あるいは三次元網目状の形で存在するポリマー型まで、いろいろな種類がある。ケイ酸塩を大別すると次ぎのようである。

1)個々のSi−O四面体がモノマーの独立したオルトケイ酸陰イオン(SiO44−)として存在し、隣合う四面体と共有する頂点がない(第5図)。ネソケイ酸塩、あるいはオルトケイ酸塩と呼ばれ、カンラン石:(Mg,Fe)2SiO4、ザクロ石:(Mg,Fe,Mn,Ca)3・(Al,Fe)2(SiO4)3、などがある。「ネソ」は島の意味。

2)二つのSi−O四面体が一つの頂点を共有し結合したダイマーとして存在す(第6図)。ソロケイ酸塩と呼ばれ、メリライト:Ca2(Mg,Al)・(Si,Al)2O7などがある。「ソロ」は群を意味する。

3)Si−O四面体が二つの頂点を共有して連なり、環を形成する(第7図)。環形成に参加するSi−O四面体の数は、ふつう、3個、6個、12個である。シクロ(またはサイクロ)ケイ酸塩あるいはリングケイ酸塩といわている。コーディエライト:(Mg,Fe)2Al3Si5AlO18、大隅石:(K,Na)(Mg,Fe)2(Al,Fe)3・(Si,Al)12O30・H2Oなどがある。「シクロ」は環の意味。

4)Si−O四面体が二つの頂点を共有して結合し、一次元の長い鎖を形成したケイ酸塩(第8図)と、この鎖が2本平行に連結し組み込まれたもの(第9図)とがある。前者は単鎖型(鎖状)イノケイ酸塩と呼ばれ、輝石:(Ca,Mg,Fe)SiO3などが、後者は複鎖型(帯状)イノケイ酸塩で、陽起石:(HO)2Ca2Mg5(Si4O11)2などがある。「イノ」は繊維の意味。

5)隣合うSi−O四面体が三つの頂点を共有して結合し、二次元の平たい板状ないし層状の構造を形成する(第10図)。フィロケイ酸塩と呼ばれ、滑石:Mg3Si4O11・H2O、シロウンモ:KAl(OH),F)2AlSi3O10などがある。「フィロ」は葉片の意味。

6)各々のSi−O四面体が、隣合う四面体と四つすべての頂点を共有して連結し、三次元の網目状構造を成す(第11図)。テクトケイ酸塩と呼ばれ、長石:(K,Na,Ca)(Al,Si)4O8、などがある。「テクト」は骨組みを意味する。

 ゼオライトはテクトケイ酸塩に分類される。全部のSi−O四面体がこのテクトケイ酸塩構造をとるように結合すると、石英(SiO2)など二酸化ケイ素が生じる。ケイ素イオンの半径が4配位のアルミニウムイオンの半径に比較的近いため、一部のケイ素がアルミニウムによって置き換えられる。ケイ素イオン、アルミニウムイオンの電荷はそれぞれ+4、+3なので、この置換の結果現れる電荷のアンバランスを打ち消すために、余分の陽イオンが取り込まれて、化学組成および構造がさらに複雑な様々な化合物が生み出される。このように一部のケイ素がアルミニウムで置き換わったケイ酸塩のことを「アルミノケイ酸塩」と称す。ケイ素を置換できる元素は、通常、アルミニウムだけである。つまり、ゼオライトとは、簡単ににべれば次のようである。 

 

「鉱物学的にフッセキ類に分類され、3次元網目状構造をもつテクトアルミノケイ酸塩。化学構造は、ケイ素(Si)とその回りに存在する4個の酸素(O)がsp3混成軌道を形成することによって結合したSi四面体と、この四面体のSiに代わってアルムニウム(Al)が置換したAl四面体(4配位Al)とを主な構成要素としており、これらの四面体どうしが4つの頂点を共有するように連結した形に組み立てられている。多孔質の構造中には、加熱や脱気により容易に脱水さる弱く保持された水(フッセキ水)とを含む。また、多くは陽イオン交換能を持っている。このイオン交換能は、4配位Alの位置にAlとOの電気的アンバランスに基づく永久的負電荷が発生するためである。交換容量がpHにほとんど依存しないことから、ゼオライトは安定した陽イオン交換体となる。」

 

 

  第3項 ゼオライトの化学構造と分類

 ゼオライトの化学構造的な特徴は、基本構造単位が多様なつながり方によって多種の空隙構造や孔路構造を形成していることにある。いろいろな種類が存在し一見して複雑な化学構造を持っているように思えるゼオライトも、基本構造単位を知り、構造単位の結合方式や仕組みを理解することで、比較的容易に把握できる場合が多い。ここでは、ゼオライトの基本構造と、その連結によって組み立てられた三次元網状の化学構造、および構造に基づく分類について述べる。

 

   1) 基本構造単位

 ゼオライトの化学構造である三次元フレームワークの結合関係を特徴づけるための基本構造単位には、一次構造単位(Primary Bulding Unit;PBU)、二次構造単位(Secondary Building Unit;SBU)、および三次構造単位(Tertiary Bulding Unit;TBU)がある。PBUとは、Si−O四面体、SiをAlで置換したAl−O四面体、および2つの四面体の間で共有される酸素のことである。PBUだけではフレームワークを特徴づける基準にはなり得ないので、いくつかのPBUが連結して生じたものの中で、特徴づけの基準にうまく使える構造単位として第12図に示したようにいくつかの単位が選ばれている。この二次的な単位のことをSBUといい、PBUの四面体が4、6、8または12個連結して形成される4員環、6員環、8員環、12員環(それぞれ、S−4,S−6,S−8,S−12と呼ばれる;Sはシングルの意味)と、これらの4、6、8、12員環が2つ重なって生じた4員二重環、6員二重環、8員二重環、12員二重環(それぞれ、D−4,D−6,D−8,D−12、あるいは、4−4,6−6,8−8,12−12と呼ばれる;Dはダブルの意味)などがある。SBUには、特殊な例としてモルデナイトの構造に含まれる5員環や4−1、5−1、4−4−1構造の単位もある。

TBUは、複数の同種あるいは異種のSBUやPBUがつながって形成された大きな対象的多面体であり、角落とし八面体(Truncated Octahedron;T.O.、あるいはソーダライト単位と呼ばれる)(第13図)、十一面体(カンクリナイト単位と呼ばれる)、十四面体(グメリナイト単位と呼ばれる)などがある。TBUが、それだけ、あるいはSBUを通して結合し、三次元網状構造の巨大分子を形成するとゼオライトの化学構造になる。例えば、第14図aのように、TBUのソーダライト単位が四員環の面で直接連なればソーダライトのフレームワークになり、同じソーダライト単位が四員環の面でSBUのD−4を介して繋がればゼオライトAのフレームワーク(同図c)となり、また、6員環の面でD−6を介して繋がればホージャサイトのフレームワーク(同図d)を形成する。このように同種のTBUから組み立てられたゼオライトでも、TBUの連結様式によって、化学構造中での間隙・空洞や孔路の大きさや形状が様々に異なっている。

 

   2) ゼオライトの分類

 ゼオライトは、その分類が、化学組成、フレームワークのSiO2/Al2O3分子比(ケイバン比)などに基づいて行われてきたが、交換性陽イオンが不定比であったり、単位胞当たりの水分子の数が定まらないなどのため、同一カテゴリーに含まれるものでもその構造は多様である。このためフレームワーク構成における基本構造単位のつながり方(四面体の連結様式)、とくにSBUの組み込まれ方を基準にして分類するのが普通になっている。構造未決定のゼオライトもあるが、今までに解明された構造をもとにして類別すると次のようである。

 

@ホウフッ石群−晶系が等軸または偽等軸で、あまり大きな孔隙や空洞をもたない。含水量も少ない。代表的なゼオライトの種類は、analcite、wairakiteなど。

Aホウソーダ石群−等軸または偽等軸である点はホウフッ石と似ているが、こちらには大きな空洞がありゼオライトの特徴をよく具備している。sodalite,ultramarineなどがある。

Bリヨウフッ石群−等軸晶系に属さず、異方性がある。大きい空洞を有す点はゼオライトの代表的な構造を持つ一群である。吸着、イオン交換などゼオライトの特徴的な諸性質がはじめて明らかにされた天然ゼオライトのリョウフッ石(chabazite)で代表される。faujasite,gmeliniteなどもある。

Cソーダフッ石群−結晶が繊維状形態に発達して産出することが多いので、繊維状フッ石の別名がある群。natroliteなどが代表的な種類。

Dジュウジフッ石群−十字架形の双晶となって産出することがあることから、十字沸石の名称が与えられた。構造は層状に広がった縮合形式が卓越しており、層間も縮合するので全体としては三次元の骨組みを構成する。phillipsite,harmotomeなどがある。

Eモルデンフッ石群−構造に四面体の五員環が含まれていることが特徴である。シリカに富むので陽イオンが少ない。水分子が比較的多く存在し、空洞に含まれるこの水は液体水に近い挙動をする。代表的なゼオライト種はmordeniteである。

 

 各グループ(群)の代表的なゼオライトについての、SBU,化学組成、ケイバン比、孔隙径などの詳細を第5表に掲げる。

 

 天然に必ずしも存在するとは限らないゼオライトとして、人工的に合成したゼオライトがある。リンデモレキュラーシーブとして知られているゼオライトA(A型ゼオライトともいい、3A、4A、5Aなどがあり、それぞれ、孔径がほぼ3Å、4Å、5Åである)は、最初の人工合成ゼオライトである。5Aは、直鎖状のn−パラフィンを吸着するが、炭素鎖が枝分かれて分子径の大きなi−パラフィンは吸わないので、両者を分離するのに利用できる。3Aは、水分子をとくに強く吸着する性質があり、強力脱水剤あるいは乾燥剤として多用されている。X−,Y−ゼオライトも合成されたが、後に、これらは天然のフォジャサイトと同じ骨格構造のゼオライトであることがわかった。ケイバン比の低いもの(Si/Al比が1.0〜1.4)をX型、高いもの(Si/Al比が1.9〜2.8)をY型と呼ぶ。A−,Y−ゼオライトを合成する時に、アルカリカチオンの代わりに第四アルキルアンモニウムイオンを用いると、ケイバン比の高いゼオライトが生じる。「テンプレートを用いる合成法」といわれているこの方法によって数十種類の高ケイバン比のゼオライト(高シリカゼオライト)が合成された。高シリカゼオライトの中にZSM−5というゼオライトがあり、これはアルコールからガソリンを合成する高性能触媒としての機能を有する。交換性陽イオンに銅を用いたZSM−5は、優れた窒素酸化物分解能があることがわかっている。

 

 第2節 ゼオライトの一般的特性

 

  第1項 イオン交換機能

 ゼオライトは、4配位アルミニウムに基づく負電荷を多数持っているので、最も重要な特性として、各種イオンを可逆的に交換できることがあげられる。イオン交換機能を直接活用する利用はもちろんのこと、イオン交換反応によって、ゼオライト結晶構造内の孔隙径、静電場の方向や強度などを変化させると、好都合な諸特性を持つゼオライトに改善できる。

 

   1) イオン交換反応

 塩化アンモニウムなどの塩を溶かした水溶液に、ある種の高分子物質を添加して撹拌放置すると、溶液中のアンモニウムイオンが減少し、これと平行してナトリウムイオンとかマグネシウムイオンなどの陽イオンが液中に現れてくることがある。この現象は、高分子物質の負電荷部位に最初に結合していた陽イオン(ナトリウムイオンとかマグネシウムイオンなど)が、溶液中の別の陽イオン(アンモニウムイオンなど)によって追い出されて、負電荷部位が新たにアンモニウムイオンなど別の陽イオンと結合しなおすことによって、起こる。一般的に、高分子物質の電荷を中和するため電荷の位置付近に結合していた陽あるいは陰イオンが、別のイオンと置き換わる反応を、イオン交換反応、という。荷電を帯びた高分子物質のことを、イオン交換体といい、無機質交換体と有機質交換体とがある。イオン交換反応は、1800年代の中ごろにはすでに発見されていたが、この反応を実用的に利用し始めたのは20世紀初頭に入ってからであり、ドイツにおいて無機質イオン交換体を用いた水軟化装置が開発されたが最初であるといわれており、歴史的には比較的新しい。

 

   2) イオン交換容量

 イオン交換体は、それ固有のイオン交換基を一定量持つ。水に溶けたいろいろなイオンが、交換基を介して交換体に付着しているイオンと交換反応を起こし置換する場合、この反応は、普通、化学量論的に進んでいく。例えば、負電荷部位を陽電荷を有すNaイオンで飽和したイオン交換樹脂で、CaやMgイオンを含む硬水を軟化処理する場合を考えるてみる。一個のCaあるいはMgイオンが樹脂の負電荷部位に着すると、2個のNaイオンが出てくる。この反応はイオン交換であり、当量的に1:1の関係が成立する。樹脂に保持されているNaイオンの量が多いほど、多量の硬水を処理できる。保持量は、樹脂の単位量当たりの負電荷部位の数が多いほど、大きい。この場合、イオン交換容量は、単位量当たりの負電荷の量(陰イオン交換体の場合は、陽荷電の量)である。交換容量の単位は、イオン交換体100g当たりのミリグラム当量(meq)で表現されることが多い。

 

   3) イオン交換平衡

 ある陽イオンまたは陰イオンで飽和したイオン交換体に、別のイオンが接近すると、イオン交換反応がおこり、荷電部位に付着していたイオンは離脱し別のイオンがこの部位に付着する。このようなイオンの交換は、ある時間が経過すると止まってしまうが、すべでのイオンが完全に交換してしまうことはない。この状態をイオン交換が平衡に達したという。イオン交換は活性化を必要とせず、交換の速度は大きい。多くの場合、交換平衡に到達する時間は、1.5〜2時間以内である。

 

   4) イオン交換選択性

 

 

RA+ +SB+ → RB+ +SA+

このイオン交換平衡式で、

R:イオン交換体、S:溶液とする。

 

イオン交換体の種類、共存するイオン、 イオン濃度などによって、交換平衡は異なる。

 イオン交換体(R)がイオンA+またはB+にたいして示す選択性が重要である。

 

A+(S)とB+(S)が同当量あっても、A+(R)とB+(R)の量は等しくないのが普通。なぜなら、A+に対する選択性とB+に対する選択性が異なるから。

 

 

A+(R)+B+(S)→B+(R)+A+(S)

 

左側あるいは右側に動く交換反応速度をそれぞれ、v1あるいはv2とすると、

 

  v1 = k1[AR][BS]

  v2 = k2[BR][AS]

と記述できる。

 

ここで、k1、k2 は反応速度定数。

AR]、[BS]、[BR]、[AS]は濃度

(mol/L)で、それぞれ、交換体上のAイオン、溶液中のBイオン、交換体上のBイオン、溶液中のAイオンを示す。

平衡に達したときは v1=v2 なので、

  k1[AR][BS]=k2[BR][AS]

([BR][AS])/([AR][BS]) = k1/k2 = Kab (一定) 

  Kab は交換平衡定数であるが、この値を選択性の尺度に利用する。

   イオン交換体の表面において、A+に比べB+がどれくらい選択的に保持されてい   るかわしめす度合い。A+を基準にしたB+の選択係数と定義する。

 

 

Kab = 1  A+とB+の選択性は同じ

Kab < 1  A+に対する選択性が大

Kab > 1 B+に対する選択性が大

何故かというと、

Kab =([BR][AS])/([AR][BS])なので、濃度を当量分率Xで置き換えれば、

 

XBR/XBS = Kab(1−XBr)/(1−XBS)となる。

XBR : イオン交換体に保持されているB+の当量分率(量)。

XBS : 溶液中に存在する(イオン交換体に保持さてない)B+の当量分率(量)。

XBR/XBS : 保持されたB+と保持されず溶液中に浮遊しているB+の量の分配の率。

ここで、

  XBR =[BR]/CR、 CR =[BR]+[AR]

     CR : 電気的二重層の内部での、交換性陽イオンA+とB+の濃度の和(   交換体に吸着している陽イオンの合量と見なせる)。

 

  XBS =[BS]/CS、 CS =[BS]+[AS]

    CS : 溶液中での交換性陽イオンA+とB+の濃度の和(交換体に吸着して  ない陽イオンの合量と見なせる)。

 

 

XBR/XBS が1より大きいか小さいということは、B+がA+に比べて選択的に交換基に保持されるか否かを示す。

 

 

XBR/XBS > 1 であれば、つまり B+に対して選択性が大であれば、

XBR>XBS となり、 

従って、(1−XBr)/(1−XBS)<1となる

よって、Kab>1でなければいけない(B+に対する選択性が、A+よりも大きい)

 

・モンモリロナイト(Mt)についての選択係数(Kab)

  等価イオンどうしの交換の場合

   KNaCs=54〜2、KNaNH4=7〜3、KCaBa=1.1

    一価イオンの場合:

     Li<Na<K<NH4<Rb<Cs の順に後ほど選択性が大きい

 

 

選択性とイオン半径の関係は、一般的に、イオンの大きさが大きいほど、選択性は大きい

 

     Li(0.60Å)<Na(0.90Å)<K(1.33Å)<

     Rb(1.48Å)<Cs(1.69Å)

   イオン半径が大きいほど、和水半径が小さいため、交換体表面の負電荷とイオン   間の静電的結合力が大きくなる。

 

   イオン半径 r1>r2とすると 和水半径は R1<R2

   クーロン力は f=k・qr.q/L2

     f:クーロン力、k:定数、qr:コロイド表面の電荷、q:イオンの電荷、     L:コロイド表面の電荷とイオンの中心までの距離

 

・異価の陽イオンを含む交換平衡

  1価と2価の陽イオンの交換

 

A2+(R)+2B+(S)→

2B+(R)+A2+(S)

 

Rはイオン交換体、Sは溶液を示す。

 

イオン交換平衡定数(Kab)

   質量作用の法則より

     Kab = ([BR]2[AS])/([AR][BS]2) となる

       [BR]:交換体表面のBイオン濃度、[AS]:溶液中のAイオン濃度

       [AR]:交換体表面のAイオン濃度、[BS]:溶液中のBイオン濃度

  濃度を当量分率で置き換えれば、

   (XBR/XBS)2 = Kab・(CS/CR)・(1−XBR)/(1−XBS)     となる

 

A2+に比べてB+が選択的に交換基に保持される時には、

  Kab・(CS/CR)が1より大きい

B+に比べてA2+選択的に交換基に保持される時には、

  Kab・(CS/CR)が1より小さい

Kab・(CS/CR)を選択係数として使える

 

 

   5) ゼオライトのイオン交換部位

 天然のゼオライトが高いイオン交換能をもっていることから、ゼオライトという言葉がイオン交換体の総称に用いられたことがある。ゼオライト、例えば、ホージャサイトのイオン交換部位は、サイトI(SI)、サイトII(SII)、サイトIII(SIII)と呼ばれる3種類の部位が存在する。第15図に示したように、構造中のソーダライト単位(β−ケージ)どうしを連結する六角柱(6員二重環)の内部にSIIIがあり、このサイトはエネルギー的には最も安定性が大きく不活発である。

 

  第2項 吸着機能

 ゼオライトは、いろいろなものを吸着するという働きをする。この吸着機能に着目してゼオライトを利用する場合に必要な吸着に関する基礎事項を以下に述べる。

 気相や液相の中に固体を置いた時、気体や溶質が固体表面に付着することがある。この現象は代表的な吸着現象である。押し入れや冷蔵庫の臭気の除去、インクで着色した水の脱色、袋の中でお菓子が湿るのを防ぐ乾燥などは、活性炭やシリカゲルなどの固体による吸着現象の利用である。臭気、色素成分、や水分子などの吸着される物質を「吸着質」、活性炭やシリカゲルなど、その表面で吸着を起こしている固体物質を「吸着剤」あるいは「吸着媒」という。

 吸着質と吸着剤との間には引力(吸着力)が作用している。吸着力は様々な機構で発生し、するいろいろな種類がある。主な吸着力を分類して示せば、下記のようである。

 

   1) 物理吸着と化学吸着

 吸着は、吸着力の性質によって、物理吸着と化学吸着に大別することが多い。吸着力が比較的弱い場合は前者、強い場合には後者となる。両者の相違をあげると次のようである。物理吸着は凝集現象と似ており、吸着質がさまざまな種類の液相、気相であっても起こり、ふつう可逆的であるが、化学吸着は吸着質と吸着剤との間に化学結合を形成する場合にのみ起こり、多くは不可逆的である。物理吸着では、吸着質分子が数分子層の厚みをなして付着し、温度が高くなれば付着量は減少する。一方、化学吸着では、吸着分子は一分子層を成すだけでたいていの反応は完結し、高温度になるほど吸着量が増加することが多いうえ、ある大きさの活性化エネルギーを要する。

 

   2) 吸着現象に係わる力(吸着力)の種類

 

     1.ファン・デル・ワールス力

 吸着担体および吸着される分子に含まれる電子の分布状態が変動することによって、担体表面と吸着分子の間に発生する力である。電子分布の変動によって、瞬間的に電気的な偏りや双極子が生じて、きわめて弱い静電気的な力が現れる。この力による吸着熱は通常ごく小さい値で、1〜2kcal/mol位であるが、原子数の多い分子では、大きくなる。

 

     2.疎水性結合力

 炭化水素などの非極性化合物を溶質として液体状態の水中に入れると、この化合物を取り囲む水分子の部分が氷に似た固体の近い構造に作り変えられる。水分子は、このような構造中では液体よりも秩序ある形で整列しており、溶液系全体のエントロピーを減少させる。系のエントロピーは増大する方向に進むのが普通であるので、これは熱力学的には都合の悪い状態である。もし溶質が互いにくっついたり、担体表面に付着して非極性の部分と相互作用を持つ機会が増えてくると、水分子は配列に秩序性の少ないエントロピーの高い状態に戻る。高いエントロピーレベルの方が、正常な液体状態で、熱力学的に安定である。したがって、疎水性の物質は、水分子からできるだけ離れて疎水的な領域に吸着しやすい。つまり、疎水性物質は、水中では水分子の配列構造に変化を与えないよう(熱力学的に不安定な状態を避けるため)、お互いに会合したり、疎水性表面があれば、その表面に集まる傾向を示すのである。

 

     3.水素結合力

例えば水分子は、酸素原子と水素原子の電気陰性度の違いから酸素原子近くに多くの電子が分布する。そのため、酸素部分が負、水素部分が正に帯電し、電気的な極が出現する。逆の符号を持つ極どうしが、接近し結合する力が水素結合である。この力は、水だけでなく、O−HやN−Hのような結合を含む物質に生じることが多い。

 

     4.配位子交換力

ある分子が保持されている吸着担体の表面に別種類の分子が接近してきた時、この別分子が担体表面の構造部分と強いキレート結合を作る場合には、接近分子によって保持分子が置き換えられる。配位子交換力ちは、この置換プロセスに作用する力である。ふつう、キレート生成定数の大きい化合物ほど強く吸着される。

 

     5.静電引力

イオンなどの荷電粒子間にはクーロン力が働くが、電気的な符号が異なる場合には引力となる。この引力による結合エネルギーは、50kcal/モルにも達するほど大きい。

しかし、溶媒が存在する場合には、担体表面および吸着される分子は、溶媒和による影響を受ける。水が溶媒であると、イオンは強く和水し半径が大きくなるので、単純にイオン半径だけから引力の大きさを見積もることはできない。

 

     6.双極子どうしの相互作用力

担体表面の化学構造および吸着する分子が双極子能率を持つ場合、互いに異なる極どうしが引き合うことにより現れる力。

 

     7.化学結合力

 ある分子が担体と間で、化学反応を起こし、共有結合のような強い化学結合力が生じることがある。このような結合力は、大きな吸着熱(ふつう、30〜50kcal/モル、場合によっては、100kcal/モルを越えることもある)をもたらす。この力による吸着は、著しく薄い濃度であっても、吸着飽和に達するように、分子は強くくっついてしまう。一般的な吸着と違い、高い温度下においても、この様式の吸着は起こる。

 

 吸着現象には一つだけでなく複数の力が関与することが多いが、どの力が吸着力の主因子であるかは、担体と吸着分子の化学構造によって決まる。

 

   3) ギブスの吸着理論

 熱力学的には、表面近くの吸着質濃度から、気相や液相内部の濃度を差し引いた余分の成分量が、吸着量と定義されている。吸着量を表すのに古典力学的なGibbsの式を使って説明できる。

 

     1.Gibbsの式

 二相の界面における物質の吸着(例えば、水に溶けたアセトンを活性炭に吸着させる場合、固体相は活性炭と液体相は水、吸着される物質はアセトンである)において、次の式が成立する。これをGibbsの式という。

 

Γ = −C/RT(∂γ/∂C)

 

Γ:界面(水に懸濁している活性炭の表面)の単位表面積における濃度(アセトン濃度)の過剰量。つまり、液相のアセトン濃度と表面でのアセトン濃度の差。アセトンの吸着量に相当する。

C:濃度。この場合、アセトン濃度。R:気体定数。T:絶対温度。γ:表面張力、この場合、アセトン水溶液の表面張力。

 

溶けている物質の濃度が増加する時、溶液の表面張力が減少するならば(溶液の表面張力を減少させるような性質の物質ならば)、(∂γ/∂C)<0となるからΓは正となり、界面での濃度が増え正吸着が起こる。

 

反対に、溶けている物質の濃度が増加する時、溶液の表面張力が増加するならば(溶液の表面張力を増加させるような性質の物質ならば)、(∂γ/∂C)>0となるからΓは負となり、界面での濃度が減り負吸着が起こる。

 

Gibbsの式は、元来、熱力学的に導かれた公式であり、気相−固体、液相−固体に限られることなく、二相の界面で起こる吸着には、相の種類には無関係に当てはまる基本的な理論式である。吸着質の濃度変化に伴う、二相の界面張力の変化が分かると、この式から吸着の難易を、見積もったり、予測することができる。

 

水の表面張力は20℃で72dyne/cm。

メタノールなどの有機溶剤は、20dyne/cm前後で、水に比べ小さい。

水およびメタノールなどの有機溶媒に有機物を同じ量だけ溶かして、それぞれの表面張力を測定すると、張力低下は、水溶液の方が有機溶媒より大きいのが普通である。

Gibbsの理論より、一般的に有機化合物は、水溶液からの吸着の方が有機溶媒からの吸着より容易に起こることがわかる。例えば、活性炭によるABS(合成洗剤の一種位)の吸着。ABSは界面活性効果があるので、溶けた時、水の表面張力は著しく小さくなる(泡立つようになる)。ABSは水溶液から吸着されやすい。

 

吸着量を求めるには、吸着反応後の吸着剤の重量増加から計算したり、気相からの場合には吸着質の分圧変化を、液相からの場合には吸着質の濃度変化を測定して算出するのが一般的な方法である。吸着量は、吸着剤の単位表面積当たりの吸着質重量、あるいは、吸着剤の単位重量当たりの吸着質重量で表すことが多い。吸着反応が平衡に達した時の吸着量(v)は、液相の濃度(c)あるいは気相の平衡圧(p)と、温度(t)の関数であることがわかっている。

      v=f(p,t) あるいは v=f(p,t)

 

温度が一定ならば、吸着量は、cあるいはpだけの関数になる。

      v=f(c)  あるいは  v=f(p)

この関係式を使って、vを、cあるいはpに対して点綴したグラフは、吸着等温線として知られている。

 

   4) 吸着平衡

 液体や気体状態にある吸着質を吸着剤と混ぜたり接触すると、吸着反応が始まり進行するが、ある時間が経過すると見掛け上反応は止まる。この時、吸着質が、吸着剤にくっ付く速さと(吸着速度)と吸着剤から離れる速さ(脱着速度)が、ちょうど同じになっており、吸着が平衡に達した状態にある。この状態は、吸着等温平衡といわれており、、温度、圧力、吸着剤の濃度などにより異なる。吸着平衡の下では、単位量当たりの吸着剤に吸着した吸着質の量(吸着量)を縦軸に、吸着してない吸着質の濃度(平衡濃度)あるいは圧力(平衡圧)を横軸にプロットして作成したグラフ(吸着等温線)を基にして、吸着現象を解析できる。吸着等温線の形状から、吸着様式を、ヘンリー型、ラングミュア型、フロインドリッヒ型、B.E.T型などに分け整理できることが多い。

 

     1.ヘンリー型吸着

 吸着量が平衡濃度あるいは平衡圧に直線的に比例するような吸着様式を、ヘンリー型という。

     v=ac あるいは v=ac  aは定数。

 

吸着質がごく低濃度の有機化合物の場合に、この型の吸着等温線が適用できることがある。グラフの形から直線平衡といわれることもある。

 

 

     2.ラングミュア型吸着

吸着力が作用するのは単分子層の厚さ程度で、これより遠く離れた距離には吸着が起らない、と仮定したモデルから導いた理論式(ラングミュア式)に当てはまる吸着様式の一タイプである。湖のタイプ吸着は、単分子層吸着ともいわれる。

  

  v=Xm・K・c/(1+K・c)

 

v:吸着量、c:平衡濃度、XmとKは定数。

濃度が高くなると(c→∞ のとき) v→Xm となり、Xmは一定値に近づくので、

Xmを最大吸着量(飽和吸着量)、Kを吸着エネルギー定数という。Kが大きいほど表面での結合エネルギーが高い。Kの単位(ディメンジョン)は、濃度の逆数になる。

 

ラングミュア式に従う吸着は、吸着質が吸着剤表面の吸着部位に単分子層で吸着していることを示す。

 

cが十分に小さい場合には、K・c<<1となってしまうので、上式は

v=Xm・K・c となる。 XmおよびKは定数なので、Xm・K=a(定数)とおくと、v=ac となる。この式は、吸着量が平衡濃度に正比例するヘンリー型である。

つまり、ラングミュア型吸着は、低濃度範囲ではヘンリー型吸着に近似できる。

 

 

ラングミュア式を直線式に変形すると、

 C/V=1/(K・Xm)+C/Xm

実際にKとXmを求めるには、実験によってcとvを測定し、縦軸にc/v、横軸に1/cをとった吸着等温線を描き、直線の勾配からXmを求め、Y切片からKを知ることができる。

 

ラングミュアの二項式

 吸着剤表面に性質の異なる二種類の吸着部位が存在する場合には、次のようなラングミュア式に従う。

  v=XmI・KI・c/(1+KI・c)+XmII・KII・c/(1+KII・c)

   XmI、KIは第1吸着部位に対する最大吸着量と吸着エネルギー定数。

   XmII、KIIは第2吸着部位に対する最大吸着量と吸着エネルギー定数。

 

  3.フロインドリッヒ型吸着

次の式に当てはまるタイプの吸着様式である。この式は、元来、経験的に見出された実験式である。

 

 

    1/n

   V=a・C

     V:吸着量、C:平衡濃度、n:定数。

 

     実験式を与えるのみで、理論的根拠はないとされていたが、不均一表面の吸着理論で得られる吸着量と吸着熱との関係に、この式が対応するといわれている。

 

両辺の対数をとると、次のフロインドリッヒ直線式が得られる。

   lnV=lna+lnC/n     lnは自然対数

 

フロインドリッヒ型吸着の場合には、吸着量と平衡濃度を両対数グラフにプロットすると直線関係が得られる。勾配から1/nを求め、nを知ることができ、Y切片からaの値を計算できる。実験的に 1<n<10  となることが多い。容易に吸着が起こる場合には、nが2〜10の範囲である。nが2より小さい吸着剤は、吸着能が小さい。

 

 先述のにようにラングミュア型吸着は、吸着量が、低濃度側では濃度に正比例し、高濃度側では一定の値に近づくことから、中間濃度領域ではフロインドリッヒ式に当てはまることが知られている。

 

 

     4.B.E.T.型吸着

 Brunauer,Emett,Tellerは、吸着剤の表面に吸着質分子が、ラングミュア型のような単分子層吸着でなく、つぎつぎと何層にもわたって吸着するような多分子層吸着モデルを仮定して、次の吸着等温式を理論的に導き出した。

 

v=Vm・Em・x/[(1−x)(1−x+Em・x)]

 

ただし、x=c/sc

 

ここで、vは吸着量、cとscは吸着質の平衡濃度と吸着温度における飽和濃度;吸着質が気体の場合には、cは平衡圧で、scは気体の吸着温度での飽和蒸気圧、VmおよびEmは、吸着質が単分子層で吸着剤表面を覆った時の最大吸着量、および、その時の吸着エネルギーに関係する定数である。

 

上式は、3名の名前の頭文字をとって、B.E.T.と呼ばれる。

本式を変形して書き直すと、

 

 

x/[v(1−x)]=1/(Vm・Em) + x(Em−1)/(Vm・Em)

 

となる。

吸着実験で得られたデータを、x/[v(1−x)]を縦軸に、xを横軸にとり、プロトした時、直線関係になれば、その吸着様式はB.E.T.型である。直線の勾配とY切片から、VmおよびEmを求めることができる。

B.E.T.式は、0.05≦x≦0.35の範囲でうまく適合することが多い。

 

B.E.T.型吸着でcがscに対して著しく小さい場合の吸着は、単分子層吸着となり、ラングミュア型吸着に一致することがわかっている。

 

 

  第3項 触媒機能

 触媒とは、化学反応の最終生成物に現れることなく、その反応の速度を変化させる物質である。ゼオライトの触媒機能は、この物質が固体酸性を発現することによる。その固体酸性の発現は、次のメカニズムが考えられている。ゼオライトの陽イオン交換部位に水素イオンが吸着(水素型ゼオライト)していると、この水素イオンに基づく酸性(ブレンスッテド酸性)が現れる。加熱などによって、構造中に生じた配位不飽和のアルミニウムの電子受容性に起因する酸性(ルイス酸性)が出現する。水素型ゼオライトは、交換性陽イオンを水素イオンに置き換えて調製する。この調製は、アンモニウ塩の水溶液などで処理したアンモニウム型ゼオライトを250〜300℃で加熱処理すると、アンモニアガス(NH3)が脱離し、水素型ゼオライトが残る(第16図a)。酸に対して構造が強固なゼオライト(モルデナイト、ZSMー5など)は、薄い鉱酸の水溶液で処理して、直接、水素型転換することができる。水素型ゼオライトを、500℃ぐらいの温度で加熱すると、水素イオンとゼオライト本体の酸素が結び付き、水分子が生じて、脱水する。この脱水時に、一部のアルミニウムが配位不飽和状態になる(第16図b)。ゼオライトに水素イオンを生じさせる別の方法には、交換性陽イオンをアルカリ土類金属や希土類金属などの多価金属陽イオンに変えて、水分子を作用させる仕方がある。金属イオンとゼオライト構造の間に作用している強い静電場の働きによって、イオンに和水している水分子が分極して水素イオンが出来る。水の分極により、ゼオライトの電荷分布はより安定した状態に落ち着く。固体酸性の強度はゼオライトを構成するケイ素原子とAl原子のモル量比(ケイバン比)が大きいほど強い傾向があるので、ケイバン比の高いゼオライトほど触媒活性が高いことが多い。

 ゼオライトは、結晶構造そのものが特定サイズの開孔部を持っている。そのため、数Å〜十数Åの範囲内の特定の細孔径を持ち、特定サイズより大きい分子の内部進入を妨げる(分子フルイ作用)。したがって、ゼオライトによる触媒反応の形式は、細孔内反応となることが多いだけでなく、特定サイズ以上の分子の反応と生成を禁止する作用(形状選択性)を持つ。

 新しいタイプのゼオライトであるZSMー5は、その特殊な細孔径により特定サイズ以下の炭化水素をメタノールから効果的に合成する触媒となる。

 

 ゼオライトについてのようにまとめることができる。鉱物学的にフッセキ類に分類され、3次元網目状構造をもつテクトアルミノケイ酸塩。化学構造は、ケイ素(Si)とその回りに存在する4個の酸素(O)がsp3混成軌道を形成することによって結合したSi四面体と、この四面体のSiに代わってアルムニウム(Al)が置換したAl四面体(4配位Al)とを主な構成要素としており、これらの四面体どうしが4つの頂点を共有するように連結した形に組み立てられている。化学組成の一般式は,XmYnO2n・SH2O(X=Na,K,Ca,まれにBa,Sr,Y=Si+Al(Si/Al>1),S=不定)。多孔質の構造中には、加熱や脱気により容易に脱水さる弱く保持された水(フッセキ水)とを含む。また、多くは陽イオン交換能を持っている。この交換能は、4配位Alの位置にAlとOの電気的アンバランスに基づく永久的負電荷が発生するためである。交換容量がpHにほとんど依存しないことから、ゼオライトは安定した陽イオン交換体となる。ゼオライトは、天然産のものや触媒等に使う高純度の合成物の他、石炭灰、製紙スラッジ焼却灰、活性汚泥焼却灰などの廃棄物からも簡単な処理で”人工ゼオライト”として安価に得ることができる。”人工ゼオライト”の陽イオン交換能は、市販の天然産ゼオライト資材のそれと比べ、同等あるい約3倍も大きい。1984年、地力増進法に基ずく土壌改良資材の一つに指定されたことから、農畜産方面でのゼオライトの使用は飛躍的に増加しつつある。この方面での”人工ゼオライト”の利用が、環境保全とも結びついて開発されている。

 

第3章 石炭灰のゼオライト転換法

第1節 石炭灰そのままでのゼオライト転換

第1項 実験室的規模でのゼオライト転換

   1)フライアッシュのゼオライト転換

 1)−1 フィリップサイト、ホージャサイト、水和ソーダライトへの転換

 すでに述べたように、石炭灰は、無機質成分が燃焼の後に酸化物などとして残ったものから大部分が成っている。炭種の違いによって、化学組成に多少の相違は有るが,主な成分はSiO2 およびAl2O3 であって、少量のFe2O3 や微量のMg,Ca,P,Tiなどの酸化物を含む。組成から、石炭灰は不純物を含んだケイ酸アルミニウムであるとみなしてよい。供試試料として用いた石炭灰は、火力発電所の煙道の気流中から採取した灰である。反応性の高い粒径の小さいものを集めるために、この灰を44umの網フルイでふるって通過する部分(以下、フライアッシュと呼ぶ)を選んだ。本石炭灰試料の化学組成を第6表に示す。実験は、次の反応条件で行った。フライアッシュ20gを1リットル容の三角フラスコに取り、これに3.5M NaOHの水溶液を160ml加えスラリーとした。 三角フラスコに還流冷却管を取り付け、ホットプレート上でスラリーを80−90 Cにて48、62、81及び108時間ほど加熱し反応させた(第17図)。反応後、過剰に残っているNaOHを、遠心分離器を使い水で洗浄除去し、風乾して粉末を得た。 この粉末試料をX線回折法で分析し、反応生成物を調べた。なお、分析の条件は次のようである。

X線回折装置  理学電機株式会社製ガイ             ガーフレックス

         RAD−IIA 型 

使用X線     Cu−Ka 線

X線管球電圧   30 KV

X線管球電流   10 mA

発散スリット   1

散乱防止スリット 1

 

受光スリット   0.6 mm

モノクロメータ  湾曲単結晶グラファイト              モノクロメータ

モノクロメータ

受光スリット   0.8 mm

試料量      250 mg

測定温度     室温

試料ホルダー   粉末無配向用アルミニウムホルダー

 

実験結果および考察

  原料のフライアッシュおよび62ならびに108時間反応させた成生物について測定したX線回折図を第18図に示した。 第18図のaは、フライアッシュから得たX線回

折図で、7.9A付近に最大強度を持つ幅広い回折帯に加えて、何本かの鋭い回折ピークが出現している。一般に、不燃性の鉱物成分は、石炭の燃焼時に高温にさらされるために、溶融し、冷却した石炭灰中には非晶質ガラス状となって存在していることが多い。このガラスに起因する幅広い回折パターンが主として現れている。鋭いピークは、少量含まれる石英(石炭中にもとから含まれていた結晶性鉱物で、融解することなしにそのまま灰の中に残存しているのであろう)や、高温状態で生じたわずかなムライト(カオリナイトなどの層状ケイ酸アルミニウム粘土を原料にした焼き物の主成分として知られている)による。このフライアッシュをアルカリと反応させた時、反応生成物のX線回折図(第18図のbおよびc)には、数多くの回折ピークが新しく現れた。これより、生成物中には、原料フライアッシュには含まれていなかった結晶性物質が新たに生じていることがわかる。回折ピークの相対強度およびピーク位置から読み取った結晶面間隔(d値)を、Inorganic Index to the PowderDiffraction Fileに照らし合わせたところ、この生成物はホージャサイト(14.3,8.7,7.4,5.7,4.4および3.8 A)およびフィリップサイト(7.1,5.0,4.1および3.2 A)であることがわかった。 反応時間が長くなると、生成物のX線回折図は、7.1,5.0,4.1および3.2 A のピーク強度が著しく増加した(第18図のc)。 このことは、長時間反応させることによって、生成物中のフィリップサイトの含量が増大することを示している。 そこで、それぞれ、ホージャサイトおよびフィリップサイトに起因する特徴的な回折ピーク14.3,5.7と3.8 Aおよび7.1,4.1と3.2 Aについて、それらのピーク強度を反応時間に対してプロットしてみた(第19図、第20図)。 第19図に見られるように、ホージャサイトは、反応が進むにつれて60時間付近まで、その含量は増加していく。 しかし、さらに長い時間反応させると減少していった。 これに対して、フィリップサイトは、約60時間迄の反応では、徐々に含量が増えていくにすぎないが、それ以上の時間反応させると急速に増加した。これらのことから、加熱時間を変化させ反応を加減することによって、ホージャサイトあるいはフィリップサイトのうち目的とする生成物を収量よく得ることが可能であることがわかる。

  ホージャサイトやフィリップサイトは、その結晶格子の空洞には水分子が存在している。この水は、加熱または減圧することによって、結晶格子の構造を破壊することなしに、一部あるいは全部がかなり容易に脱水される。 このような水はふっ石水と呼ばれ、これを含む鉱物はゼオライトである。前述のようにゼオライトは、フッセキ石類に分類され、テクトケイ酸塩構造をとっている。つまり、SiO4 四面体と、この四面体のSiに代わってAlの置換したAlO4 四面体とが基本構成要素となって、構造が組み立てられている。 4配位のAlを含むAlO4 四面体のところに永久的負荷電が発生するため、一般的にゼオライトは高い陽イオン交換能をもっており、その交換容量はpHにほとんど依存しないことがわかっている。

 本フライアッシュ試料をアルカリと混合して加熱すればホージャサイトが生成することはすでに述べた。ホージャサイトは、Me2/nOAl2O32.4−6SiO2mH2O

(Meはアルカリまたはアルカリ土類金属で、nはその電荷)で表される化学組成を持っており、分子ふるい作用を有すると共に個体酸としての性質も発現するので、一定の直径以下の分子のみを選択的に吸着あるいは触媒する有用なゼオライトである。 一方、フィリップサイトは Harmotome-Philipsite グループに属するゼオライトの一種であり、その化学組成は、Na2OAl2O33.3−5.3SiO2nH2Oで表されるように、ホージャサイト型ゼオライトの組成に似ているが、結晶構造が異なるため、結晶格子の空洞(細孔)の大きさは約3.2 Aであってホージャサイトの細孔径(9−12 A)に比較してかなり小さい。このように、アルカリ処理で、石炭灰粒子を構成する成分原子を比較的簡単に並び変えることができることがわかったが、利用価値のより高いホージャサイトを効率よく合成するためには、アルカリ濃度、加熱温度、あるいは副原料を加えて反応させる場合にはその種類(シリカゲル、水ガラス、食塩など)等の検討が今後の課題として残っている。

 石炭フライアッシュとそのゼオライト化産物の走査型電子顕微鏡写真(A、B、C、D、E)を写真−1に示す(上左:A;上中:B;上右:C;下左:D;下右:E)。球状の石炭灰粒子(A)の表面にゼオライトが晶出している様子(B、C)がわかる。粒子表面のゼオライト層に亀裂の生じている部分が現れている(D)。亀裂が大きくなり、ついにゼオライト層がが剥がれてクラスト状になった小片が観察できる(E)。これらの写真から、ゼオライトの生成は、石炭灰の粒子表面から原料(ケイ素やアルミニウム成分)が溶出した直後にその場で直ちに起こる、か、表面での固相反応で起こると考えられる。石炭灰が完全に溶解した後に晶出する生成反応ではない。摩砕処理や音波処理で、石炭灰粒子表面のゼオライトを物理的あるいは機械的に剥ぎ落とすと、純粋なゼオライトを分離精製できる。未反応石炭灰と生成ゼオライトの機械的混合物となったミックスチャーから、遠心分離法や沈定法などで、ゼオライトを単離する。この時、pHを調整したり、分散剤を添加したりして、単離を容易にする処理を行うこともある。

 なお、実験室にて、少し多量(500g〜1Kg )に石炭灰をゼオライト化し必要な試料を調製する場合、筆者らは反応用の小型オートクレーブ(写真−2参照)を使っている。このオートクレーブにより、石炭灰は上記のゼオライトとほぼ同様なものに短時間で転換する。

 

 別のフライアッシュ試料を上述と同じ方法で反応させた場合について述べる。原料のフライアッシュおよび24時間反応させた成生物について、粉末無配向法で測定したX線回折パターンを第21図に、KBr錠剤法にて測定した赤外吸収スペクトルを第22図に示した。 第21図のaは、フライアッシュから得た回折パターンで、3.5A付近に最大強度を持つ幅広い回折帯を示している。 これより、このフライアッシュ試料は、微量の石英を含むことを除いて、ほとんど完全に非晶質であることが確認できる。 また、第23図のaの吸収スペクトルは、Si−O伸縮振動に起因するブロードな吸収帯が1000ないし1100cm-1 近くに現れており、フライアッシュが主としてケイ酸塩ガラスから成っていることを反映している。 これに対して、反応生成物の回折パターン(第21図のb)には、いくつもの鋭い回折ピークが出現しており、結晶性の物質が生じていることがわかる。 ピークの相対強度およびピーク位置から読み取った結晶面間隔(d値)に基づき、この反応物はソーダライトあるいは水和ソーダライトであることがわかった。赤外吸収スペクトル(第22図のb)も、ソーダライトのその吸収スペクトルにほとんど一致している。なお、スペクトルは示していないが、3400cm-1 付近のOH伸縮振動領域および1640cm-1 付近のH2O変角振動領域にも吸収が認められたことから、生成物中には水和ソーダライトも含まれていると考えてよい。 ソーダライトは、ゼオライト骨格構造の代表例的な化学構造を有しているが、化学組成がNa4Al3Si3O12Clで表されるように水(いわゆる、ふっ石水)を含んでいないためにゼオライトではなく、ゼオライトと類縁関係にある鉱物である。水和ソーダライトは、そのX線回折パターンはソーダライトのそれとほとんど同じであり、ソーダライトとほぼ同様の構造を持っているが、結晶格子の空洞にはゼオライト水が存在しているので、ゼオライトの一種である。反応生成物の陽イオン交換容量(CEC)を和田と岡村の方法によって測定したところ、10時間反応させて得られた生成物では250me/100gで、24時間反応物では 362me/100g であった。 一方、フライアッシュ試料のCECは 14me/100g であった。アルカリと24時間反応させることで、フライアッシュのCECは約26倍にも増大することがわかる。 10時間反応物のCECがそんなに大きくないのは、ゼオライト化がまだあまり進行していないためであろう。 事実、X線回折パターンおよび赤外吸収スペクトルから、10時間しか反応させなかった試料には、ソーダライトあるいは水和ソーダライトは少量しか生じていなことが示された。 純粋なソーダライトのCECは 920me/100g と大きい値であるので、反応が完結すれば24時間反応物よりもさらに大きいCECを持つ生成物の合成も可能であると考えられる。

 

   2) クリンカーアッシュ、製紙スラッジ焼却灰、活性汚泥焼却灰の      ゼオライト転換

微粉炭を燃やした時に生じる灰は、ボイラの底に落ちてくるスラッギング・アッシュ(クリンカーアッシュ)、燃焼ガスの流れに乗って飛び出すフライ・アッシュおよび粗粒のため煙道ですぐに節炭器下に落下するシンダ・アッシュに分類採集されることは前に述べた。著者等は、この灰は、シリカ(SiO2) およびアルミナ(Al2O3)を、それぞれ、40〜65%および25〜40%ぐらい含む純度のあまり高くないケイ酸アルミニウム質ガラスを主とすることから、粒径の細かい反応性に富む部分のフライアッシュをゼオライトに変える技法を見出した。石炭灰の粒径の粗い部分からもゼオライトを生じさせることが可能であれば同技法の適用範囲を拡張することができる。また、製紙工場の排水は、水質汚濁の大きな源になるとして問題になっている。伊予三島市や田子の浦など製紙工場が集中している地域では、BODを高めて水生生物に悪影響を及ぼすヘドロの被害を受けることが多い。製紙排水の主体は、マシン排水あるいは白水といわれ、BODが20ppmくらい含まれる。この排水は、SS(浮遊物)が多く、ほとんどが細かい繊維素およびクレー、白土などの充填材からなる。環境汚染を防ぐため、通常、製紙排水は処理されるが、この時、製紙スラッジが大量に生じる。スラッジは、かさばり、そのまま投棄すると広い処分場を要するので、最終的には焼却して灰にしてしまうことが多い。こうしてできた焼却灰は、年々増加するいっぽうで、灰捨地の確保の困難をきたすようになっている。下水処理場、し尿処理場などの水処理施設では、生物性汚泥を利用した生物的酸化処理によって水浄化を行う方法が広く用いられている。この方法は、膨大な量のスラッジケーキ(活性汚泥)を生じる。活性汚泥を処分するため、乾燥焼却処理されることが多いが、後に残る活性汚泥焼却灰も、製紙スラッジ焼却灰と同様に、灰捨地問題がある。汚泥発生量は、約9千万トンにものぼり、産業廃棄物総量の3分の1にも達すると言われている。このため、減量化とリサイクルの促進が大きな課題となっている。ここでは、クリンカーアッシュ、さらに、製紙産業から多量に廃棄される製紙スラッジ焼却灰や活性汚泥焼却灰についても、再利用方法の探索を目的として、この焼却灰を原料に使ってゼオライト転換を試行した。 クリンカーアッシュ、製紙スラッジ焼却灰、活性汚泥焼却灰は、石炭フライアッシュ灰と同様に主成分がケイ素とアルミニウムである。第7表に化学組成の分析例を示す。試料として用いたクリンカ・アッシュおよび製紙スラッジ焼却灰は、火力発電所および製紙工場からの廃棄物を採取したもので、以下、それぞれ、アッシュおよび焼却灰と呼ぶ。ゼオライト化の実験法は、先の方法に準じて行った。反応は、時間を変えて72時間まで行った。経時的(時間)に反応物を取り出し、夾雑するNaOHを水で洗浄除去し、風乾して一連の粉末試料を得た。これらの試料をX線回折法にて分析した。結晶面間隔(d値)の測定値から、反応生成物について、その種類とおよその量を反応時間と関係で調べた。

 陽イオン交換容量(CEC)の測定は、青峰および原田の方法に準じて行った。つまり、各風乾試料2.00gを30ml容の遠心分離管に取り、1N 酢酸カルシウム水溶液を約20ml加え、よくかき混ぜて一夜放置した。遠心分離して上澄み液を放棄し、この水溶液での洗浄を2回繰り返した後、1N 塩化カルシウム水溶液を約5mlと1N 酢酸カルシウム水溶液を約15ml加えて同様に洗浄した。置換反応に関与しなっかた過剰のカルシウム塩を除去するために、80%エチルアルコール水溶液を約20ml加えて撹はんし、遠心分離して上澄みをすてる。この洗浄は、上澄み液中に、硝酸銀で調べて塩素イオンが検出できなくなるまで繰り返した。次に、陽イオン交換点に吸着しているカルシウムイオンを、1N 塩化アンモニウム水溶液20mlを加えて遠心分離し抽出する操作を5回繰り返した。この溶液中のカルシウムイオンの量を、原子吸光分光光度法(Hitachi 508 AA Spectrophotometer)にて測定した。一方、風乾試料を105℃に加熱乾燥して重量法にて水分含量を求め、カルシウム測定値より、乾物試料100g当たりのCEC(me/100g)を算出した。

 結果は次のようである。NaOH水溶液と反応させた時、試料のX線回折パターンに現れる経時的変化を第23図および第24図に示した。アルカリ処理してない元の試料は、回折パターンから、アッシュ(第23図 A)および焼却灰(第24図 A)とも主としてガラス質成分から成っており、これにムライト(5.37 A)、セキエイ(4.23 A,3.34 A)などの結晶性成分を少量含んでいることがわかる。さらに、アッシュではチョウセキ(4.04 A)が、焼却灰では不明成分(3.52 A)がわずかに混入している。処理時間が経過するに従って、両試料は回折パターンが変わっており、反応生成物が生じたことがわかる。しかし、パターンの変化の様子が相違していることから、生成物の種類や量は、反応時間および元の試料の違いによって、かなり異なっている。 すなはち、アッシュ試料では、25時間反応させた場合、X線回折パターン(第23図 B)には、いくつかの強度の小さい回折ピークが新しく出現し、少量ながらフィリップサイト(7.14 A,5.01A,3.66 A,3.18 A)および和水ソーダライト(6.30 A)が生じている。一方、同じ時間反応させた焼却灰では、回折パターン(第24図 B)に比較的強度の大きいピークがいくつか新生しており、フィリップサイト(7.14 A,5.01A,4.08 A,3.18 A)と和水ソーダライト(6.30 A,3.63 A)に加えて、モルデナイト様成分(9.21 A, 3.10 A)がかなり生成している。72時間処理した場合、アッシュでは、ピーク強度にわずかに増大が認められるものの、7.7 Aの幅広い回折帯がなお残っており、未反応物が残存することがわかる(第23図 C)。これに対して、焼却灰では、7.7 Aの回折帯は72時間はもちろんのこと、25時間処理ですでに消滅しており、より速く反応が進んでいる(第24図 BとC)。そして、第24図 C から明らかなように、フィリップサイトに起因する回折ピークの強度がとくに増加しており、この成分が72時間処理の焼却灰中では量的に優勢になっている。アッシュと焼却灰の間で、反応の容易さおよび生成物に上述のような相違が見られたのは、両試料に化学組成や粒径などの違いがあるためと考えられる。

 アッシュあるいは焼却灰のNaOH処理で生じたフィリップサイト、和水ソーダライト、モルデナイト様成分は、ゼオライトないしはゼオライト類縁鉱物である。概してゼオライトは高い陽イオン交換能を発現しする。その交換容量はpHにほとんど依存しないことから、安定した陽イオン交換体である。第25図に、反応生成物について処理時間の経過に伴い測定したCECを示す。反応前の試料の測定値は、アッシュおよび焼却灰で、それぞれ、3および5me/100gであった。CEC測定値は、いずれの試料でも、約10時間の反応での急速な増加に続いて、ほぼ50時間までは徐々に増え続ける傾向にあった(第25図)。これ以上の処理時間では、アッシュのCECがわずかに増大した(第25図 B)のに対して、焼却灰のそれは再び大きく増加した(第25図 A)。本実験で最終的に得られたCECは、アッシュで177 me/100g、焼却灰で258 me/100gであり、前者および後者で、それぞれ、59倍および約52倍も大きくなった。このようなCECの増大は、先に延べたようなゼオライトの生成によることは明らかである。また、アッシュおよび焼却灰によるCECの増加の仕方の違いは、ゼオライト生成の様相(種類、量など)が両試料の間で相違していることに関係ある、と思われる。ここで得られたCEC値は、市販されている天然産ゼオライト資材のその値が150 me/100g前後であることを参考にすると、同等あるい1.7培も大きい。このことより、本実験のような方法でゼオライト化したアッシュや焼却灰は、比較的高性能のゼオライト資材であことがわかる。

 なお、活性汚泥焼却灰についても、石炭灰と同様に水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液と反応させることでゼオライトに転換できることをつけ加えておく。

 

第2項 プラントによる工業的規模でのゼオライト転換

 先述したように、ゼオライト転換するのに、ガラス器具や小型オートクレーブなどを用いて実験室的規模で石炭灰を処理するのでは量的に限界があり、実用的にはとうてい問題にならない。大量の石炭灰をゼオライト資材として使うためには、どうしても工業的に大規模でゼオライト転換するための装置が必要である。大量生産する試みが、ここ3年ほどなされ、最近、愛知県東海市に、筆者らの転換反応の原理を利用した石炭灰ゼオライト化大規模プラントが完成した。同プラントの全景写真および各工程の装置のクローズアップ写真を示す(写真−3参照)。同プラントによる石炭灰ゼオライト化のフローチャートを掲げる(第26図)。

 このプラントは、石炭灰を原料として化学的に加工処理することによってゼオライトをコマーシャル規模で人工的に製造し、廃棄物であった石炭灰を高付加価値を持つ製品に再資源化するものであり、この種のプラントとしては、世界で初めて開発・建設されたものである。粉末の人工ゼオライトのほか、いろいろな大きさに造粒成形したゼオライト資材をも提供する(写真−4)。

 中国、東ヨーロッパ諸国など、わが国に比べけた違いに大量の石炭を消費する国に、上述のようなゼオライト化プラントが建設されれば、各国において石炭灰が発生するその場所で廃棄物処理を兼ねてゼオライトを生産でき、経済的な原料・資材として様々な産業領域で活用できる。

 この種のプラントを、石炭灰を大量に廃出する施設、例えば石炭火力発電所やコールセンターなどと抱き合わせて各地に建設することで、ゴミ戦争の焦点ともなっている石炭灰処理問題の解決にも寄与できると考えられる。

 

 

第2節 副原料を添加した石炭灰のゼオライト転換

 

第1項 石炭灰を原料とするZSM−5の合成

 

 シリカ源(ケイ素富化剤)を加えて副原料とともに反応用オートクレーブにて反応することで、石炭灰を、高性能の固体酸触媒として知られているZSM−5に転換することができる。ZSM−5は、炭化水素の、異性化、アルキル化、クラッキングなどの化学反応を効率よく進行する触媒機能を持っている。固体酸触媒ZSM−5は、値段の高い薬品を原料として使い、製造工程が複雑であるため、価格的にみて著しく高い。このため、経済的に引き合う製品を合成するためだけの化学反応に限って、本触媒が用いられ、利用の範囲を限定しなければならないのが現状である。様々な反応、例えば、環境的立場で有害な成分(例えば、窒素酸化物、フロン等)の分解反応など、市場経済性の低い分野の反応にも広く使えるよう、低廉価な固体酸触媒を低コストで製造する方法の開発が待たれている。

 ZSM−5化の実施例を述べる。200mlのパイレックス製ビーカーに石炭フライアッシュ5g、濃硫酸7g、食塩2g、水50gを入れ、ホットプレート上でかき混ぜながら加熱した。冷却後、蒸発した分量だけ水を加え、水ガラスを20g、メチルエチルケトン4g、トリ−n−プロピルアミン4g、臭化n−プロピル2gを添加した。ビーカーごと反応用オートクレーブに移して、回転撹はん棒を200rpmで回転させながら、160℃、12気圧で36時間処理した。処理物を、水洗いした後、乾燥して粉末試料とした。この試料をX線回折法で分析した。第8表に、本試料ついて、X線回折図形の面間隔(d値:A)とピーク強度(回折強度)を示す。面間隔および回折強度データは、第9表に示したZSM−5純品のデータとほぼ一致した。このことから、本方法によって、高性能の固体酸触媒として知られている、ZSM−5タイプのゼオライトが製造できることがわかる。

 

     第8表

 

本実験で得た試料

 

面間隔(A) 回折強度   

11.3    S

10.1    S

7.5     W

7.1     W

6.2     W

6.0     W

5.57    W

5.03    W

4.65    W

4.21    W

3.88    VS

3.70    S

3.06    W

3.00    W

2.93    W

 

 

 

    第9表

 

比較に用いた純粋なZSM−5

 

面間隔(A) 回折強度   

11.1    S

10.0    S

7.4     W

7.1     W

6.3     W

6.0     W

5.56    W

5.01    W

4.60    W

4.25    W

3.85    VS

3.71    S

3.04    W

2.99    W

2.94    W

 

 

 なお、第8表、第9表とも、VS、S、Wは、それぞれ、著しく強い、強い、弱いを示す。このように、石炭灰のリサイクルを兼ねたてZSM−5を製造できる。ZSM−5の生成量が少ない場合には、沈定シリンダーで粒径に基づいて分離したり、酸、アルカリ、キレート剤などで未反応のシリカとアルミナを溶解除去などして濃縮が可能であろう。

 シリカ源として、従来再利用法がほとんどない廃ケイソウ土を利用することも可能であろう。廃ケイソウ土は、ビール醸造など食品工業の分野等で、濾過材、吸着材、脱色材などの用途で利用されたケイソウ土の廃棄物である。

 

「人工ゼオライトについて」

 

 主な成分がケイ素とアルミニウムからなる物質であるゼオライトは、吸着能、イオン交換能、触媒能など役立つ性質を持っているので、様々な用途に利用できる有用物質である。ゼオライトには、従来、天然産ゼオライトと合成ゼオライトがあった。天然産のものは、低廉価だが、性能的にそんなに良くなく、一方、合成したものは高性能だが、価格が高いという特徴がある。高い性能は要求しないが、廉価でないと合わないという分野での用途には天然物を、値段には糸目を付けないが、性能ができるだけ高くないといけない分野には合成物を、利用してきた。

 人工ゼオライトとは、火力発電所、製鉄所、工場などの石炭ボイラーから生じる廃棄物の石炭灰を簡単な化学反応で処理して得た物質である。この物質は、化学反応で生成したゼオライトを含んでおり、合成ゼオライトに近い高性能を持っているにもかかわらず、価格は天然産ゼオライトと同等あるいは安い。従って、人工ゼオライトの出現は、性能と価格でこれまで制限されていたゼオライト利用を、各種産業分野に大きく押し拡げる可能性を生み出した。処分に困っている廃棄石炭灰を再生資源化してリサイクルする点は、環境改善および資源枯渇問題をも解決する一助となる。

 石炭灰のアリカリ処理によって得られるゼオライト素材は、厳密に言えば、生じたゼオライトを含むアリカリ処理産物である。純粋なセオライトとは、特性・物性が異なる。これは、ゼオライト以外の、同定がきわめて困難なアリカリ処理産物に起因する。アリカリ処理産物は、反応が完結した場合にはゼオライトであるが、未反応部分もかなり残っており、ガラス質石炭灰から結晶質ゼオライトに至るまでの様々な段階の中間産物から成る。この中間生成物は、成分的に、石炭灰からゼオライトに至るいろいろな生成段階の各種物質からなる。化学構造的に不安的で、表面活性が大きい成分が多く、「人工ゼオライト」の諸特性の発現に対して、かなりの寄与があると思われる。ゼオライト以外の成分としては、中間生成物の他、未燃焼炭素分も存在する。その吸着能力など諸性質の発現メカニズムは、単純にゼオライトだけに起因しておらず、非ゼオライト部の成分や化学構造の解明との関連で、明らかにしなければならない箇所も数多く残されている。この不明な部分がこれからの研究で解きあかされれば、人工ゼオライトの製造・リサイクル技術は、さらに効果的になると考えられる。

 上述の方法で得た人工ゼオライトは、原料である石炭灰が高純度でないため、そんなに純度の高いものではない。高純粋品を要する分野・用途にも適合できるよう、きわめて純度の高い人工ゼオライトの生成法を研究し始めた。また、ゼオライトのみならず、層状ケイ酸塩など高純度のケイ酸アルミニウム系化合物を、石炭灰から合成することを試みている。最近の研究活動から、石炭灰から高純度のケイ素成分とアルミニウム成分を簡単な方法で抽出できる目処がついている。ゼオライトを含めて高純度ケイ酸アルミニウム系化合物が、石炭灰から合成できる見通しが立っている。

 

第4章 ゼオライト転換した石炭灰のリサイクル技術

 石炭灰をゼオライト転換処理して得られるゼオライトを「人工ゼオライト」と言う。その特性である吸着性、イオン交換性、触媒性などを活用して以下に述べるような各種用途に利用できる。

 ゼオライト転換した石炭灰の利点は次のようである。吸着やイオン交換の用途に、高価な活性炭やイオン交換樹脂を使用する場合には、リフレッシュ処理して再使用するのが従来一般的である。これに対して、ゼオライト転換した石炭灰を同様の目的に使用した場合、低廉価なので使いきりの利用が可能である。例えば廃水・廃液処理に利用した場合、次のような利点がある。廃水・廃液を吸着資材として活性炭やイオン交換樹脂で処理するやり方では、吸着飽和に達して処理能力の低下したこれらの資材を薬品などを用いてリフレッシュ処理して再び利用する。このリフレッシュ処理時に生じる、濃厚な廃水・廃液を何らかの方法で処理しなければいけないという大きな問題がある。ゼオライト転換した石炭灰で処理するやり方では、吸着飽和に達すれば、新しい資材と交換する。使用済みの資材は、廃水・廃液の成分を強く付着しており、このままガラス化など固形化処理して最終処理場に投棄できる。安価な資材は、1回だけの使いきりでも経済的な負担にはならない。リフレッシュ処理をしないので、濃厚廃水・廃液の問題はない。

 最近、大気汚染防止のためNoxの発生量を抑えることを目的としてボイラーの燃焼温度を1600℃から約1400℃に低下するなど、石炭を燃やすのに2段燃焼方式等を適用している。このため、カーボン含量が増加して、ほぼ3分の1が未燃焼の炭素から成るというような高炭素石炭灰が多量に排出されるようになりつつある。この石炭灰は、外観が黒っぽくなったり、灰粒子の形状も球形でないものが多くなり、フライアッシュJIS規格に適合しないものの量が増大している。未燃炭素分が増すと、セメント分野などに利用する場合、セメント2次製品が黒灰色化し、原料用途に適さなくなったり、コンクリート混和材に使った時充分なコンクリート強度が得れれない等の問題が生じ、この分野でのフライアッシュ利用にブレーキがかかってきている。本書で述べたような、ゼオライトに転換して資材として利用するやり方では、フライアッシュは形状が球形である必要はなく、また、未燃カーボンは活性炭様の働きをし、吸着能の増強に寄与するなど、かえって利点になることもある。

 

第1節 吸着機能を活用したリサイクル技術

第1項 消臭、脱臭、除臭への利用

 悪臭の問題は石炭燃焼との関連で古くから起こっていた。すでに、紀元前三世紀に、アリストテレスの弟子のテオフラストという哲学者が石炭燃焼に伴う不快臭気を取り上げている。石炭が燃えて出てくる煤煙と臭いにたまりかねて、これまで、すくなくとも2人のイギリス国王がロンドンから避難している。13世紀中ごろにエリアナ女王が、次に、約400年後にウイリアム三世が、空気のきれいな悪臭のない地方に住居を移したのである 。エドワード一世は(1239〜1307年)石炭焚き暖炉からでる排煙に困り果て、ロンドン中の暖炉を薪焚きに変えるよう条例を作ったほどである。

 悪臭の発生は一種の公害である。製紙工場、家畜・家禽の飼育場、化学工場などから、悪臭や不快な異臭が放たれていることが多い。家庭内では、台所の腐敗した厨芥、ペットの排泄物などが悪臭源になりやすい。臭いの強さは、ふつう空気単位体積中に含まれる臭気成分の量(濃度)に依存するが、種々の成分が混在する場合には、単純に濃度だけでは決まらない。臭気の影響は、人によっても異なり、喘息や心臓病など身体的不調を持つ人、神経質な人には、とくに大きい。悪臭の成分は、単に不快感を与えるだけでなく、健康を損なう有害物資として作用することもある。パルプ工場の蒸解装置からのエチルメルカプタン(スカンク臭)、ジメチルサルファイド(腐乱キャベツ臭)、硫化水素、などは微量でも臭気を放つ有毒成分である。とくに、腐った卵の臭いとして有名な硫化水素は、呼吸器を司る神経系に対して強い毒性を現し、致死量は猛毒の青酸ガスにも匹敵する。製鉄所のコークス炉からの排ガスには、煤煙や粉塵だけでなく、硫化水素、フェノール、アンモニアガスなども含まれる。石油精製所の、分解蒸留装置からはメルカプタンが、廃ガス貯蔵タンクからはフェノール、ナフテン酸、硫化水素が放出される。家畜処理・加工工場の廃水は、硫化水素、腐肉臭のプトレシン、糞便臭のスカトール、汗臭の酪酸などが混在しており、タンパク質が腐ったような耐えがたい悪臭を発する。ペンキ、ニス、有機溶剤、ビニール、プラスチックなどの製造工程で発生する炭化水素も悪臭を放つ有毒ガスであることが多い。

 悪臭のもたらす被害としては、臭気のための不眠、おう吐、胸部の痛みなど精神・身体的悪影響の他、来客数の減少など商店では経済的にも好ましくない影響がでてくる。ある畜産処理場付近では、年間何回となく、とくに蒸し暑い夏の季節に、我慢の限度を越える不快臭におそわれ、近くの居住者の家屋や衣服に悪臭がしみついてしまった例が報告されている。付近住民のある人たちは、不快感からおこりっぽくなり、食欲は極端に減退し、正常な社会的・家庭的関係すら妨げられ、ほんとうの病人になってしっまたという。家庭内での不快臭としては、浴室便所からの臭気、タバコの煙、愛玩用の犬、猫、鳥からの臭気、壁の後ろや床下のネズミ、ゴキブリなどの小動物や衛生昆虫、あるいは、これらの死骸からの臭気などがある。悪臭・異臭などの不快臭は、発生源近くはもちろんのこと、近隣にとって本当に迷惑なものである。

 よく行われる脱臭法に、芳香性の強い香料などを散布して臭いを隠ぺい消臭する方法がある。この方法は、悪臭成分が有害な場合には、たとえ悪い臭いを感じなくなったとしても、呼吸器をとうして臭い成分が体にはいるので健康に対して悪影響がある。一方、吸着除去し脱臭する方法では、悪臭成分そのものが空気中から無くなるので、体の中に入ってくる心配は皆無であり、安全性が高い。吸着による脱臭法や有害ガス除去法も決して見逃してはならない。

 

1) 家畜排泄物の脱臭

 養豚、養鶏などの営まれている地域は、家畜の排泄物や畜舎の洗浄水などに由来する悪臭・異臭が充満しやすい。この臭気は、畜舎での労働環境を悪化するばかりでなく、付近の住民にも不快感を与える。悪臭に対する苦情は騒音についで多く、全国的には畜産農業によるものが最も多いと言われており、悪臭防止対策が強く要求されている。また、畜舎労働に対して快適な仕事場を与え、能率的な作業を行なうためにも、臭気の除去は大切である。

 ここでは、アルカリによる簡単な処理で石炭灰をゼオライト化して、家畜フンの脱臭に利用できる資材に転換し、元来廃棄物であるこの灰について再利用法を作り上げることを目的とした。

 試料として用いた石炭灰は、某製鉄所の火力発電所から得た微粉炭燃焼灰である。反応性の高い粒径の小さいものを集めるために、この灰を44μmの網フルイでふるって通過するフライアッシュ部分(以下、FAと呼ぶ)を選んだ。このFAを先に述べた方法でアルカリ処理してゼオライト転換した。処理物は風乾して粉末とした(以下、アリカリ処理したFAをAFAと呼ぶ)。家畜フン試料は、愛媛大学農学部構内の牛舎および鶏舎で採取した牛フンおよび鶏フンを使用した。

 脱臭実験は次のように行なった。ガラス製試料ビンに、生フンを10gとり、FAまたはAFAを量を変えて添加し、密栓して1日間放置した。この時、フンの上を被覆するように加えたもの、および、フンとよく混合したものの二通りの仕方で添加した。放置後、臭気の強度をニオイセンサーにて測定した。なお、同ニオイセンサーは、ヒトの鼻腔粘膜に存在する脂質二分子膜を模して合成二分子膜フィルムを作り、このフィルムを水晶振動子の表面に特殊コーティングしたものから成っている。におい物質がセンサーに吸着した時の水晶振動子の振動数変化を検出し、においの強度が計測できる。振動数(Hz)の値が大きいほど、においの強度は大きい。

 実験結果を次に述べる。FAまたはAFAを、フンと混合あるいはフンの上にカバーした場合の脱臭結果を第27図に示す。牛フンと鶏フンは、においの強度に多少の差はあるが、いずれもAFAの添加によりニオイセンサーの振動数指示値は大きく低下し臭気が著しく減少している。減少の程度は、混合するよりも被覆するほうがおおきい。FAにも、フンを被覆した場合には、わずかに脱臭効果が認められる。フンの表面を覆うことで、わずかの臭気が物理的に封じ込められるためであろう。この結果から、FAは脱臭作用はほとんど無いが、これをアルカリにて処理すると著しく大きい脱臭効果を発揮するようになることがわかった。

 次に、ほぼ完全に臭気を除去するための

AFAの添加量を調べた。第28図に示したように添加量を増加するとニオイセンサーの指示値は小さくなった。値をゼロ付近にする最小添加量は、牛フンでは約5g、鶏フンでは約3gと、前者に対しての方が多量に必要であった。この最小添加量以上のAFAを加えて、センサー値がほぼゼロになっているのを確認した後、実際に臭いをかいでみたところほとんど臭気を感じなかった。このことより、添加量は、フンの種類によって多少変える必要はあるが、重量で30〜50%で十分であることがわかった。

 AFAが効果的な脱臭能を持っている理由を知るため、アルカリ処理によってFAがどのように変化したかをX線回折法によって調べてみた。処理物に新しく生じた回折ピークの強度およびd値(結晶面間隔)を調べたところ、フィリップサイト(7.1,5.0,4.1,3.2 Å)を主に、少量のはホージャサイト(14.3,8.7,7.4,5.7,4.4,3.8 Å)が生成していることがわかった。フィリップサイトやホージャサイトは、ゼオライトである。ゼオライトは、鉱物学上フッセキ類に分類され、テクトケイ酸塩構造をとっており、その構造は多孔質であるため、様々な有機・無機化合物を吸着保持できる。ところで、悪臭の成分は揮発性の高いアンモニア、アミン、硫化水素など、や、インドール、スカトール、高級アルデヒドなど揮発性の比較的低い様々な化合物からなっている。AFAの脱臭作用は、アルカリ処理で生じた上述のゼオライトが臭気成分を吸着固定することによると考えられる。事実、吸着実験によりAFAはアンモニアガスや硫化水素を吸着することが示された(第29図、第30図)アンモニアの吸着です。石炭灰ではあまり吸着しないが、処理した石炭灰は、良く吸着した。硫化水素の吸着は、石炭灰も少しは吸着するが、処理した石炭灰は非常に良く吸着することがわかった。ゼオライトには触媒能力もあるので、吸着された成分は変質あるいは分解することも起こるかもしれない。

 AFAを実際に利用する場合、脱臭の目的に合わせて、@そのまま、A紙に挟んだり、すき込む、B畜舎や鶏舎の一部に組み込む、C造粒する、D特殊容器に入れる、など形状を加工したり、他の機材と組み合わせることによって、最適な方法を工夫することもできる。例えば、自動的に一定時間間隔で、糞堆積物の上に、ゼオライト転換した石炭灰を撒き散らす装置を工夫することもできる。ダクトや換気扇により悪臭、異臭を吸引し、ゼオライト転換した石炭灰を組み込んだフィルターで臭気を吸着除去することもできる。畜舎・鶏舎等の臭気の除去は、悪臭、異臭などの防除による悪臭公害の防止だけだなく、家畜や家禽の衛生環境改良をとうして、生産性の向上(肥育良好化、鶏卵のサイズや生産量の増加など)にもつながる。また、AFAは、土壌の養分保持力を増強する働きも持っているので10)、家畜フンに混合して脱臭資材として使用した後、混合物のまま農地に投入すれば有機質肥料と土壌改良剤とを同時に施用したことになる。

 ゼオライト転換した石炭灰の脱臭機能は、下記の用途にも適用できる。魚粉などの悪臭性肥料や農薬および活性汚泥などに由来する耐え難い臭気の防除。これら臭気発生物の除臭を行なうことは、住民の生活環境を悪化する悪臭・異臭を取り除いて快適な居住地環境を作り上げ、衛生的で健全な生活を営むために、強く要求されているからである。小鳥、犬、猫などを、とくに、室内で飼育する場合、狭い住宅事情が災いして、これらペットの排泄物に起因する臭気もまた問題になっている。悪臭の無い室内で、ペットの飼育を楽しむためにも、経済的かつ効果的な除臭に利用できる。冷蔵庫、押し入れ、床下、トイレなど臭いが気になる所での消臭にも、形状を工夫することで適用可能である。

 

2) 汚泥類の無臭化

 近年、生活排水、工業廃水、農地からの流亡水の流入によって、沿岸の海水域や河川、ダム湖、貯水池、湖沼などの陸水域では富栄養化現象がますます加速している。この現象は、これら水域に赤潮や有害微生物の異常発生をもたらし水生生物の生態系に悪影響を及ぼすだけでなく、底質汚泥(ヘドロ)の堆積速度を著しく高める。過度に堆積した汚泥は、水域の底上げなど不都合な結果を招くので、浚渫工事などで頻繁に取り除く必要があり、あちこちで汚泥除去作業がなされている。陸上のに引き上げた汚泥は、不快な悪臭を放つものが多く、その廃棄処理は困難を伴う。このため、汚泥の処理を容易にするための、安全かつ低廉価な無臭化剤の開発が待たれている。

 汚泥類の無臭化剤を調製する方法の例を述べる。1000ml容三角フラスコに、粒径の細かい石炭灰を120gと2N NaOH水溶液400mlを加え、冷却管を取り付けたて、ホットプレート上で約90℃にて約1日加熱処理した。処理後、残存しているNaOHを洗浄除去し、濃度1Nの 塩化カルシウム水溶液を加え、往復震トウ器で2時間震トウした(この処理をCaイオン飽和処理とする)。この飽和処理を5回繰返し、過剰の塩を遠心分離法にて水洗除去した後、105℃にて乾燥して粉末試料を得た。こうして得られた試料は、X線回折測定により

フィリップサイトを主成分とするゼオライト(Ca型ゼオライト)に転換していることがわかった。

 用いた汚泥は、上水道用水の貯水を主目的としたダム湖の底質であり、浄水場で分離したもので以下、浄水汚泥と略記する。採取状態のままで保存した未乾燥の浄水汚泥について無臭化試験を行った。上述調整例の粉末試料を、量を変えて浄水汚泥(10g)に混合し、ガラス製試料ビンの入れ、密栓して5分間放置した。放置後、臭気の有無を7人(A、B、C、D、E、F、G)のパネルを使い官能試験にて検査した。なお、混合量は、浄水汚泥重量の0、5、15、20、25、30、35、40%とした。

 第10表に示した実験結果のように、臭気は、25%混合物で弱くなり、30ないし35%でほぼなくなった。40%以上の混合では、臭気は感じられなかった

 なお、本試験の臭気判定基準は次のようである。++: 強い臭気有り、 +: 臭気有り、 ±: 臭気ほとんど無し、 -: 臭気無し。

 本試験の臭気判定基準と、臭いの強さを表す指標として定められている下記の6段階基準との関係を示す。

 

 

 

                強度指数

 

無臭                0

かすかに感じる臭い         1

弱く感じる臭い 2

らくに感じる臭い 3

強く感じる臭い           4

耐えられないほど強く感じる臭い   5

 

 本試験の臭い指数で採用した++、+、±、- は、それぞれ、定められた臭い指数の3、2、1、0に対応する。

 

ゼオライト転換した石炭灰は、汚泥に含まれる有臭成分を強く吸着分解する性質を持っているので、効果的な悪臭除去機能を発揮する。この物質に一旦吸着した有臭成分は、二度と再び離脱しにくい上、一部の成分は分解して無臭化するので、本剤はきわめて安定して作用する。ゼオライト転換した石炭灰は陽イオン交換能も有しているので、乾燥汚泥を、適当な条件で発酵させれば、保肥力を増強する土壌改良剤を含有する有機質堆肥に変えることができる。堆肥にした汚泥は、農地、菜園に施用して、つまり、土壌還元することで無公害化できることも見逃せない効果である。

 

 

3) 換気装置のフィルターへの利用

 臭気成分や揮発成分が充満する工場・作業場などの労働環境の改善(快適化労働環境)は、労働効率を高めるだけでなく、労働者の余暇時間の拡大と労働時間の短縮、ゆとりのある生活につながる。例えば、わさび、とおがらし、カレー粉などを扱う食品工場などは、強い刺激臭が充満しており、作業者の目を刺激し、喉などの呼吸器にも悪影響を与える。化学製造工場などでは、原料、製品、副産物に由来する各種有機溶剤(アニリン、ベンゼン、エーテル、二硫化炭素、四塩化炭素、トルエン、アルコールなど)や有毒ガス(塩素ガス、蟻酸ガス、シアン化水素ガス、塩酸ガス、二酸化イオウガス、硫化水素ガスなど)などがしばしば発生する。作業者への人的被害を防ぎ健康を守るために、空気などを浄化し工場内での作業環境を改善し整える必要がある。

 ゼオライト転換した石炭灰は、食品工場や化学工場の脱臭あるいは有毒排気ガスの除去のためも脱臭システム装置に工業用脱臭資材として用いられるようになってい(第31図参照)。吸引脱臭装置や排気ガス浄化装置のバッグフィルター部分に利用する方法である。従来、このフィルターには活性炭を使ってガスの吸着を行っていた。活性炭の部分を、ゼオライト転換した石炭灰に代えたフィルターは、活性炭を用いたものにくらべて諸経費が節約できる利点がある。つまり、活性炭式のフィルターに比べて、取り替えまでの期間が長い(吸着容量が大きいので寿命が長い)、資材が低廉価、ランニングコストが安い、など種々のメリットがある。また、フィルターに利用すると、ゼオライト転換した石炭灰は微小球状形態を呈するので、通気したときの圧損が少ないという好都合な点もある。

 

第2項 除湿・乾燥・脱水と調湿への利用

 ゼオライト転換した石炭灰の有用特性の一つである高吸着機能を最大限に活用して、大気中の水分の吸着と脱着を繰返して、湿度が常に一定に保たれるようにする。つまり、周囲の相対湿度が高くなると吸湿・乾燥し、逆に湿度が低くなると放湿・加湿するという機能がある。ゼオライトは強固な化学構造を持つので、この機能は半永久的に持続する。床下など家屋高湿冷暗所の湿度を調整することで、結露、カビやダニ発生を抑制しする。アンモニア、硫化水素などの悪臭成分も吸着するので、除臭効果も現れる。この結果、より快適な生活空間を確保することが可能となる。実用化品に、床下調湿材「アメニティ調湿」

がある(第32図)。湿度が80%を越えると、著しい防湿効果が現れる。

 床下の湿気を防ぐための従来工法は、ポリエチレンシート法と土間コン法がある。

ポリエチレンシート法は、ポリエチレン製のシートで床下の地盤土壌表面を被覆する方法である。この方法は、シートの継ぎ目の隙間から湿気が漏れたり、布基礎、束石回りの被覆施工が不完全になることが多いなどの欠点がある。土間コン法は、床下の地盤土壌表面をコンクリートで塗り固めて被覆する方法である。この方法は、地盤土壌中の水分が毛管現象によりコンクリート表面に上がって来て、床下と外気との温度差のためコンクリート面および布基礎面に結露しやすい欠点がある。

ゼオライト転換した石炭灰から得た床下調湿材は、上述ような従来工法の欠点を改良することができる。

 

第3項 鮮度保持への利用

 農作物のポストハーベスト(収穫後)の保存・保蔵あるいは輸送中における鮮度維持や劣化の防止・抑制は、とくに、果物など青果物をできるだけ新鮮で品質の高いうちに消費者に届けるために大切である。このため、安価で、容易な鮮度保持剤の製法、および、簡易かつ安全で経済的に実施できる劣化防止法の開発が待たれている。

 鮮度保持の一つの方法は、青果物や切り花等から発生するエチレン、アルコール、アルデヒドなどのガス成分を吸着することにより、過熟の抑制と品質劣化の防止することである。

 ゼオライト転換した石炭灰について、青果物としてバナナを試料に用い鮮度保持あるいは劣化防止効果を調べた。

 二つのデシケーターを用意し、一方にはバナナ(一房に20本)のみを入れ、もう一方にはバナナ(一房に20本)とゼオライト化フライアッシュ(10g)を入れて、室温(25℃)にて、ほぼ一週間保存・放置した。この後、バナナをとりだして、鮮度の指標の一つである硬さを、果実硬度計にて、測定した。

 保存直後の硬度は、平均値が、バナナのみのもので2.00kg、フライアッシュと一緒に保存したものは2.01kgとほとんど同だった。1週間経過した時には、バナナだけの保存では硬度の平均値が0.55kgになったのに対して、フライアッシュと共に保存したものは1.06kgと、約2倍ほど硬いことがわかった。このことは、ゼ転換した石炭灰と一緒に保存した方が、劣化の程度が小さいことを示している。

 写真−5は、ポリエチレン製の袋(厚さ90μ)に、デシケーターの場合とほぼ同じ条件で保存したものである。上はバナナのみ、下はバナナとフライアッシュを一緒に保存した場合である。肉眼的にも明らかに、下の方が黒褐色の斑点もも少なく、より新鮮な外見を呈している。バナナの表皮を取り去って中身を示しす(写真−6)と、中身も、フライアッシュと一緒に保存したものは、新鮮ではっきりした組織がしっかりと残っているが、バナナのみの保存では、果肉がかなり崩れている。試食したところ、肉眼的にも新鮮である下の方が、ずっとフレシュ味が感じられた。このように、ゼオライト化フライアッシュには、確かに、バナナに対して、劣化を防ぎ、鮮度を維持する効果のあることが明らかになった。このような効果が出てくる理由を調べるために、ポリエチレンの袋に保存している期間中に、経時的に袋の中のガスを採取して、成熟ホルモンであるエチレンの濃度を、ガスクロマトグラフィにて測定した。第33図にエチレン濃度測定の結果を示す。横軸は、保存してからの経過日数を、縦軸はエチレン濃度をppmで示した。黒丸で示したのは、バナナのみを保存した場合であり、日数がたつに伴い、濃度は、2ないし3日のラグタイムの後、急速に増加した。一方、石炭灰と一緒に保存した場合には(点線で表示)、エチレン濃度は、常に、低くなっている。これは、ゼオライト転換した石炭灰が、バナナから発生したエチレンガスを吸着したためであることは明かである。このことより、ゼオライト化したフライアッシュのバナナに対する鮮度保持効果は、発生するエチレンガスなどの成分をこのフライアッシュが吸着し濃度を低下させるためと考えてよい。発生するアルデヒドなどのガス成分の吸着も起こっていることは十分に考えられる。

 以上より、石炭灰は、ゼオライト化することにより、バナナなどの青果物の保存剤として応用できる可能性のあることがわかり、利用法の一つを見いだすことができた。

ゼオライト転換した石炭灰を@そのまま、A紙に挟んだり、すき込む、Bダンボール箱に内張りする、C造粒する、D特殊容器に入れる、など形状を加工したり、他の機材と組み合わせることによって、青果物鮮度保持に加工することが可能である。

 使用済みの資材は、肥沃度を高める土壌改良剤として農地に入れる、いわゆる、土壌還元することで無公害化できることも見逃せない。

 

第4項 廃油処理への利用

1) 廃油の硬化処理および吸収処理

 世界でも有数の石油消費国であるわが国には、原油の輸送タンカーが頻繁に往来し貯蔵タンクもあちこちに数多く建設されている。原油の移送や積み替えるときの漏洩流出、また、タンカーやタンクなどの事故による原油の流出によって、貯蔵地付近および海上はしばしば汚染されてきた。原油流出事故に際し、海上ではオイルフェンスなどで流出油の拡散防止策を講じるが、その策は莫大な費用を要する割には十分な効果を発揮できず、結局、環境破壊の問題として社会問題となることが多い。地上部での流出事故はその流動性ゆえに処理困難なことが少なくない。また、車のエンジンオイルの廃油、工場、船舶等における潤滑油など機械廃油、農業機械の廃油どが大量に排出されている。これら廃油は液状であるものが多く、そのまま下水に流したり土の中にに埋めたりして捨てると、地下水に流入し河川、湖沼、海洋などに広がり環境問題を引き起こしていると言われる。上述のような流出原油や各種廃油類の安価かつ容易な無公害的処理の確立は緊要な課題となっている。

 ここでは、ゼオライト転換した石炭灰を用いて、油あるいは廃油の流動性を減少あるいは無くする(硬化処理する)ことで、また、吸収処理することで、上述のような油あるいは廃油処理の困難さや問題点を解決する方法を述べる。ゼオライトに転換することで、石炭灰は、高い吸油能力を獲得し、廃油類を吸着・吸収することで粉末化あるいは固形化し処理・処分する手段を与える。すでに述べたように、石炭灰をアルカリ等と反応すると、多孔性で比表面積が大きく様々な物質を吸着保持する性質を有するゼオライトないしはゼオライト類縁物質ができる。ゼオライトに変えた石炭灰を上述のような油ないし廃油の吸収処理あるいは硬化処理に用いるのは、有効な手段である。

 まず、油類のうち軽質油分が少ない高度重質油である廃タールについて、硬化処理できることを示す。タールは気温が高くなると軽質油の働きが大きくなり流動しやすくなるため、処理に困難を伴う廃物である。タールに石炭灰およびアルカリ処理した石炭灰を25%あるいは50%添加し十分に混合したものと、対照として何も加えてないタールを用意した。添加あるいは無添加のこれらタール試料を電気オーブンで加温して、温度を上昇させながら硬度を簡易バネ式かん入抵抗計にて測定し、硬化処理の程度を調べた。

 測定結果を、添付図面(第34図は25%添加試料で、第35図は50%添加試料。いずれも、Aはアルカリ処理した石炭灰添加試料、Bは石炭灰添加試料、Cは無添加試料。)に示す。A、BおよびCのどの試料でも、タールの硬度は加温の温度が上昇するにつれて下がっていった。しかし、この硬度低下の様相は、石炭灰を添加したか、アルカリ処理した石炭灰を添加したか、あるいは無添加であるかにより、また、添加した場合は加えた量により、異なることがわかった。無添加タール試料では、40、50、60℃と昇温するにつれて硬度は3.3、1.8、0.7kgと小さくなり、70℃ではほとんど0kgとなって流動が始まった。一方、石炭灰あるいはアルカリ処理した石炭灰を添加した廃タール試料は、測定した温度範囲内で、無添加のものより常に硬度が大きかった。また、硬化の程度はアルカリ処理した石炭灰のほうがより大きい結果を得た。このことより、石炭灰あるいはアルカリ処理した石炭灰の添加によって廃タールを硬化処理することが可能であること、および、後者による処理の方がより効果的であることが明かとなった。

 石炭灰およびアルカリ処理した石炭灰の硬化処理の能力を比較するため、硬化処理指数(無添加試料の硬度と添加試料の硬度との差から求めた)を温度に対してプロットしてみた(第36図および第37図参照。第37図は25%添加試料で、第38図は50%添加試料。いずれも、Aはアルカリ処理した石炭灰添加試料、Bは石炭灰添加試料)。アルカリ処理した石炭灰の硬化処理指数は温度上昇に伴い増大していくこと、25%添加の方が50%添加よりわずかであるが指数が大きいことがわかった。これに対して、石炭灰は常に指数が小さかった。このことは、アルカリ処理によって、石炭灰の廃タールにたいする硬化処理能を高めるように改質できることを示している。

 石炭灰およびアルカリ処理した石炭灰の吸油処理能力を調べた。処理能の測定は、JIS K 5101 の方法にもとづいて吸油量を測って行なった。測定結果は、石炭灰が30%だったのに対して、アルカリ処理した石炭灰では130%と著しく大きかった。後者がこのように高い吸油処理能を持っている理由は、アルカリと反応させる改質過程でゼオライト化されることにあると考えられる。

 本方法は、アルカリ処理した石炭灰を用いた硬化処理あるいは吸油処理によって廃タールや液状の廃油類などを硬化、粉末化、固形化できるので、これらの廃物の取扱を容易にすることができる。例えば、地中に埋め込んで廃棄しても廃油はゼオライト化した石炭灰に固く吸着して固形状になっているので、流れて地下水に入ることはない。すなはち、廃油の地中投棄による地下水汚染を防止できる。また、産業廃棄物として多量に廃出され処理に困っている石炭灰を利用して、油あるいは廃油の処理を簡易にしようというもので、環境浄化・廃棄物処理の分野に貢献できるので、有利な効果を生み出す。

 

第5項 

  アスファルト改質への利用

 狭い面積に膨大な数の車が頻繁に通行するわが国は、世界で最も道路の損傷がはげしい。近年、アスファルト舗装道路の損傷の一つである「わだち掘れ」が社会問題となっている。自動車などの重みで道路が凹むこのわだち掘れは、雨天時の沿道通行者に泥水を跳ねかける原因になるだけでなく、すべり抵抗の減少による高速道路での運転のしにくさなど運転操作環境の劣悪化を引き起こし、車の安全運行を脅かすことにつながってくる。アスファルト路面にわだち掘れが生じるのは、外的な要因として通行する車両の種類と頻度の条件と外気温などの環境条件、内的な要因として舗装材料の質や舗装構造などがあるとされる。わだち掘れを防止するには、一般的に外的要因を排除するのは困難であり、舗装材の改質や舗装施工の改良が必要となる。材料や施工法の改善はコスト高を招くことが多いため、経費のあまりかからない防止策の出現が待たれている。

 高温時にアスファルトが軟化、流動あるいは変形する主な原因は、含まれる軽質油分が関与し路面を軟化することがわかっている。油分を適度に吸収し軟化を防ぐ効果的で安価な防止資材の開発が必要である。ここでは、ゼオライト転換した石炭灰の示す高い吸油能を活用して軽質油分を吸着・吸収することで溶出を抑え、アスファルトの熱軟化や熱変形などを防止あるいは軽減できることを述べる。

 すでに、タールの加温による軟化を、石炭灰あるいはゼオライト転換した石炭灰の添加によって、防止あるいは軽減が可能であること、および、後者の方が軟化抑制効果がより大きいこと述べた。また、同一添加量の場合、石炭灰添加試料とゼオライト転換した石炭灰添加試料の両硬度は温度が高いほどその差が大きくなるという結果を得て、ゼオライト転換した石炭灰の効果は高温ほど顕緒に現われることを示した。アスファルト舗装は、アスファルト混合物やタールと砂利、砂、石粉などの混合物で路面を覆って作られる。近畿大学の研究者等は、ゼオライト転換した石炭灰をアスファルト改質資材に使い、実際のアスファルト舗装道路を建設して、車両を一定期間通行させる実験を行い、道路表面の凹凸変形の防止効果を調べた。同研究者等は、ゼオライト転換した石炭灰、石炭灰、セメントを各々重量比で50:10:40になるよう配合し、ペレタイザーで顆粒状に造粒して調製した資材は、これを6%ほど添加混合することで、アスファルト舗装面の「わだち掘れ」による変形を軽減でき、舗設5カ月後においても、添加してないアスファルトに比べ、ほぼ半分しか変形が進まないことを報告している。このことから、ゼオライト転換した石炭灰から上述のようにして得た造粒物は、舗設後かなりの時間が経過しても、アスファルト舗装面の平坦性を比較的良い状態に保持できる改質資材に利用できることは明らかである。

 

第6項 排水の浄化・脱色への利用

 廃水とは、不要となった物質(有毒・有害成分を含む場合も多い)や熱エネルギーなどが混入した、利用価値のない水のことである。廃水をそのまま放出すると、地球環境にとって様々な害が起こる原因となる。湖沼など水圏の富栄養化、環境の汚染。引いては、人

間の健康も損なう。地球環境(自然界)中では、人間をはじめ、各種動物、植物、カビや細菌などの微生物が均衡を保って共存している。人間活動による生産、消費を通じて排出される廃水をそのまま自然界に放出すると、環境のバランスが壊れる。自然には元来、自浄力や復元能があり廃水が少しぐらい入ったからといって、破壊することはない。しかし、廃水の限度をこえる流入は、自浄力や復元能を越えてしまい、環境破壊につながる。いったん壊れた環境は、回復不可能である。回復のできない自然界の崩壊は、人間の存在自体を脅かす。また、廃水といえども水資源なので、資源保護上、再利用する必要がある。環境保全と水資源利用の点で、廃水を浄化処理しなければいけない。廃水の浄化処理には、浄化の程度が高くなるに従って、1次処理、2次処理、3次処理に大別できる。環境に与える負荷をできるだけ少なくするため、質の高い用水に変えるためには、廃水の高度処理が大切となる。

 近年、環境保全の観点から、河川、湖沼、沿岸域など水圏の富栄養化促進が社会的な問題となってきた。富栄養化を可能なかぎりくい止めようという機運の高まりに伴い、排水規制が強化されている。これまで、凝集沈澱などの一次処理、あるいは、よくても生物処理などの二次処理までで放流していた各種排水は、BODやCODを除去する三次処理(高度処理)が要求されるようなっている。都市下水、し尿、食品工業排水、化学工場排水、紙・パルプ工業排水など様々な排水は、沈殿や濾過による粗大固形物除去などの1次処理後に、微生物を用いる活性汚泥法などによる2次処理で浄化される。しかし、この2次処理までの処理水は、生物分解が困難な物質(例えば、し尿では、胆汁色素、繊維質など)、やフミン酸やフルボ酸様の有機物を含有するため黄褐色に着色していたり悪臭を感じる臭気を放っていることが多く、しばしば、放流するための環境基準に適合しない。これは、活性汚泥法による浄化方式の限界とも関係がある。現行では、COD、BODなどの基準値に適合させるため、価格的にそんなに安くない活性炭などの吸着剤を使って、さらに3次処理・高度処理を行う必要のあることが多い。この処理後になお、淡黄色と臭気が残っていることもあるが、処理水を完全に無色透明・無臭にするのに莫大な費用を要したり、そのための技術が困難なため、この状態で、湖沼、河川などに放流しているのが現状である。人間活動に伴い、排水は休むことなく生産されており、これらの排水を環境基準をなんとか満たすからといって不完全な処理のまま自然環境中に放出することは、水質保全の観点から多大の問題がある。経済的で効率の大きい高度処理資材や方法やが必要とされるのである。ここで述べるのは、ゼオライト転換した石炭灰を用いて、活性汚泥法などによる浄化槽からの放出水を低廉価な方法で、脱色・脱臭および高度処理して、水質保全的な問題を解決する方法に関するものである。排水の高度処理にあたり、従来のように活性炭やイオン交換樹脂を処理資材に用いる方法は、これらの資材が高価なため、使用済みなれば再生して再び使わなければならない(@再生にかかるコストの問題)。また、資材再生時に、吸着されていた汚濁物質が濃厚溶液となり生じて来る(A濃縮された汚濁物質の浄化処理の問題)。再生しないで使い切りにできる低廉化な高度処理資材があれば、@、Aの問題を解決できる。ここに、ゼオライト転換した石炭灰の高度排水処理資材への適用の道がある。石炭灰は、元来廃棄物なので、これを利用するのは、廃棄物の再資源化である。

 排水の脱臭・脱色および高度処理の資材として用いた石炭灰は、次のようにしてゼオライト転換処理して調製した。

 調製例1:冷却管を取り付けた三角フラスコに、粒径の細かい石炭灰(フライアッシュ粉末)60gと3.5N NaOH水溶液200mlを加え、ホットプレート上で約90℃にて20時間ほど加熱処理した。処理後、遠心分離法にてよく水洗した。次に、1N CaCl2水溶液を100ml加え、往復震とう器で時間震とうした(Ca飽和処理)。この飽和処理を5回繰返し、過剰のCaCl2を水

洗除去した後、105℃にて乾燥して粉末試料を得た。

 調製例2:調製例1のフライアッシュ粉末60gの代わりに、フライアッシュ粉末40gとシリカゲル粉末20gの混合物を用いた。加熱処理、水洗、飽和処理、乾燥などは同様に行った。

 調製例3:調製例1のフライアッシュ粉末60gの代わりに、粒径の粗い石炭灰(クリンカーアッシュ粒)20gを用いた。加熱処理時間は、24時間とし、水洗、飽和処理、乾燥などは同様に行った。

 石炭灰をゼオライト転換処理して得た調製物について、排水の脱臭・脱色および高度処理の効果を各種実験例に基づいて説明する。

 実験例1:し尿を、活性汚泥法で2次処理した処理水を500mlを1リットルのポリ容器に入れ、これに調製例1で製造した試料を4g加えた。ゆっくりかき混ぜながら最高3時間まで放置した。放置中に30分毎に少量の上澄みを採取し、化学的酸素要求量(COD、Chemical Oxygren Demand)の経時的変化を調べた。CODは、JIS K 0102に基づき、100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量の測定から求めた。第11表に測定結果を示した。

 

第11表

 

 

   放置時間  COD

(hr) (ppm)

 

 

0 136.8

0.5  55.2

1.0  14.6

  1.5  4.8

2.0  2.2

2.5 1.4

3.0 0.8

 

 COD測定値が、3.0時間で最初の約0.6%になっており、フライアッシュをアルカリ水性媒質との加熱反応などで処理したものは、し尿2次処理水の優れた高度処理剤であることがわかる。また、3.0時間放置した時には、はじめ黄褐色であったものが、肉眼的にほとんで無色透明で、臭気もほとんど感じられなくなっていた。

 調製例2および3の試料についても、同様の実験を行ったところ、COD測定値は、3.0時間で、それぞれ、最初の値の約0.2%および約1.8%になった。石炭灰をアルカリ水性媒質との加熱反応などで処理したものは、調製法で多少効果が異なるものの、し尿に対して、高い3次処理能力を有することがわかる。

 

 実験例2:製紙工場の抄紙排水を活性汚泥処理した排水について、実施例1と同様にして経時的にCODを測定した。第12表に測定結果を示した。

 

 

第12表

 

 

放置時間  COD

(hr) (ppm)

 

0 102.4

0.5  36.1

1.0   8.3

1.5  3.5

2.0  2.0

2.5 1.3

3.0 1.2

 

 CODの除去率は約98%にも達しており、フライアッシュをアルカリ水性媒質との加熱反応などで処理したものは、製紙工業排水の2次処理水に対して、効果の大きい高度処理剤であることがわかる。

 パルプ工場廃水などに含まれる亜硫酸廃液が流入した時に、よく発生・繁殖する微生物として「スフェロチルス」(Sphaerotilus)(S.discophorus,S.natansが代表)がある。スフェロチルスは、汚染された水中に発生する代表的なバクテリア(細菌)で、その発生・繁殖は、特に炭水化物を主体とした有機汚染の著しい廃水で顕著であることがわかっている。また、一般的にユレモ科の藍藻は、汚水、富栄養化した湖沼、止水、腐水、有機質に富む溜池、有機物の多い汚染された池などの水域に発生・生息する種類が多い。これらの微生物は、排水が環境基準に適合する場合でも、大量発生し排水溝を詰まらせることがある。ユレモやバクテリアが発生した場合、これら微生物を薬品等で単に殺したり、物理的に取り除くだけの対症療法的な清掃だけでは、すぐに再び生じてくる。この再発生は、しばしば、清掃前よりもさらに多量の微生物を生み出すことが多い。薬品等の使用は環境衛生上好ましくない副作用を生じることもある。発生、生育を根本的に防止するには、水域に流入する工場排水や生活排水を十分に浄化することが必要である。浄化によって、汚染成分(有機物、窒素、リンなど微生物の栄養分)が除去され、微生物を飢餓状態に追い込み死滅させることができる。浄化をできるだけ経済的に行うには、なるべく底廉価で効果の高い廃水高度処理資材を利用することである。この目的に合致すると考えられる処理資材は、ゼオライト転換した石炭灰である。上述のように本資材は、CODなど汚染成分を効果的に吸着分解する機能を持っている。この資材の使用は、廃棄物の再生資源利用を促進することにもつながる。最近、環境保全に対する意識が高まる中、廃棄物のリサイクルを兼ねて、水質改善処理を行う方法は、一石二鳥の利点がある。

 廃水高度処理資材を使って、浄化する場所は、排水放出源に近ければ近いほど効率が高いと考えられる。できれば、製紙工場などの排水高度処理(3次処理)として使用することが望ましい。工場内での浄化が困難な場合は、外部に沈澱槽を設けて高度処理することが大切である。

 上述のように、ゼオライト転換した石炭灰を用いて、活性汚泥法などを利用した浄化槽や排水処理装置で2次処理してもなお着色していたり不快な臭気を放つ各種排水を、脱色や脱臭および高度処理できるので、地域住民の環境衛生に貢献するとともに水圏環境の保全にも寄与する。不完全な脱色・脱臭しかできなかったこれまでの活性炭処理は不必要になり、活性炭よりも廉価な、アルカリ処理した石炭灰を吸着およびイオン交換資材として利用する本法は、経済的にも得策である。また、産業廃棄物として多量に廃出され処理に困っている石炭灰を積極的に利用しょうとするものなので、環境浄化・廃棄物処理に役立つという有利な効果を生み出す。使用済みになった資材は、その陽イオン交換容量が大きいことを活用して、保肥力を強化改善する土壌改良材として農地に施用できる。

 風化した軽石およびゼオライト転換した石炭灰を併用することで、窒素、重金属類、悪臭成分などのほか、ゼオライトには吸着しにくいリンも除去できる。これまでに、筆者は風化軽石は他の吸着剤に比べてリン酸イオンを強く吸収保持する性質を有すこと見つけた。この理由は、含まれるアロフェン(非晶質和水ケイ酸アルミニウム)、とくに、アルミニウムに富むプロトイモゴライトアロフェンが表面錯体を形成することでリン分子と強く化学結合するためであることを明らかにし、このような軽石はリンの吸着除去に好都合な資材になることを示唆してきた。風化軽石は、火山国の我が国には広く分布している豊富な天然資源であり、きわめて安価に入手できる利点もある。

 

第7項 抗菌・抗カビへの利用

 梅雨時とか、風呂場や押入など湿度の高い場所での、カビ生育、有害細菌の発生など、好ましくない微生物の繁殖に対して抗カビ剤・抗菌剤が使用される。また、船底、橋などの海洋構築物、漁網などに付着するプランクトンやフジツボなどの生物を発育阻止するために、有機スズ系化合物(TBT:テトラブチルスズなど)が用いられていた。これらの抗菌性剤は、多くが有機化合物であるため、熱的に不安定であり、150℃までの温度でしばしば効果が無くなる。近年、グローバル規模での環境汚染や破壊問題に対する意識が高まるなか、従来の抗菌性薬剤や化合物は、毒性などの点で生活環境汚染を引き起こすものも多いとされ、無公害型でかつ耐熱性の抗カビ抗菌剤の開発が求められている。薬効の高いTBT等は毒性が強いため、すでに使用禁止になっており、安全な新しい代替薬剤の開発は焦眉の急を要す。

ゼオライト転換した石炭灰に、銀、銅、亜鉛イオン等の重金属イオンやこれらイオンの錯体、あるいは、テルペン等の殺菌殺カビ性有機化合物を、吸着・飽和などの化学処理し担持・合成して、抗菌や防カビ作用を有する上、熱的に安定で人体毒性の低い薬剤を製造することを試みる。この薬剤を用いて、有害な糸状菌やバクレリア類の発生を抑えることで、生活環境、衛生環境の改善や各種産業上の微生物繁殖に伴う不都合を取り除くことができる。原料が、燃焼残物である灰と無機塩のみを用いているので熱に対して安定である。無機塩成分が、高いイオン交換能や大きい吸着能力を獲得した石炭灰の粒子表面に強く付着しているので、毒性成分の無駄な溶出が抑えられるため、人畜にとっては低毒である。

 この実施例に使った抗菌抗カビ剤の調製法の例を述べる。

定法に従って、アルカリと反応させゼオライト転換処理した石炭灰に、濃度0.2Nの硫酸銅、硝酸銀水溶液あるいは塩化亜鉛水溶液を加え、往復震とう器でシェイキングして、銅イオン、銀イオンあるいは亜鉛イオンで十分飽和処理した後、過剰の無機塩を水洗除去し105℃にて乾燥し粉末を得た。この粉末は、銅イオン飽和したものを銅型剤、銀イオン飽和したものを銀型剤、亜鉛イオン飽和したものを亜鉛型剤の試料とする。

 試験法は、抗カビ試験法、JIS Z 2911に準拠した寒天培地を使用して行った。調製例で得た3種の粉末を、プレス式錠剤成形器で、直径10mm、厚さ2mmのディスク状に加工した。このディスクを寒天平板培地に埋め込み、細菌類の代表として黄色ブドウ状球菌あるいは大腸菌を、糸状菌類(カビ類)代用として黒麹菌を接種した。インキュベーター中で、細菌類に対しては20時間(36℃)、糸状菌にたいしては5日間(30℃)ほど培養した。抗菌性の評価は、培養後の培地上に現れた生育阻止帯の大きさを計測しておこなった。

 抗菌抗カビ作用の熱安定性能を調べるために、本ディスクを電気炉にて350℃で120分間加熱したものについても、同様の試験を行った。

 

第13表 抗菌抗カビ試験の結果(生育阻止帯の大きさ:mm)加熱処理なし

 

        銅型剤 銀型剤 亜鉛型剤

 

 

黄色ブドウ状球菌 3 2 1

 

大腸菌    5 4 2

 

黒麹菌 7 6 4

 

 加熱処理していない試料についての抗菌抗カビ試験結果を第13表に示す。表から明かなように、銅型剤、銀型剤、亜鉛型剤の試料は、

細菌類や糸状菌に対して、生育阻害効果のることがわかった。この効果は、飽和処理に用いた金属イオンの種類により、また、微生物種により、異なっている。生育阻害は、どの金属イオンでも、黒麹菌で最も強く、大腸菌に続き、黄色ブドウ状菌で最も弱かった。一般的に糸状菌類に対する効果が大きいと言える。同じ微生物種に対しては、銅型が阻害効果が最も大きく、銀型に続き、亜鉛型が最も小さかった。人体毒性の点から観ると、効果が最強の銅型剤よりもむしろ銀型剤を抗菌抗カビ剤に使用する方が安全で適すると思われる。

 

第14表 抗菌抗カビ試験の結果(生育阻止帯の大きさ:mm)加熱処理あり

 

 

     銅型剤 銀型剤 亜鉛型剤

 

 

黄色ブドウ状球菌  1 1 1

 

大腸菌     2 3 2

 

黒麹菌 3 4 3

 

 加熱処理した試料について、抗菌抗カビ試験を行った結果を第14表に示す。銅型剤、銀型剤、亜鉛型剤のいずれも、350℃、120分間の加熱処理後でも、細菌類および糸状菌に対して、なお、生育阻害効果を示しており、本剤は耐熱性があることが実証できた。しかし、抗菌抗カビ能は、加熱により少し低下することもわかった。低下の程度は、金属イオンの種類によって異なっていた。加熱しない場合に最大の生育阻害を示した銅型剤は、その効果が著しく減少した。一方、阻害作用があまり大きくなかった亜鉛型剤は、加熱後も効果はあまり変化しなかった。加熱処理による効果も低下は、処理中に金属イオンが酸化物に変わり、生育阻害の有効成分が培地中に放出されにくくなるためと考えられる。

 

 

第8項 農薬の吸着除去への利用

 

 近年、ゴルフ場で使用した農薬による水質、土壌など環境汚染が社会問題となっている。1986年6月に施行されたリゾート法により、全国様々な場所でゴルフ場の建設が計画されるようになり、この問題は最近さらに拡大されてきた。リゾート法とは、正式には「総合保養地域整備法」といわれるものである。この法律の目的は、国民のゆとりある生活の促進のために、レクレーション、教養活動、文化活動、スポーツなどを行うための施設や関連設備を有する基地を全国のいろいろな場所に開設するというものである。併せて、地方への民間資本の拡散による、地域の開発・活性化をも目指す。これまで、環境保全や自然保護の立場から、ゴルフ場開設には慎重論を唱える人が多かったが、本法の実施によって、開設規制を緩和してもよいのではという意見が目立ってきた。

今後、ゴルフ場は増えていくことが予想される。

 厚生省および環境庁は、農薬による環境汚染を防ぐ目的で、ゴルフ場でよく使用される21種の農薬に対して、水質指針値(目標基準値)および標準分析法を示している。21種の農薬は、殺虫剤として、イソキサチオン、イソフェンホス、クロルピリホス、ダイアジノン、トリクロルホン(DPE)、フェニトロチオン(MEP)、殺菌剤として、イソプロチオラン、イプロジオン、キャプタン、クロロタロニル(TPN)、トルクロホスメチル、フルトラニル、オキシン銅、チウラム、除草剤として、アシュラム、シマジン(CAT)、ナプロパミド、ブタミホス、プロピザミド、ベンスリド(SAP)、ペンディメタリンである。これら農薬のうち、よく使用される薬剤は、殺虫剤のEPNとダイアジノンである。両農薬は、全国ゴルフ場の約半分(約45%)で使用されている。効力や値段の点で、この2つ農薬が偏って使用される傾向にある。ダイアジノンは、第38図に構造を示したような農薬であり、劇毒区分では劇物に指定されている。本剤は、細胞染色体に対して悪影響があると心配されている薬物の一つである。受精鶏卵にわずか1mg注入しただけで、100%の奇形発生が報告されている。ダイアジノンを投与した妊娠マウスから生まれた仔は、成長が遅く異常行動を伴うという。米国では、1986年に環境保護庁がゴルフ場、芝地、畑地などでの使用禁止を提案したほどである。EPNは、第39図に示したような薬剤で、劇毒区分では毒物に指定されている。この物質は神経毒性があり、この毒性は遅発性であるため被曝直後には症状が出てこないが、徐々に中枢神経が侵され回復できないまでに悪化することも多いといわれている。わが国では、水道法によって、飲料水の中にEPNが検出されてはいけないことになっている。上述の二つの農薬は、安全性の観点からも、効果的に除去する方法の確立が望まれている。

 ここでは、使用頻度の高いダイアジノンとEPNについて、ゴルフ場などリゾート地域におけるこれら農薬の除去に、ゼオライト転換した石炭灰を利用するための基礎的研究を行った。

 石炭灰のゼオライト転換処理は次のようにして行った。冷却管を取り付けた三角フラスコに、粒径の細かい石炭灰(炭素含量の高いフライアッシュと低いフライアッシュの2種類)60gと3.5N NaOH水溶液200mlを加え、ホットプレート上で約90℃にて20時間ほど加熱処理した。処理後、遠心分離法にてよく水洗した。105℃にて乾燥して粉末試料を得て、Naイオン飽和試料とした。炭素分に富む石炭灰から得た試料をNa−HC、炭素の少ない灰からの試料をNa−LCと略記する。本試料の一部に1N CaCl2水溶液を100ml加え、往復震とう器で2時間震とうした(Ca飽和処理)。この飽和処理を5回繰返し、過剰のCaCl2を水洗除去した後、105℃にて乾燥して粉末試料を得て、Caイオン飽和試料とした。炭素分に富む石炭灰から得た試料をCa−HC、炭素の少ない灰からの試料をCa−LCと略記する。4種試料についてX線回折測定を行ったところ、どの試料も主なゼオライトとしてはフィリップサイトであり、これに少量のホージャサイトを含んでいた。なお、湿式法にて、炭素含有量を測定したところ、Na−HCおよびCa−HCは28.9%、Na−LCおよびCa−LCは9.7%ほどの炭素を含んでいた。

 農薬の吸着実験は次のようにして行った。ゴルフ場などでの土壌溶液に残存可能な濃度として、ダイアジノンは0.21ppm、EPNは0.48ppmの希薄水溶液を調製した。pHを2通りに変えたこの溶液の200mlに、ゼオライト転換した石炭灰を5g加えて、24時間ほど往復シントウ器にてシントウした後、上澄みの農薬の濃度をガスクロマトグラフを用い常法にて測定し、農薬吸着能を調べた。

 ダイアジノンとEPNに対する実験結果を、第40図および第41図に示す。ゼオライト転換した石炭灰(以下、人工ゼオライトと呼ぶ)は、2つの農薬を吸着することは明らかであるが、吸着の仕方は炭素含量、交換性陽イオン種、および溶液のpHによって異なっている。ダイアジノンについてみると、同種の交換性陽イオンの場合、炭素を多く含む人工ゼオライトのほうが、炭素の少ないものに比べて、より多く吸着することがわかった。人工ゼオライト中の炭素成分が吸着機能に対して意外に大きい効果を持っていることを示唆する例である。同じ炭素含量の場合には、Na型人工ゼオライトよりもCa型のものがダイアジノンを多く吸着している。溶液のpHは中性よりも弱酸性のほうが吸着能が大きくなることもわかった。Ca型で高炭素含量の人工ゼオライトは、ほとんどすべてのダイアジノンを吸着除去している。一方、EPNでは、ダイアジノンとよく似た吸着傾向が認められるものの、違いもある。すなわち、炭素含量の影響はダイアジノンの場合よりさらに大きくいが、pHの影響は小さいことががわかる。この違いは、ダイアジノンとEPNの化学構造の相違にあると考えてよい。

 前者は、pHが下がると、複素環の窒素の所がプロトネーションで正に荷電し陽イオンとなり、ゼオライトの負電荷部位に強く付着するようになるため、吸着量が目立って増加すると考えられる。

 ゴルフ場などに実際に適用するには、なるべく炭素に富む人工ゼオライトをCa型にして用いると効果が大きいといえる。炭素含量の低い人工ゼオライトは、活性炭や木炭等を少量添加して使えば、高い吸着効果を期待できる。

 一般的に、吸着しやすい農薬は、カチオン性(ダイアジノンなど、pHの低下によりカチオンになるものも含む)の薬剤である。吸着しにくいノニオン性、アニオン性の農薬に対しては、人工ゼオライトの交換性陽イオンをCaやFeイオンなどの多価陽イオンに置き換えると、かなり吸着できるようにうなる。この吸着の増加は、多価陽イオンの橋かけ効果やキレート生成効果によるものと考えられる。特定の農薬に対して橋かけ効果やキレート生成効果を強く発揮する多価陽イオンを選べば、その農薬を特異的に強く吸着する人工ゼオライトの開発も可能と思われる。吸着した農薬を効果的かつ経済的に分解・無害化するための反応や処理法は現在研究中である。

 

 

 第2節 イオン交換機能を活用したリサイクル技術

第1項 土壌改良への利用

1) 砂質土壌の改良

 ゼオライト転換した石炭灰を、その高い陽イオン交換容量(CEC)に着目して、砂質土壌の改良に利用し、芝生育に及ぼす効果を検討した。

 供試土壌は愛媛県北条市八反地伊利に位置する愛媛大学農学部付属農場内の未耕地にて採取した花崗岩風化土壌で、第15表の理化学性を示す典型的な砂質土壌(マサ土)である。この土壌40kgを、ポリスチレン板で両端を覆ったコンクリート製U字溝(縦24cm,横60cm,高さ24cmの;以後ポットと呼ぶ)に詰めた。これに、先に述べた方法でゼオライト転換した石炭灰(CEC 362me/100g)を10、40または100g添加して、表層約5cmまでに混入し、それぞれ少量区、中量区、多量区とした。対照として、無添加のものを、無処理区とした。この添加によって、各ポットの土壌全体に対するCECは、少量区で2.2%、中量区で8.8%、多量区で22%ほど増加する計算になる。実際、土壌に、ゼオライト転換した石炭灰を量を変えて加えよく撹拌した後CECを測ったところ、添加量から計算した値にほぼ一致した。

 処理区および無処理区のポットにヒメ高麗芝を移植し、液肥(1リットル中にN、P2O5,K2O,MgO,MnO,B2O3,CaO,Feをそれぞれ0.26g,0.12g,0.36g,75mg,1.5mg,1.5mg,0.23g,2.7mg含む)を2、3週間毎に2リットルずつ施用した。ほぼ2日毎に十分量(2−3リットル)の撒水を行いながら、145日間にわたり生育した後、芝の草丈および乾物重を調査した。草丈は、各区のポットにおいて、芝が生育している土壌面を10等分に仕切り、それぞれの中央中付近に生えている芝について計10カ所を物差しで計測した。乾物重は、各ポットから芝を傷めないよう注意して堀上げ水洗で土壌を入念に取り除いた後乾燥し、重量を測定して求めた。なお、乾物重は、一つのポットに生育したすべての芝についての総重量値である。

 芝生育調査の結果を第 第16表に示した。この表から明かなように、各試験区の間には、草丈、乾物重ともはっきりした相違が認められる。すなわち、無処理区における草丈の平均値と標準偏差は、それぞれ、5.05cmおよび±0.57cmであった。これに対して、処理区では、少量区、中量区、多量区の順に草丈の平均値が高く、多量区における草丈の平均値は、無処理区のそれに比べ2倍以上に達している。乾物重も、無処理区でわずかに95.89gであったものが、少量区、中量区、多量区と後の区ほど増加しており、多量区では212.36gにも達している。データを一元配置分散分析にて統計処理したところ、各区の間には有意の差が認めれれた(P>0.005)。これらの生育調査結果より、ゼオライト転換した石炭灰の添加処理は、芝の草丈および生産量を増大させること、増大の程度は、本実験の添加量範囲では添加量が多いほど大きいことがわかった。

 芝の地上部および地下部の生育比較を写真に示した(写真−7)。地上部、地下部とも、無処理区の芝は処理区のものに比べて貧弱であること、処理区では、少量区よりも中量区で、さらに、中量区よりも多量区で生育が良好であると認められる。芝の生育が良好になるのは、ゼオライト転換した石炭灰を添加することで土壌のCECが増大し、その結果、肥料の流亡が抑制されることが理由の一つであると考えられる。事実、ガラス管カラムに同じ土壌をつめ、ゼオライト転換した石炭灰をポットとほぼ同じ割合で加えて、肥料(K+、NH4+、Ca2+,Mg2+)の簡単な溶脱実験を行ったところ、少量区に相当する添加量ではわずかな流出が認められたが、中量区と多量区に相当する添加量ではほとんど溶脱しなかった。CECの増大は、上述のように、土壌全体についてみれば、2ないし22%ほどで、そんなに大きいとは言えないかもしれない。しかし、この灰が施用位置付近だけに遍在していれば、根の存在する表層下5cmまでの部分では、CECはもう少し大きものと思われる。ゼオライトは、永久負電荷に起因するためpHに依存しない良質なCECを有している13)。このことが、土壌のCECの増加量があまり多くなくても、有効な作用に結びつくことは十分に考えられる。効果発現の詳細なメカニズムの解明に必要な、肥料の経時的な流出量の詳細な実測、異なる土壌における試験、養分吸収を調べるための植物体の分析等は、今後の課題である。

 芝生土壌は、ゴルフ場、野球場、フットボール競技場、などスポーツ競技場に利用されることが多い。降雨やかんがいの後、速やかに排水でき、水溜りなどできないような土壌が要求される。このため、透水性の良好な砂質の土壌が使われることになる。砂質土壌は、粘土コロイド成分が少ないため、植物養分、肥料などの保持力が弱い。上からの浸透水により、養分、肥料は容易に流亡する。透水性を良く保ったまま保肥能力を高めるのに必要な土壌改良資材として、ゼオライト転換した石炭灰は適していると言える。農地からの肥料の流出が抑制できれば、肥料経費を節減できるだけでなく、栄養塩(肥料)の流入による湖沼、海洋など水圏の富栄養化も軽減できる。

 なお、ゼオライト転換した石炭灰を農業用土壌改良資材に利用する場合、次の点に注意することが肝要である。石炭灰をゼオライトに転換する時には、水酸化ナトリウムと反応させるので、生じたゼオライトは、その負電荷部位をナトリウムイオンで飽和された、いわゆるナトリウム型ゼオライトになっている。このゼオライトは、陽イオン交換容量が200〜300meq/100gくらいあり、かなり大きいので、土壌中に多量に施用したり、連用を続けていくと、土壌に対して好都合な改善効果だけでなく、好ましくない副作用が生じる可能性がる。副作用の原因は、ナトリウムイオンである。ナトリウムは、過剰に存在すると植物にクロロシス(葉緑素の欠如)などを引き起こし、生育を阻害するだけでなく、このイオンが、土壌に元来含まれるコロイド成分を徐々にナトリウム型に変える。土壌コロイドがナトリウム型で大多数が占められると、ナトリウム型コロイドは分散しやすいため、土壌の団粒構造を壊しる。団粒構造は、土壌をとくに農耕地として利用する場合に、重要な諸特性を発現する基になる土壌構造である。

 

(土壌構造とは)

土壌は小さな粒子からなっており、この粒子の集合状態が団粒構造をきめる。粒子が密に揃って配列している場合には、団粒構造はできていない。適当な数の粒子が集まり団子のようになり、さらに、この団子が適度の隙間を作りながら、集合した場合は、団粒構造が生じた状態である。良好な団粒構造が生じれば、透水性(水はけ)が良好になり、空気の流通(通気性)が盛んにななるうえ土壌ガス成分の更新がされやすくなるなど、土壌の物理性が向上する。また、間隙の分布が広くなり、土壌に住む微生物は、好気性、嫌気性のものが幅広く多種が調和して共存できるようになり、生物的にも好ましい土壌になるので、肥沃度が高まる。微生物が作物の老廃物など分解したり、作物にとって有用な物質を生産する。

 Caイオンは多価なので、土壌コロイド粒子どうしを結びつけて、束ねることができる。

団粒構造を維持したり、さらに発達させるためには、施用するゼオライトをナトリウムのような一価の陽イオンで飽和するのではなく、カルシウム、マグネシウムのような多価の陽イオンで飽和しておくことが大切である。カルシウム型ゼオライトは、土壌構造を良好に保ちながら、陽イオン交換能に基づいて植物養分の保持性を、吸着能に基づいて保水性や老廃物の吸着除去性を改善・向上することができる。

 

2) 有機無機複合土壌改良剤

 花崗岩が風化して生じた土壌、いわゆる、マサ土は、砂礫質であることが多く、植物の養分であるアンモニウムイオン、カリウムイオン、などの陽イオンを保持する能力が小さい。このため、肥沃度の低い、農業生産力が劣る土壌となる。わが国の火山灰土壌とか、熱帯地域に広く分布するラトゾル等の土壌も、また、粘土コロイドの質的理由により同様に養分保持能が小さく、生産性が低い。つまり、これらの土壌は、硫安などの肥料を施肥しても、アンモニウムイオンを保っておく力が弱いため、雨水や潅漑水の浸透によって、窒素養分が容易に流亡してしまう。このような、作物生育上不利な性質を改善するため、ベントナイト、天然ゼオライト、有機質堆肥などの土壌改良剤を施用し、養分の吸着保持能を高める努力がなされている。しかし、従来の改良剤は、性質改善効果の点や経済性の立場から問題のあるものも少なくない。効果が大きく、かつ、低廉価な土壌改良剤の出現が待たれている。

 ここでは、ゼオライト転換した石炭灰を無機質原料に用い、活性汚泥やバークなどを有機質原料にして、有機無機複合土壌改良剤を調製し、この改良剤により土のイオン保持能や吸着能など理化学的特性を改善することで品質の高い作物を高生産できる生育環境を作り出すことを試みた。

この試験に使った有機無機複合土壌改良剤の調製法を述べる。活性汚泥の風乾物を有機質原料に選び、以下に述べる方法で得た物質を無機質原料に使った。つまり、冷却管を取り付けた三角フラスコに、粒径の細かい石炭灰(フライアッシュ粉末)と3.5N NaOH水溶液を重量比で1対3.4の割合に混合して入れ、ホットプレート上で約90℃にて20時間ほど加熱処理した。処理後、遠心分離法にてよく水洗した。次に、1N CaCl2水溶液を加え、往復震とう器でシェイキングしCa飽和処理した後、過剰のCaCl2を水洗除去して105℃にて乾燥し粉末を得た。この粉末の無機質原料と有機質原料を1対4(重量比)の割合で混ぜ、一定期間、発酵熟成を処理行い複合化させた。熟成処理後の成分分析値は、水分、T−N、T−P2O5、T−K2Oが、それぞれ44.9%、1.3%、1.5%、0.9%で、CECは73meq/100gだった。活性汚泥のみを発酵させた場合は、養分として大切な窒素成分(植物三大栄養素の一つ)がアンモニアなどのガスなって揮散し、同成分含量が低くなった。窒素成分の減少は、複合化することで抑制できる。

 栽培試験は、花崗岩が風化して生じたマサ土(土性は砂質壌土、場所は愛媛県松山市)の水田休耕地に、秋バレイショ(ダンシャク)を栽培して、本土壌改良剤の効果を実証した。1.1mにうね立てし、種イモを約40cm間隔でほぼ10cm深さに植え付け、無処理区とした。この区と同様の植え付けを行い、種イモの間に、改良剤を約400gづつスポット状に施用し、全量で10アール当たりほぼ800kg添加した試験区を設け、処理区とした。また、改良剤の代わりに活性汚泥のみを使った試験区を有機処理区とした。施肥、散水などの肥培管理を全く同じにして、平成3年9月10日から同年11月30日まで前述のバレイショを栽培し、生育調査を行なって、無処理、有機処理区および処理区の間の生育状態を比較した。生育調査は、各処理区から無作為に十数個のバレイショを取り出し、生重量および大きさを計測して行った。なお、大きさは、イモの最も長い部分(長径)を測定した。

 栽培試験結果は次のようであった。各試験区の間には、生重量、大きさともはっきりした相違が認められた。すなわち、無処理区におけるバレイショ生重量の平均値と標準偏差は、128.6g、±21.9gで、大きさの平均値と標準偏差は、5.8cm、±0.3cmであった。有機処理区においては生重量の平均値と標準偏差は、168.7g、±17.8gで、大きさの平均値と標準偏差は、7.4cm、±0.3cmであった。

一方、処理区では生重量の平均値と標準偏差は、261.2g、±10.9gで、大きさの平均値と標準偏差は、9.5cm、±0.2cmであった。無処理区、有機処理区、処理区の順に、後の区ほど、生重量および大きさが増大している。バレイショの生育比較を写真−8に示した。処理区のバレイショは、無処理区および有機処理区のものに比べて生育が良好であるとことがわかる。データを一元配置分散分析にて統計処理したところ、各区の間には有意の差が認めれれた(P>0.005)。この生育調査結果より、マサ土のバレイショに対する生育環境は、活性汚泥自体の施用でも多少は改良できるが、ここで調製した有機無機複合土壌改良剤によって、さらに大きく改善できることが明かとなった。

 この改良剤の無機成分であるゼオライトは、多孔性で比表面積が大きく様々な物質を吸着保持する上、高いイオン交換能を発現する性質を持つ。このゼオライトに活性汚泥やバークなどの有機原料を添加し複合・熟成化すると、無機的および有機的にきわめてバランスのとれた、多機能性の土壌改良剤が生じる。このようにして得られた改良剤は、化学的に有機ケイ酸アルミニウムコンプレクスになっており、肥沃度の高いことで知られているチェルノーゼム土の主要成分に酷似しているため、有効かつ著しく効果的な土壌改善能力を安定して発揮する。

 理想的な土壌とは、高品質(味、香り、栄養などの点で満足できる)で、かつ、人の健康を損なう有害物を含まない果物、野菜など安全な作物・果樹を、省力的に多収穫できる上、回りの自然や生活環境に悪影響を与えないような土であろう。土づくりが目指すのは、できるだけ理想に近い土壌を育て上げることである。植物にとって生活の場である土壌を真の意味で最善にしておけば、植物は自力だけで健全に生育して病害にも打ち勝つので、過剰な肥料や度重なる農薬撒布は必要ない。

 土の性質は、物理性と化学性に2大別できる。物理性とは、土の硬さ、柔らかさ、水はけの具合、通気性など。化学性とは、土の持つ植物養分の種類・量や存在状態、養分保持力、酸性の程度などをいう。土づくりには、両方の性質を適正に保つことが大切である。

 土のこれらの性質を左右するのは、粘土や腐植などコロイドと呼ばれるものである。コロイドが集まり適切な団粒構造を形成すると、物理性は良くなる。コロイドの質と量が適切であると、化学性は良くなる。

 有機質堆肥とゼオライト転換した石炭灰との複合資材は、コロイドを大いに助ける働きがある(団粒形成の促進、植物養分の保持強化など)ので、うまく利用することで、理想に近い土づくりを大いに支援する。なお、堆肥中の腐植酸やフルボ酸のカルボキシル基に起因するCECは、pHや外液濃度に依存し、pHが低いと小さく、外液濃度が低いと小さい。一方、ゼオライトの4配位Alの負電荷に起因するCECは、pHや外液濃度にほとんど依存しない。堆肥に比べて、ゼオライトは安定して良質なCECを発現し、優れた保肥能力を有す。堆肥の有機物成分は繊維状の高分子なので、この繊維が土壌コロイド粒子どうしを縛り束ねることができ、Ca型ゼオライトとともに、団粒形成に寄与する。

 

第2項 土壌解毒への利用

1) 塩類濃度障害および微量要素過剰症の回復・防止

 施設栽培は、ガラスやビニールで覆っており降雨に洗われる機会が少ないため、施用した肥料に起因する各種塩類が集積しやすい環境にある。しばしば高塩類土壌が生成して、作物の生育とって不都合なことが多い。塩類濃度が高くなると、土壌溶液の浸透圧は上昇し、作物は水分吸収が抑制され異常となる。この異常は、葉色が濃くなったり、茎が細くなったり、果実の肥大が抑えられたりして現れる。異常の程度が大きくなると、葉は枯死し、成長は停止する。トマトなどの果実には尻腐れ症状が現れたりする。また、長年の多肥によって、微量要素の集積している場合も多い。銅、亜鉛などの微量要素が、異常葉中に、適量値の8〜50倍も含まれている例もあり、重金属類の過剰障害が生じている。上述の塩類集積や微量要素過剰は、作物の生産性の低下、品質の劣悪化を招くだけでなく、重金属類を高濃度に含む作物を食品として長期にわたって摂取することは、健康上も問題がある。このような問題点を解決するため、ゼオライト転換した石炭灰の利用した。

 定法によって、水酸化ナトリウムで石炭灰をゼオライト転換処理した後、カルシウム型ゼオライトにして資材にし土壌に施用した。施用土壌は、沖積水田土壌を、数年から10年くらい前に、ビニールハウスの施設栽培用に転換して、キュウリを連作してきた土壌である。微量要素入化成肥料を多施肥していたため、2〜年前より、キュウリは葉が葉脈に沿って黄変・褐色化するものが頻繁に現れるようになり、収量の大幅な低下を招いていた。土壌の導電率(EC)が2〜3mS/cmもあり、塩類集積による濃度障害も原因になっていると考えられる。この施設栽培の土壌に、上のようにして調製した本剤を300〜500g/平方メーターほど施用し、水を十分に与え約1週間ほど放置した。施用した土壌で生育したキュウリは、正常な新葉が生じ、新たな発根も観察され、塩類濃度障害および微量要素過剰症が軽減し回復してき(写真−9)。これに対し、本資材を施用しなかった土壌では、依然として障害がでたままであった。本資材は、塩類濃度障害および微量要素過剰症を除き、キュウリを回復させる効果を持っていることがわかった。土壌中の過剰微量要素に由来する重金属イオン類を本資材が強く吸着し余分な微量要素を不可給態化したため、回復した。

 次に、水耕栽培で行った、トマト尻腐れ病の防止試験の結果を示す。

従来、トマトの尻腐れ病は、培地にカルシウムが不足することから起こる、カルシウム欠乏症とされていた。しかし、施設栽培などで頻発するこの病気は、最近、銅、亜鉛イオンなどの微量要素を過剰に吸収することで誘因されるカルシウムの欠乏症(たとえ、十分量のカルシウムを施用しても)でもあることがわかった。茎や、果実の付け根のガクの部分までには、カルシウムが十分に吸収されているにもかかわらず、果実中には、カルシウム含量が極度に低くなっていることがわかった。これは、ガク部とトマト果実の間の細胞あるいは細胞膜が、銅、亜鉛イオン等の重金属によってカルシウムを透過させにくくなるようななんらかの機能障害を受けたものと考えられる。重金属による、細胞中のCa体内移動に係わる酵素(ATPaseなど)の機能異常あるいは、細胞膜の構造的・化学的変化が原因であろうが、詳細なメカニズムは、不明である。

 水耕の栽培養液に銅、亜鉛を過剰量添加して栽培すると、トマトに尻腐れ病が発生した(写真−10)。ゼオライト転換した石炭灰を、養液に加えますと、過剰量の銅、亜鉛が含まれていても、正常に生育できることが明らかになった。尻腐れ病を防ぐのは、ゼオライト転換した石炭灰が、これらの重金属を吸着し、トマトが吸収するのと阻害したたと考えられる。事実、銅と亜鉛の吸着実験を行なうと、第42図に示した吸着等温線(温度26℃前後、pHは約6の微酸性)のようにのよに、ゼオライト転換した石炭灰は、これらの重金属をよく吸着することがわかる。

 ガラス室栽培やビニールハウス栽培などの施設栽培において、キュウリ、ナスなどの野菜作物に頻発する塩類濃度障害や微量要素過剰症を、軽減および解毒・回復させる資材として、簡単な化学変化にゼオライト転換した石炭灰が利用できるのである。この資材によりイオン保持能、吸着能、団粒構造など土の理化学的および理工学的特性を改善することで、集積塩類の溶脱を促進するとともに過剰微量要素に由来する有害重金属類を吸着・無毒化して、品質の高い作物を高生産できる生育環境を作り出すことができる。

 塩類集積に伴い、施設土壌の作物は、次のような障害をうけやすい。

(1)塩類濃度障害

濃度障害の目安となる土壌の導電率(EC)は、風乾土:蒸留水=1:5(重量比)の懸濁液について測定する。通常、mS/cm(20℃)で表す。作付け前のECが1mS/cmを越えると、多くの作物で塩類濃度障害がでる。越えてはいけない目標値は、0.2〜0.5mS/cm。砂質土では低い値で、腐植の多い土壌ではやや高めの値で障害が出てくる。施設栽培で土壌溶液の濃度を高める塩類は、主に、硝酸塩である。EC測定値と硝酸態窒素含量との間には正の相関関係がある。塩濃度が高くなると、外液の高浸透圧にもとづき、浸透圧障害が出て、植物による水分吸収は減退し、高濃度に存在する特定イオンの特異的な悪影響が現れる。このため、水分が根から土壌溶液のほうに出てしまい、強い水分ストレスを受け、原形質分離を起こし作物は枯れる。

(2)アンモニアによる障害

塩類濃度が高まると、土壌微生物活性が抑制され、とくに硝酸化成作用がおさえられる。このため、アンモニアが集積してアンモニア過剰症(葉が裏側に巻いたり、トマトの葉は黒変する)が起こる。アンモニアが過剰になると、カルシウムの吸収が阻害され、カルシウム欠乏症が出ることがある。マンガン、モリブデン、亜鉛の吸収も阻害される。

(3)養分のアンバランスによる障害

極端な多肥により、いろいろな養分成分の相互間に拮抗作用が生じ、作物に吸収障害を起こす。

(4)ガス障害

施用した窒素肥料が形態変化を起こして、ガス障害が生じる。アンモニアガス、亜硝酸ガスの発生。施設環境では、外部に発散しにくいので、ガス障害が顕著になる。硝酸ガスや亜硝酸ガスのため、ハウスの鉄骨にメッキした亜鉛が溶け出して、重金属の毒性害(ナスに斑点が発生し枯れるなど)が現れた例がある。有害なガスは、作物への障害だけでなく、農作業者にも危険である。   

 一般的に、施設栽培土壌や長年多肥栽培を続けた土壌では、無機窒素や易分解性窒素、可給態のカリウム、カルシウム、マグネシウムが過剰に蓄積しており、また、それらの存在バランスは乱れていることが多い(硝酸カルシウムがもっとも多い。塩化カルシウム、硫酸カルシウムがこれに次ぐ。塩基の60〜70%はカルシウムで占められる。)。

 施設栽培では、野菜のように酸素要求の大きい作物は、土壌の物理性が良好なこと(団粒構造がよく発達し、通気性の良いこと)が重要である。露地栽培以上に土壌構造の維持が大切。ゼオライトや有機堆肥の施用の必要性は、露地畑以上に高い。施設土壌中にはカルシウムは十分にあるが、土壌pHを適切に保つなどのため、カルシウムの施用の必要なことが多い。炭カルやカルシウム型ゼオライトの施用が大切である。集積塩類の除去環境を改善するため、透水性を良好にする。透水性は良いが、肥料など養分が流亡しない土壌環境・生育環境が必要である。このため、団粒構造を適度に発達させ、ゼオライト施用などで良質なCECを大きくすることが肝心。良質CECは、生育環境のpHが変動してもCEC価が減少しにくく、雨水や潅漑水によってCEC部位に付着した養分(K,NH4イオンなど)が溶脱しにくい。

 海水流入による塩害の軽減対策に、ゼオライト転換した石炭灰を用いることができる。海水は塩分(NaCl)に加え、比較的多量の硫酸根をも含むので(海水の平均組成 第17表)、塩害と硫酸根による酸性害、および、還元的条件下では硫化水素による害が重複するため、被害は大きくなるばかりでなく複雑になることが多い。このため、充分な対策を施しておくことが重要である。台風などによる潮風や海水の流入などで、塩が作物に付着した時には、なるべく早く付着した塩分を水で洗い落とすことが必要である。土壌中に溜まった塩分は、水を掛け流して除塩処理をしなければならないが、この時、塩が流出しやすいように石灰を施用したり、ゼオライト、有機質堆肥を入れたりするのがよい。ゼオライトは、ゼオライト転換した石炭灰のようになるべくCECの高い資材を用いることが肝要である。台風などによる塩害に対しては、短期的・目先だけの単なる対症療法的な対策だけでは取り返しのつかない事態を招くことが多ので注意を要す。常日頃から、適切な管理や資材投入による塩害に強い土づくりを心がけることが大切である。土壌のCECを高めて良好な団粒を作っておくことは、肥沃度を上げたり、肥料の無駄な流亡を抑えるとともに、また再来するかも知れない塩害に対して土壌に抵抗力をつけることにもなる。

 

第17表 海水の平均的組成(塩分 3.5%の海水)(F.Culkin,1965)

 

      濃度(g/kg)

Cl    19.353

Na    10.76

SO4   2.712

Mg     1.294

K      0.387

HCO3 0.142

Br 0.067

Sr 0.008

B 0.004

F 0.001

 

 

第3項 植物の養液培養への利用

 養液による培養(水耕栽培など)は、植物や作物を育てるのに土壌を使わないで、養分を水に溶かした液(培養液)を用いて栽培する技術である。この栽培法は、生育管理に自動化が可能であり、省力的な栽培方式なので、最近のバイオテクノロジーと結びつき、いわゆる野菜工場あるいは植物工場の基盤となる方法である。自然の土や泥を使用しないので、栽培環境、作業環境が清潔になり、周囲への悪影響がほとんどない上、生産は天候に左右されることなく安定しているなど、利点の多い栽培法である。このため、今後ますます発展していく有望な技法である。しかし、施設費が高いとか培養液の管理に専門的知識を要するなど、まだ改良の余地も少なくない。とくに、培養液については解決しなければならない重大な課題が残されている。すなはち、培養液の組成や濃度は、根の養分吸収に伴い極端に変動しやすい。換言すれば、植物養分の組成や濃度に対して、緩衝力が弱いので、濃度の濃くなった所では濃度障害が現れ、低い所では生育が悪い。pHの変動に対して過敏なため、植物根から分泌される各種有機酸などにより養液のpHは大きく変動し、このpH変化はただちに生育に悪い影響を与える。また、培養液中の成分間の相互反応(例えば、沈澱反応など)が起こりやすい。この反応は、養分を不溶化あるいは不可給態化させ、しばしば、生育障害、品質低下などを引き起こす。例えば、Caイオンとリン酸イオンの沈澱反応はトマトに対してCaの吸収阻害を引き起こす。その結果としてCa欠乏に陥り、トマト果実の空洞化現象・症状が現れ、果実の品質は低下する。

 本利用方法は、ゼオライト転換した石炭灰がイオン交換機能を有すことを活用して、水素イオン等が入ってきても、養液のpHなどがあまり変動しない安定した栽培環境を保ち、上述のような培養液の持つ好ましくない問題点を解決するものである。

 次に、培養液中での緩衝能力の大きさを調べた。水1リットル中に養分としてN、P2O5、K2O,MgO,MnO、B2O3,CaO,Feをそれぞれ0.26g,0.12g,0.36g,75mg,1.5mg,1.5mg,0.23g,2.7mg含む培養液を用意した。分散質として、ベントナイトおよびゼオライト転換した石炭灰を使い、これらの粒子の表面を部分的に水素イオンとナトリウムイオンで飽和し、各々1gを培養液100mlに添加してコロイド培養液(懸濁培養液)とした。培養液および懸濁培養液について、濃度0.1Nの塩酸あるいはカセイソーダ水溶液にて滴定し、pHの変化を記録して緩衝能力を調べた。

 緩衝能力を測定した結果を、第43図に示す。酸またはアルカリの添加によるpHの変動は、培養液(図の曲線A)でかなり大きいのに対して、懸濁培養液(図の曲線BおよびC)では小さくなることがわかった。ベントナイトやゼオライト転換した石炭灰を懸濁することで、養液はpHに対して緩衝力が付与されることが明かとなった。緩衝能が現れる機構は次のようであると思われる。

塩酸を添加した時、

  (H+)n(Na+)m(X−n−m) + aH+ + aCl− −−> 

  (H+)n+a(Na+)m−a(X−n−m) + aNa+ + aCl−

の反応が起こりH+が分散質に取り込まれ、pHは低下しない。

カセイソーダを添加した時、

  (H+)n(Na+)m(X−n−m) + bOH− + bNa+ −−>

  (H+)n−b(Na+)m+b(X−n−m) + bH2O

の反応が起こりH+が分散質から放出されH2Oが生成するので、pHは上昇ない。なお、上式で、H+は水素イオン、Na+はナトリウムイオン、OH−は水酸化物イオン、H2Oは水分子を示す。Xは分散質を、a、b、m、nは電荷数あるいは各々のイオンや分子の数を表す。

 また、懸濁培養液の緩衝力の強さは、分散質の種類によって異なり、ベントナイトよりもゼオライト転換した石炭灰の方がより大きいことが観察された(図の曲線BおよびC参照)。このことは、分散質の種類によって陽イオン交換容量(上式のnとmの絶対値の和に関係する)の大きさが相違することに起因すると考えられる。事実、この容量の測定値は、べントナイトが92me/100g,ゼオライト転換した石炭灰が289em/100gと、養液により大きい緩衝能力を与える後者の方が値が大きかった。

 緩衝力の大きい懸濁培養液は養分濃度を高くしても濃度障害が起こりにくいので、濃い養液を使い生育を速めることで栽培期間を従来よりかなり短縮して生産性を高めることも可能である。また、分散質がイオン交換能に加えて活性炭様の吸着能を持っておれば、栽培中に植物根(体)から放出される各種有害成分が除去でき、さらに好都合な生育環境を作り出せる。

 最近、不定胚をアルギン酸などののカプセルに封入し人工種子を作ることが行われている。このカプセル内に、養分、生長調節物質、農薬などの他に、ゼオライト転換した石炭灰を混入して、共存する養分、生長調節物質、農薬など、不定胚に大切な成分を吸着反応やイオン交換反応をとうして、効果的に利用できるようにさようする。ゼオライト転換した石炭灰の働きは、人工種子の安定化、保存性の改善、発芽性の改良など高品位人工種子を作り上げる、引いては高級作物の作出につながる。

 

 

第4項

酸性雨に対する無公害的(環境の生態系を壊さない)中和処理への利用

 

 近年、酸を含んだ雨が、自然環境の破壊や人間の生活環境保全との関連で世界各地で問題になっている。酸性雨問題である。酸性雨の問題は、最初、ヨーロッパとくに北欧に始まった。今では、欧州全土、中国にまで広がり、アメリカ、カナダでは、外交問題に発展するほど深刻化している。酸性雨は、先進国がかかえる一種の社会病とまで言われるようになった。わが国でも、欧米ほどではないが、あちこちで酸性雨が起こり始めている。千葉県市原市、神奈川県川崎市、静岡県清水市などの地域で強い酸性の雨が記録されており、今後徐々に大きな問題に進展して行くことが予想される。元来、雨は地球に住むあらゆる生物に恵みを与えてきた。つまり、大地を潤し植物を養い、川を流れ湖沼や海にたまり魚を育ててきた。飲み水となったり、食糧をもたらす源でもある。森などの自然環境を生み出し、人々に快適さや安らぎを与え、住居や燃料を供給してきたのも雨である。天からの貴重な贈り物であるこの雨が、今や、酸性化している。酸といえば、小学校で習った塩酸、硫酸、硝酸など、衣服を焦がし皮膚を傷め、金属や岩石でさえも溶かす恐ろしい物質が思い浮かぶ。酸性雨は、日本でもわれわれの暮らしている地域に実際に降り注がれている。この雨は、河川や湖沼を酸性に変え、水中の植物、動物に悪い影響を与える。陸に住む動植物にも害をもたらす。土を酸性にし、植物の生命活動に欠くことのできない養分を流亡させる。森林を枯らし、農作物の収量を減少する。水銀など有毒な重金属や有害なアルミニウムを飲み水の中に溶かし出し、人間の健康をも損なう。世界で最初の酸性雨は、今から100年以上も前、当時、大工業地帯であったイギリスのマンチェスターやその周辺に局地的に発生していた。産業革命による多量の石炭燃焼からの排ガスが原因であった。1852年に、R.A.スミスが著した「Air and Rain: The Beginning of a Chemical Climatology」(大気と雨:化学気候学こと始め)の中で acid rain(酸性雨)という用語がすでに用いられている。この本の中で、酸性雨による植物や材料の被害についても着目している。

 酸性雨を論じるのに必要な指標としてpH(ペーハーまたはピーエッチ)がある。pHは、酸の素である水素イオンの濃度の対数にマイナスを付けた値で表示され、水素イオン指数とも言われる。pH7が中性。この値より小さい場合が酸性で、大きい場合がアルカリ性である。つまり、pH値の小さい雨ほど酸性が強いことを示す。雨は、もともと、わずかに酸性であるのが普通である。空気中の炭酸ガスが溶けて弱い酸性を示すからである。大気中の炭酸ガス濃度は、約0.03%(石油、石炭など化石燃料の燃焼により、現在、大気中の炭酸ガスは増えつつあるので、将来この濃度は大きくなるだろう)であり、この濃度の炭酸ガスで飽和すると、天然降水のpHは約5.6となる。従って、pHが5.6より低い雨を、通常、酸性雨と言うことになっている。降水が地表に達し土壌に浸透すると、多くは、土の中にある石灰岩などの岩石成分を溶かしpHは上昇する。

 大気中に炭酸ガス以外の酸性物質が存在しそれが降水に取り込まれると、雨水はさらに酸性になる。この酸性物質の原因として、化石燃料を燃やした時に発生する二酸化硫黄や窒素酸化物がある。天然においても火山から噴出する二酸化硫黄が酸性雨の原因になることもある。近年問題になっている酸性雨は、pHが4や3以下の値を呈すのである。pH3.5となると、pH5.6の通常の天然雨に比べて、なんと100倍ほども強い酸性である。

 酸性雨が広域的な問題であることがわかったのは、1940年以後のことである。スエーデンの土壌学者H.エグナーが、大気中の栄養塩が植物の成長に与える影響を調べるため、広域的な測定ネットワークを作り降水成分の調査を始めたことが契機となった。その後、同じくスエーデンの土壌化学者S.オーデンは、湖沼や土壌の酸性測定ネットワークを発足させ、酸性化の化学的データを調べた。この測定ネットワークは、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、さらには、西欧、中欧の諸国へと拡張され、膨大なデータを得ることができた。こうした測定により、スエーデン西岸の湖沼のpHは、1930年代と40年代には6.5以上あったのに、1971年には6.5以下に低下していることを知った。付近の湖沼の一つであるゲルサヨン湖の底質(湖底の泥)中のケイ藻の分析から、12、500年BCまでさかのぼって過去のpHを知ることができた。長い湖の歴史のなかで、最近、とくに1955年以降に、急激に酸性化が起こっていることが明らかになったのである。スエーデンやノルウェーの南部には、今では,酸性化した湖沼が1万以上もあり、日常業務のように、石灰(炭酸カルシウム)を投入して中和しているという。また、オーデンは、酸性化した降水と湖沼水(陸水)との関係から、ヨーロッパの多くの地域にまたがって酸性降下物がふっていること、および、酸性降下物は、硫黄および窒素酸化物を含んだ大気汚染物質がヨーロッパ諸国間を数百kmにわたり長距離輸送されることによることを明らかにした。国境を越えるこのような大気汚染は、1972年スエーデンで開かれた第1回国連環境会議で問題として取り上げられ、酸性雨問題が広く全世界的に知れわたるようになったのである。現在、酸性雨被害の大きい地域は、古くからの工業国が多いヨーロッパである。ヨーロッパ地域における酸性雨は、1985年に測定された降水の平均pHをみると、西ドイツ、東ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド付近が低く、この付近の平均pHは4.2と強い酸性である。降雨に含まれる酸性物質は、チェコスロバキアでは硫酸イオンが、西ドイツでは硝酸イオンが多い。硫酸イオンは石炭燃焼が、硝酸イオンは自動車の増加が原因と考えられる。北アメリカの地域では、ワシントン山における樹木の年輪幅からみた木の成長速度の変化から、大気汚染による森林の衰退が1960年ごろから始まったとみられている。この頃から、酸性雨もまたこの地域で起こり始めたのかも知れない。カナダにおいても、サトウカエデ、モミが弱ったり、枯死する割合が1970年後半から顕著になったといわれている。1983年の北米の降水の平均pHは、東北部を中心に低くなっている。中国におては、降雨pHの低い地域は、重慶、貴陽など、南部地域である。大量に石炭を燃焼することが、酸性雨の主な原因であろうと考えられている。石炭が大気汚染の最大の原因になっているのである。

 降水による大気汚染物質の浄化作用には、雲内洗浄(rainout)と雲底下洗浄(washoout)の二通りがあるとされている。雲内洗浄による酸性雨は、広域的な地球規模で現れ、雲底下洗浄は、局地的な酸性雨を引き起こす。つまり、汚染地域の近くでは、大気中に酸性物質があることが多く、雨が降っている間に(雨滴が雲から地表に着くまでに)その場所の大気汚染物を溶かし込むのである。酸性雨の正確なデータを得るために、酸性雨ろ過式採取装置や酸性雨自動採取装置と呼ばれる機械を使い、降雨試料を採取する。感雨器(センサー)による自動開閉式の装置もあり、雨のpHはもちろんのこと、硫酸イオンや硝酸イオンなどの化学成分も測定する。これらの装置により、重力沈降や拡散などによって汚染物質が大気中から地表に沈積する乾性沈着、と、降水に混じり沈積する湿性沈着を、区別し測定できる。

 わが国では、1970年に関東地方で酸性雨による人体被害と植物被害がでたため、これを契機として、各地で酸性雨調査が行われるようになった。降水酸性化の現状を把握するため、上述の装置と自動採取法を組み合わせ、1983年になって、環境庁は第1次酸性雨対策調査を開始した。同調査で得られたろ過式採取法でのpH年平均値は、pH4.6〜5.1であった。降水中には、硫酸、硝酸、塩酸の順に、前の酸ほど多く含まれている。人為的な酸性の源は、硫酸、硝酸、塩酸に対して、それぞれ、石炭などの燃焼ガス、車排気ガス、ゴミ焼却による排煙である。日本で一番低いpHを示した降水は、1987年6月15〜16日に鹿児島市で観測され、pH2.5とたいへん酸性が強かった。この雨の酸性は、桜島の火山噴出物の影響が大きいと考えられている。主に人為的な原因で酸性化したと思われるpH3以下の降水は、20例近くある。日常降っている日本の雨は、離島である小笠原を除いて、ほとんどの地域でpH5以下の降水であることがわかった。日本海側の石川県での結果は、金沢から山間部に入るほど降水pHは高くなっていた。福井県でもほぼ同様の結果だった。pH低下に果たす硫酸イオンの役割は、太平洋側より大きいこともわかった。近隣諸国の石炭燃焼の長距離輸送の影響かどうかは、はっきり言えないが、韓国や中国との国際共同研究を進め、酸性雨による被害を未然に防止することも必要であろう。

 酸性雨は、土壌の酸性化を通じて地球上の生物相に悪影響を及ぼすことがわかっている。植物の生育は中性ないし微酸性が好都合なので、土壌酸性化は、好ましくない環境を植物に与えることになる。植物に対する酸性の害は、pHが低いこと、有毒な交換性アルミニウム(Al)イオンの出現、カルシウム,マグネシウム,リンなど植物養分の溶脱と欠乏、重金属類やマンガン等有害成分の溶出、土壌微生物の減少などによって引き起こされる。pHの低下は、そのことによる直接的な害より、むしろAlイオンを出現させる間接的要因として働く。岩手県の小岩井農場などでは、数年に1回、計画的に炭酸カルシウム(石灰)や水酸化カルシウム(消石灰)の散布を行って、土壌の酸性化を矯正する必要があるといわれている。ヨーロッパ中西部、アメリカ北東部などでは、酸性雨によると考えられる森林被害が大きな社会問題になっている。西ドイツのシュワルツワルト(黒い森)に代表されるモミ林の枯損がそれである。同国のハルツ山地においては、樹齢140年のトウヒ林に、緑葉の黄変現象が見られるという。この黄変は、葉のマグネシウム欠乏症といわれている。チェコスロバキアでも、モミ林、トウヒ林に被害が報告されている。最近では、中国南西部でも森林の枯損が進行していると報じられている。わが国では、アカマツ林の立ち枯れが、酸性雨による被害ではないかと指摘されたことがある。酸性雨が原因する森林被害は、現在わが国では、ほとんど顕在化してないといわれている。しかし、日常的に降っているpH4〜5程度の酸性雨でも、長期間降り続けば、硫酸イオンや硝酸イオンなど酸性物質が土壌中に集積する。その結果、土壌の酸性化が進行して、植物に有害なAlイオンが溶け出して、森林生態系に被害を及ぼすことは確実である。被害が目に見えるようになってからでは、土壌は著しく酸性化し、森林生態系は回復不可能なまでに破壊されてしまっているので、対策をうってもあまりに遅すぎる。土壌に対する酸性雨の影響は、一過性のものではなく、時間の経過とともに徐々に蓄積していく。土壌は、酸性雨に対してある程度まで抵抗し、酸性化をくい止めるが、酸性雨の蓄積がある限度を越えると、植物が生育できないほど土壌が悪化する。この状態になると、いくら土壌改良剤などで対策をとっても、手遅れになっており、回復できない。今、酸性雨による土壌酸性化や森林被害の仕組みを明らかにしておき、被害軽減対策を検討しておく必要がある。対策としては、酸性雨の原因になっている大気汚染ガスの排出をさらに規制するとか、森林に炭酸カルシウムをまき酸性化に歯止めを加える。森林を構成する樹種を酸性雨に強い種類に替えるなどであろう。

 湖沼調査では、酸性物降下による川や湖の酸性化は、日本では幸いなことに

まだ確認されてない。しかし、このまま酸性雨が続けば、わが国の川や湖沼は酸性化し、水中の生物に重大な被害がでるのは確実である。川や湖の水が酸性化するとそこに住む生物に何がおこるのであろうか。魚体内の塩化ナトリウム(食塩の成分)濃度は、酸性の水の中では下がることがわかっている。塩化ナトリウムが出ていくと、魚は浸透圧調節機能など生理機能の低下を招き、死にいたる。また、土壌から溶けたAlイオンが魚に対して毒性がある。低いpHの水中では、脱皮後のザリガニはカルシウムをうまく吸収できず、殻を作れなくなり、Alイオンがあると、殻はさらに形成しにくくなるといわれている。水生植物、例えば、藻類では、pHが低下するとリンや窒素などの養分供給が阻害される。全炭酸濃度が減少することによる光合成への影響もでる。北海道などでは、春先の融雪期に小川のpHが低下している事実が観測されているので、直ちに全国的に酸性化が広がることはないにしても、河川や湖沼の酸性化には注意を向けておく必要がある。

 酸性雨の対策は、降水を酸性化する有害成分の放出を抑制することに加えて、すでに酸性になった湖沼、河川など水圏や土壌など陸圏の酸性中和処理がある。

酸性化した環境では、酸そのものも害のほか、アルミニウムイオンや各種重金属イオン類の可溶化を引き起こす。これらイオンの溶出は、酵素阻害作用をとうして植物の生育に障害を与えるとともに、地下水、河川水などを経由し飲料水に入れば、人間の健康をも害する。酸性を矯正することは、植物の生育障害を防止することに加えて、人の健康に関わる生活環境を改善することにもつながる。中和処理のための従来法は、上に述べたように石灰や消石灰などのアルカリ資材投入による方法である。しかし、この方法は、陽イオンにカルシウムイオンだけを含有するアルカリ資材を長期にわたり施用するやり方であり、連用すると水圏や陸圏環境の中にカルシウムイオンの異常な集積を招くことが予期できる。カルシウムイオンは、地球環境に生きる植物や微生物、動物の栄養素の一つなので、単一栄養素の偏った濃縮は、栄養バランスを乱し、ついには環境の生態系を崩壊してしまう可能性がある。事実、カルシウム分が他の栄養素に比して高濃度にした培地では、糸状形態の緑藻類であるフシナシミドロの生育は阻害されることがわかっている。また、石灰や消石灰などの施用による酸性の矯正は、矯正用資材の散布を均一にすることが困難であり、しばしば、部分的な過剰中和が起こる。過剰中和によるpHの上昇は、土壌中の微量栄養素(銅、亜鉛など)の不可給態化を招き、植物は微量要素欠乏症に起因する生理障害に陥り、健全な生育ができないばかりか、枯死する場合も多い。酸性雨の中和や酸性化した環境の酸度矯正に対して、環境の生態系を壊さないよう無公害的に処理できる中和・矯正資材の開発が待たれている。ここでは、ゼオライト転換した石炭灰による酸性中和とその中和メカニズムに関する基礎的知見を述べる。このような資材に活用することで、ゼオライト転換した石炭灰のリサイクルの拡大を目指した。

 ゼオライト転換した石炭灰(人工ゼオライト)は、以下のように処理して試料に供した。この人工ゼオライトは、交換性陽イオンがナトリウムイオンなので、Na型人工ゼオライトとした。交換性陽イオンの種類を異にする人工ゼオライトを調製するために、濃度1NのCaCl2、MgCl2、KClあるいはNH4Clの水溶液を加え、往復しんとう器でシェイキングし、各陽イオンで飽和処理した後、過剰の塩を水洗除去して105℃にて乾燥し粉末試料を得て、それぞれ、Ca型、Mg型、K型、NH4型人工ゼオライト試料とした。

 酸性中和実験は、次のようにして行った。各種の陽イオンで飽和した人工ゼオライト試料を0.1gとり、これに初期のpHを2.0に調節した硫酸水溶液(酸性雨のモデル)を、量をかえて添加し24時間シェイキングした。中和平衡に達したことを見届けて、上澄みのpHを測定した。次に、同量の人工ゼオライト試料に、初期pHを異にする硫酸水溶液(濃度は、0.00001N〜0.01N)を、5ml、30mlあるいは60ml加えて、同様にシェイキングして、中和平衡時のpHを測定した。酸性雨のモデルとして硫酸水溶液を用いたのは、実際の酸性雨に含まれる酸(硫酸、硝酸、塩酸、有機酸など)のうち、硫酸が環境とくに土壌環境の酸性化(硫酸酸性土壌の出現など)を引き起こしやすいと考えられるからである。

 石炭灰および各種交換性陽イオンで飽和した人工ゼオライトに、初期pH2.0の硫酸を量をかえて添加した場合の中和反応結果を4−2−4第1図に示す。硫酸酸性土壌を念頭において、硫酸に対する人工ゼオライトの中和効果を示すものである。人工ゼオライトの原料である石炭灰は、どの添加量でも平衡pHがほぼ2と一定しており、硫酸に対して中和能がほとんどないことがわかる。人工ゼオライトに転換した試料は、実験した添加量の範囲(70mlまで)において、平衡pHは2以上に上昇していることから、中和反応を起こして硫酸の酸度を弱めていることがわかる。添加量の増大に伴う平衡pHの下降カーブは、人工ゼオライトという塩基の硫酸による滴定曲線になっていることがわかる。この曲線より中和の程度は、酸添加量が大きくなるほど小さいのはもちろんのこと、交換性陽イオンの種類によって異なることが明らかとなった。中和能は、10mlまでの添加では、アルカリないしアルカリ土類金属イオンの人工ゼオライトが大きく、アンモニウムイオンでは小さかった。

 以上結果より、人工ゼオライトによる酸性中和のメカニズムは次のように考えられる。人工ゼオライト本体をZ、交換性陽イオンをM、水素イオンをH+とすると、次のようなイオン交換反応が起こる。

 

(Z−x)・X/n(M+n) + Y(H+)  → 

(Z−x)・Y(H+)・(X−Y)/n(M+n) + Y/n(M+n)

 

 ここで、Xや X は人工ゼオライトの負電荷の数(陽イオン交換容量に当たる)、nや n は陽イオンの陽電荷の数(価数)、Yは添加した水素イオンの量(数)である。

 硫酸添加により増加した水素イオンは、上述の反応式のように、人工ゼオライトの交換性陽イオンとイオン交換して吸着される。その結果、酸度の減少(酸性中和)が起こりpHが上昇する。中和の程度は、Xが大きいほど、つまり、人工ゼオライトの陽イオン交換容量が大きいほど大きい。中和できる水素イオンの量(Y)は、反応が理想的に100%進んだ場合はXまでであるが、現実的には可逆反応となり交換平衡に達するためXより少し小さい値までであろう。交換性陽イオンの種類の違いによる中和能の相違は、人工ゼオライトに吸着している陽イオンの一部が加水分解をとうして出現するアルカリの種類(強さ)に、関係あると考えられる。アンモニウムイオンは弱いアルカリである水酸化アンモニウムを、ナトリウムイオンは強いアルカリの水酸化ナトリウムを生じる。

 次に、交換性陽イオン別に見た人工ゼオライトの中和反応結果を4−2−4第2図から4−2−4第6図に、石炭灰の結果を第7図に示す。比較に用いた石炭灰は、硫酸の初期pHが2位の低い時には、5〜60mlのどの添加量でも、平衡pHはほぼ2と変化がほとんど認められない。硫酸濃度が減少し初期pHが高くなるにつれて、平衡pHは大きくなり、わずかに中和効果が見られるようになった。これに対して、人工ゼオライトでは、どの初期pHでも明らかに石炭灰より大きい中和効果が認められ、この効果は、陽イオン種に左右されることがわかる。Na型人工ゼオライトは、初期pH2〜3が強酸性領域では、最も大きい中和能を示している。しかし、弱い酸性(初期pH4〜5)では、平衡pHが8を越えた。このpHは、植物の生育には少し高すぎ、微量要素欠乏症を引き起こすこともあると思われる。Ca、Mg、K、NH4型の人工ゼオライトは、弱酸性領域でも8以上の平衡pHは現れなかった。実際の硫酸酸性土壌に施用するには、Na型以外の人工ゼオライトがより安全であると考えられる。Na型の多用は、pHが中性域を越えるという恐れだけでなく、Naイオンの集積による土壌構造の崩壊や植物生育障害が起こることも考えられるので、避けることが望ましい。Na型以外としては、Ca型人工ゼオライトが適していると考えられる。植物養分の不足した土壌では、経費を考慮しなければ、K型やNH4型の人工ゼオライトを施用する方法が考えられ、相当の効果が見られると思われる。異なる交換性陽イオンで飽和した人工ゼオライトを、適当な割合に混合して酸中和処理資材として用いると、中和過程で放出する陽イオン種は様々であるので、植物養分が単一種に偏るという弊害を避けることができる。土壌の陽イオン交換容量に対して効果の現れる値まで、人工ゼオライトを十分に混入施工した後は、塩安、硝安など含有する化成肥料や石灰を定期的に少量ずつ施用するだけでよいと思われる。施用量は、その時点での陽イオン交換容量を考慮して、塩基飽和度を常にほぼ100%に保てる量(その地点の降雨量や雨水のpHで異なる)を目安にすることができる。

 酸性矯正について、石灰施用などの従来法と人工ゼオライトを用いる新しい方法を比較すると、新方法は、@イオン交換反応が主なメカニズムなので存在する酸量に応じて中和反応が進むため、過剰中和障害を引き起こすことが少ない、A土壌を均一に中和できる、B中和に加え、植物養分や水分を保持する力が強化できるので、肥料の無駄な流出を抑制できる(少ない施肥量で植物が長期間安定して生育できること、地下水などに肥料分が流入しにくいので水質汚濁を防止できること、など肥料経済や環境保全的にも利点がある)、C人工ゼオライトは、アルミニウムイオンや銅、亜鉛などの重金属イオンを吸着できるので、溶出したこれらの有害イオン類を除去する機能がある、等々多くの有利な点を持っている。

 

第5項 根腐れ病防止への利用

 「根腐れ病」(根腐れ)は、多くは菌類感染によって起こる植物の病害である。この病害は植物を栽培するとき頻繁に遭遇する不都合な障害の一つである。根腐れが現れると植物は生育不良を引き起こし、葉縁から褐色ないし紫褐色となり急激に萎凋し、細根は褐変腐敗してしまう。立枯れなど枯死に至る場合も少なくない。ナス、インゲン、イチゴ、ラン、シクラメンなどで多く発生する。根腐れの原因は、栽培環境中で水分状態が不適切であると、植物体、とくに根部が不健全になって、担子菌類が寄生することにある。イネなどでは、硫化水素など植物根細胞の酵素に有害作用を与える物質の発生も原因となる。水分状態の不良に起因する根腐れは、湿地での作物栽培、過剰の給水などの場合に現れるので、水分管理が重要となる。しかし、耕地などの栽培環境および、培養土、ピートモスなど従来の植物生育資材を使っての培養や栽培において、根腐れが起こらないよう適切な水分状態を作り出したり維持管理することは容易ではなく、とくに発症しやすい植物種(根腐れ感受性種)ではさらに困難となる。水分状態を改善することで根腐れ発症を防止できれば感受性種の培養や栽培が容易になり品質も向上するので、効果の高い「根腐れ防止用栽培材」の開発が待たれている。植物生育環境の水分状態を改善し良好に保つことで、根腐れの発生を起こりにくくするための栽培材を作り出すことが重要である。植物生育環境の水分状態を最適化し適切に保つよう土壌成分や生育資材に、ゼオライト転換した石炭灰(人工ゼオライト)を、水分を担持できる吸着剤として混和、複合化などして根腐れ防止用栽培材に利用することを試みる。

 次に人工ゼオライトを根腐れ防止に利用した試験例を示す。従来の栽培材と供試栽培材との根腐れ発生に対する比較試験である。使用した根腐れ防止用栽培材(供試栽培材)の調製は以下のようにして行った。人工ゼオライト(石炭灰をアルカリ処理して得たもので、ゼオライト成分の他、活性炭類似の炭素成分など非ゼオライトも含む)を、Caイオンで飽和した後、バインダーとして約10%セメントを添加し直径1ないし2mmの球状に造粒して、溶出成分を除去するため流水でよく洗浄した。この造粒物を、十分に水を含ませた状態のミズゴケに、重量で2〜3%ほど添加して、均一に混ざるようよく撹拌した。人工ゼオライトとミズゴケの混合材を供試栽培材として用いた。

 茎頂培養繁殖法で得た、コチョウランの子苗(2枚程度の幼葉と2〜3本の幼根を有す幼植物体)を、円筒形ポリ容器(直径3cm、高さ5cm)に詰めたミズゴケ(従来の栽培材)に植え付け、約23℃の温室に入れ栽培した。この時、ミズゴケには、十分量の水をしみこませておいた。供試栽培材にも同様にしてコチョウランの子苗を植え付け、同じ条件で栽培した。40〜50日間の栽培で、成長したコチョウランの個体が生じた。この栽培過程で、従来の栽培材を用いたものでは、約40%の個体に根腐れが発生したが、供試栽培材では、発生率が10%と著しく低下した。

 得られたコチョウラン個体を増やすため、ポリ容器よりも少し大きな植木鉢に株分けし植え替えて、2回目の栽培を行なった。栽培材は、従来法ではミズゴケを用いるだけだが、新方法では、最初の栽培時と同じように人工ゼオライトを添加したものを使用した。この栽培の場合、高度化成肥料組成の液肥(Mg,Ca,Bなどを微量要素成分として少量含む)を3000倍に希釈した肥料を時々少量施用した。従来法では、この2回目の栽培で、10%ほどの根腐れ発生が見られたが、新方法では、わずが2〜3%に減少した。

 さらに、コチョウラン個体を増殖するため、2回目の株分て植え替えを行い、もう一度、栽培(3回目の栽培)した。植木鉢は、さらに大きなものを用い、栽培は前回と同様に行なった。3回目の栽培においても、供試栽培材では、根腐れの発生率は低下していた。

 以上の試験結果より、人工ゼオライトを添加して調製した供試栽培材は、従来のミズゴケだけの栽培材に比べて、コチョウランの根腐れ発生を大きく低下し防止する効果を持っていることが明らかとなった。

 人工ゼオライトが含有するゼオライト成分や活性炭類似成分の有用機能が、発生率を減少するのに役だっていると考えられる。この有用機能は、吸着性に基づき、水分の調節、有害成分の吸着除去、菌類抵抗性を付与し罹病を低下する働きなどが発現することによる。

また、植物が必要とする水分の放出や取り込みを制御できるので、栽培環境の水分状態を生育にとって良好な状態に保つ働きがある。この働きにより、人工ゼオライトは、水分不足や過剰に陥らず常に適切な状態を維持する作用を発揮するのである。

 従来の栽培材と供試栽培材について、栽培中のpHを測定したところ、前者ではpHが5.1と酸性であったのに対して、後者では6.7とほぼ中性であった。この酸性化は、植物根から分泌する有機酸が主な原因と考えられる。栽培環境の酸性化は、コチョウランの生育に不都合な状態を作り出すのみならず、根腐れの原因ともなる菌類の活動を助長する。供試栽培材は、人工ゼオライトの緩衝能により、pHの低下が現れないので、好都合な生育環境を維持できることも根腐れ発生の防止に大きく関わっていると思われる。

 良好に生育させて商業的価値の高いコチョウランを高歩留まりで生産するには、根をよく育てることが必要である。人工ゼオライトは、根をうまく育てるのに不可欠な培地の水分状態を効果的に調節し、コチョウランの健全な生育を援助することがわかった。ラン類は、根腐病以外にも、黒腐病、軟腐病、炭素病など、水管理(潅水)の微妙な不適切さから様々な病気に簡単にかかるので、その栽培技術は深い専門的知識を持っていても容易ではない。人工ゼオライトは、コチョウランのような複雑な技術を要する植物を栽培する場合の、有力な栽培支援資材に利用できる。人工ゼオライトの利用によって、栽培に高度の知識を要しないうえ、経済的にも廉価に高品質の植物を繁殖でき供給できる。

人工ゼオライトを利用した根腐れ防止用栽培材は、ナス、インゲン、イチゴ、シクラメン、ランなど根腐れを起こしやすい感受性植物を育てる場合、生育環境中の水分状態を改善し適切に保つ働きをとうして根腐れ発生をくい止め健全な生育を促すので、品質の高い植物を高収穫で得ることができる。高品位植物の高生産は、農家など生産者にとって多大な経済的効果を生み出す。根腐れ防止用栽培材を作るに人工ゼオライトを使う場合は、石炭灰という環境保全上社会問題化している廃棄物の再生リサイクルにも貢献する。

 

第6項 藻場を形成する漁礁や消波ブロックへの利用

 

 近年、水圏の環境改善に関心が高まっており、水生動植物の生態的バランスを良好に保つための方法や技術が開発されてきた。漁礁を沈めた海域や消波ブロックを設置した水域を、海藻など水生植物が繁茂する藻場とし、魚類など水生動物が住み着きやすい生活環境の場所にする方法が施行されるようになっている。良好な藻場を作るため、漁礁や消波ブロックの表面に硫酸鉄など鉄化合物を混入した塗料を塗布し、水生植物の微量要素である鉄分を供給することで、海藻などの生育を促す方法がとられている。しかし、この鉄化合物を塗布した漁礁や消波ブロックの表面からは、過剰の鉄分が速いスピードで溶出することが多く、水生植物にとって微量で充分な養分が過多に供給され、海藻の生育はしばしば悪化する。鉄化合物の過剰放出は、水圏の汚染を引き起こす恐れもある。また、この種の漁礁や消波ブロックを製作するには、コンクリートなどの材料を成形した後、塗料を塗る作業が入ることで、工程が煩雑となり、製作コストも高くなる。製作工程が簡単で水質汚濁を起こさない安全な藻場漁礁や水生植物がよく茂る消波ブロックを製作する技術や方法の開発が待たれている。ここでは、ゼオライト転換した石炭灰を利用して、微量要素の鉄イオンを徐々に放出することで、海藻などに必要最小量だけ供給でき、鉄分の過剰溶出が起こらないうえ、塗布工程などを不必要にして、低廉な漁礁や消波ブロックを得ることを試みる。すなわち、鉄分の放出を抑制制御するため、鉄イオンを吸着担持したゼオライト(鉄型人工ゼオライト)を、コンクリート等の材料に添加した混和原料を用意し、この原料を成形して漁礁や消波ブロックを作成するという手段で、藻場の形成を容易にしようというものである。

 以下に、試験法および実験結果を述べる。ゼオライト転換した石炭灰(人工ゼオライト)を、1N塩化鉄水溶液で処理して、鉄型人工ゼオライトを調製した。セメントに鉄型人工ゼオライトを、重量比で10、20、30、40、50%と五段階に量を変えて混合した。このゼオライト混合セメントを用いて、縦25cm、横40cm、高さ5cmの直方体形のブロック(投影平面積:0.1平方メートル、体積:0.005立方メートル、重量:11.5キログラム)を形成し、供試ブロックとした。セメントだけで同様の直方体ブロックを作製し、対照として使用した(対照ブロック)。供試ブロックと対照ブロックを徳島県松茂町海岸の平均水深2m前後の海中に沈めて、海藻の着床生育の様子を観察した。

 海中に沈めて1週間経った時、供試ブロックに海藻(紅藻類)の着生が認められた。対照ブロックは変化がなく海藻着生は認められなかった。2週間後には、供試ブロックに海藻(緑藻類)の着生が見られ始めたが、対照ブロックは変化がなかった。4週間経過した時には、緑藻類は供試ブロックの表面を半分以上覆うほどに生長していた。一方、対照ブロックは、海中に沈めた時点のまま変化しておらず、海藻の着生は依然認められなかった。供試ブロックについて、鉄型人工ゼオライト混入量と海藻着生の程度は次のようであった。20%混入までは混入量が多くなるほど着生の程度は明らかに大きくなっていた。それ以上の混入では、ほぼ一定、あるいは、わずがに低下していた。このことは、鉄型人工ゼオライトを20%ほど添加した場合に、海藻着生が最も大きくなることを示しており、漁礁や消波ブロックの作製においては、コンクリートに対するゼオライトの混入比が重要であることを示唆する。海藻着生に及ぼす鉄型人工ゼオライトの効果の写真− (漁礁および消波ブロックの試験片における、海藻着生に及ぼす鉄型人工ゼオライトの効果を示す写真である。写真で、左図(1)は対照ブロックで、右図(4)は鉄型人工ゼオライトを20%混入して作製した供試ブロックである)に示す。対照ブロックには海藻の着生がほとんど認められない。これに対して、供試ブロックでは、ブロック面のほぼ3分の2にわたって海藻(大部分が緑藻類)が活着し、大きいものでは高さ約5cmにも達するほどに生長しているのがわかる。この海藻の付近には、巻き貝も生活しており、一つの小さな生態系を形作っているものと思われる。

 以上の結果より、鉄型人工ゼオライトを混ぜることで、ブロックは海藻の誘引・着生と活着生育の効果を現すようになることが明らかになった。同ゼオライトの過剰混合は、海藻の着生効果をかえって減少させる場合があるので、セメントに対して20%程度の混入が最も効果の大きいことがわかった。この程度の混入では、ブロックの強度はほとんど低下せず、破壊に対して十分に耐えうる。

 鉄イオン徐放出性の藻場漁礁および消波ブロックは、微量要素の鉄分を必要最小量だけ供給でき、海藻の着生を良好にする。海藻が繁茂した漁礁や消波ブロックは、様々な種類の魚類が生存しやすい環境を提供するので、水生生物の生態系を好都合な状態に保つ効果を生む。このような漁礁や消波ブロックの製作は、従来のような鉄分入り塗料の塗布工程が不必要なので、経済的にも低廉価で行える。また、鉄分の過剰溶出が起こらないので、水圏を汚染しない環境調和タイプの漁礁や消波ブロックであることも大きな効果としてあげてよい。

 上述のような効果が現れるメカニズムは、次のようである。人工ゼオライトは、吸着容量と吸着強度の大きい担体であるので、鉄型にした人工ゼオライトからは、鉄イオンが著しく緩慢に長期間放出し続ける。従って、鉄イオンを担持させた人工ゼオライトなどの担体を適切な量混和したコンクリートなどの材料で漁礁や消波ブロックを製作することで、鉄分の放出を海藻など水生植物の生育に必要な量だけに抑制することができる。人工ゼオライトの混入により、コンクリートブロックから、水生動植物に有害な強アルカリ性の成分が溶出しにくくなることも、効果発現に寄与していると思われる。

 人工オライトに吸着している鉄イオンなどは、海藻などが接触すると根部から分泌される水素イオン等とイオン交換で始めて放出され吸収される。植物による吸収が行われないと、鉄イオンなどは放出しないので、水質の汚濁はほとんど起こらないと考えられる。

 いろいろな水界で、Fe、Mn,Mo,Co,Znなどの添加は、藻類の生育状態を良好化することがわかっている。通常、藻類はアンモニウムイオンの方をが硝酸イオンより好んで使う。硝酸イオンは、アンモニウムイオンに還元されてからアミノ酸合成に使われるため、代謝に余分のエネルギーを要するが、アンモニウムイオンは、そのままアミノ酸合成に用いられるので、代謝効率が高いので、光制限下では、アンモニウムイオンの方が、増殖速度が大きい。このような事実を考慮すると、鉄型人工ゼオライトの他、Mn,Mo,Co,Znおよびアンモニウムイオンなどを吸着担持した人工ゼオライトを添加して作製した漁礁や消波ブロックも、藻場を構築しやすい性質を現すことが予想できる。

 

第3節 触媒機能、その他の特性を活用したリサイクル技術

第1項 

NOx分解への利用

 火力発電所や工場のボイラー(固定発生源)、自動車、船舶、航空機、オートバイ等の内燃機関エンジン(移動発生源)などから放出される排ガスには、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物あるいはスス等のが有害成分が含まれる。これらの成分は、地球を取り巻く大気に拡散し、酸性雨や光化学スモッグ汚染を引き起こす主ま原因物質である。光化学スモッグは、窒素酸化物と炭化水素などの大気汚染物に太陽の紫外線が照射されて空気中で連鎖反応的にオキシダント、PAN(パーオキシアセチルニトレイト)などの有毒な光化学反応物質が生成して発生する。光化学スモッグは、人間を含む動物や植物、農作物などに好ましくない影響を与える。人に対しては、眼の刺激、ゼンソク、呼吸器官の障害など健康を損なうなど人体に障害を与える。大気汚染や酸性雨は、生物を含め地球上の大規模生態系に好ましくない影響を与えるので、その軽減対策は緊急を要す。上述の排気ガス成分のうち、とくに対策を必要とされ、最も問題になっている成分に窒素酸化物がある。この成分は、精製し燃料中の窒素化合物を完全に除去しても、燃焼時に空気の窒素ガスを巻き込み、窒素酸化物として出現するというやっかいな問題を抱えているからである。窒素酸化物は、窒素に対して様々な割合で酸素が結合した一連の化合物群であり、NOxと表示され「ノックス」と呼ばれる。排ガスのNOxを削減するには、ボイラー、エンジンなどの燃焼機構を改良して生成量を減らす方法と、排ガスを処理することで分解する方法がある。このうち、排ガス処理の方法は、触媒を利用してNOをN2とO2に分解し無害化するやり方である。自動車のガソリンエンジンには三元触媒(白金−ロジウム−パラジウムを含む触媒で、排ガス中のCOおよび炭化水素を還元剤に使いNOを還元する;燃料と空気の混合比を制御して燃焼することで、排ガスの酸素濃度を極力低くおさえる;酸素濃度が高いとNOの還元力は極端に小さくなる;非選択的接触還元)が、火力発電所などのボイラーには排ガス脱硝装置がNO低減のため実用化されている。しかし、大気に放出されるNOx量は、増加の一途をたどり、汚染が深刻になっている。このNOx増加の原因は、最近、とくに増えてきたディーゼルエンジン車の排ガス、や、省エネルギーシステムとして建物などに導入されたコジェネレーションシステムのディーゼル機関からの排出にあるとされている。自動車によるNOx排出量は、現行規制のままでは、西暦2030年までに約2に増加すると予想されている。

 NOxは、空中に存在する窒素が高熱で酸化されると生じる化合物群で、N2O、N2O4、NO、NO2、N2O5、N2O3などがあり、反応性に乏しいNOがほぼ9割を占める。従って、NOxを防止する場合、本化合物群のなかでの反応しにくいため分解困難な一酸化窒素(NO)の除去が重要になる。NOが窒素と酸素に分解する反応は、2NO → N2 + O2 で表され、平衡状態で右辺に偏っている(1000℃以下で)ため、比較的分解しやすい反応である。排ガス中のNOを取り除くのに、この反応を利用して分解するという方法は、簡単かつ安価はやり方といえる。しかし、この反応に好都合な触媒は、これまで、あまり見つかっていなかった。理由は、NOの分解で生じるO2やガス中に残っているO2が触媒に対して被毒作用を示すためである。触媒表面に吸着した酸素を、脱気処理や還元剤で取り除き、活性を持続させることが必要である。よって、接触還元プロセスのみが、最良の方法ではないが、実用化されている。02による被毒を受けにくく、安価で実用性のある高活性の触媒開発が必要なのである。

 ここでは、ゼオライト転換した石炭灰を触媒として活用することで、NOの接触分解にリサイクルすることを試みた。

 実験は次のようにして行った。使用した試料は、先に述べた方法で石炭灰を、フィリップサイトを主とするゼオライトに転換したもの、ZSM−5を主とするゼオライトに転換したものであり、それぞれ、FAP、FAZSM−5と略記する。比較する試料として、純粋なフィリップサイト(合成物)、純粋なZSM−5(東ソー製)を用い、それぞれ、P、ZSM−5と記す。これらの試料を1N酢酸銅水溶液で処理し、Cuをイオン交換担持して調製した。触媒活性測定は、常圧気相流通方式の反応装置(温度制御電気炉付き)を使い、濃度1000ppmのNOを含有するヘリウムガス(反応ガス)を、同装置の石英ガラス管中にセットした調製試料上に流して反応させて行った。反応は、温度500℃、接触時間(W/F)4.2 g・s・cm-3 で行ない、1時間から25時間まで経時的に測定した。反応後のガス成分分析は、ガスサンプラーで時間毎に一定量採取したガスを室温に冷却して、ガスクロマトグラフィーにて行った。カラム充填剤は、ポラパックQとモレキュラーシーブ5Aを用い、前者でNO、N2+O2を、後者でN2、O2を定量した。

 NO分解活性の測定結果を第44図(4−3−1第1図)に示す。横軸は経過時間(反応を始めてからの活性持続時間)、縦軸はNO除去率(NOのN2への転換百分率)を示す。経過時間が短い間は、どの試料も、約40〜55%とかなり大きなNO分解活性を有している。すなわち、ゼオライト転換した石炭灰は、設定したような反応条件下で、純粋なゼオライトに比べて劣るものの、NO除去能を持っていることが明らかになった。時間が進むにつれて、全ての試料において分解活性の低下が起こることがわかる。この低下の主な原因は、NOが分解して生じるO2によるものと考えられる。活性持続時間およびNO除去能の大きさは、試料によってかなり異なっている。10時間までは、最大の除去能を示たのは、ほぼZSM−5であったが、15時間以上と経過時間が長くなると、FAZSM−5にとって換わられることがわかった。石炭灰から得た試料の方が、長時間にわたり高活性を持続することが明らかとなった。PとFAPの場合も同様に、長時間経った後には、前者は活性がほとんど無くなるのに対して、後者は約8%の活性を維持していた。純粋ゼオライトよりも、ゼオライト転換した石炭灰の方が経時的活性低下が小さいのは、石炭灰に由来する炭素によると思われる。ゼオライト転換した石炭灰で反応させたガス成分にCO2が検出されることから、この炭素が、NO分解で生成したO2と反応し、O2による触媒被毒作用を軽減していると考えられる。含有炭素の被毒防止効果をみるため、反応ガスに酸素を10%添加してNO分解活性を測定したところ、純粋ゼオライト(フィリップサイト、ZSM−5)は、短期間で活性が著しく低下したが、ゼオライト転換した石炭灰、とくに、FAZSM−5は比較的長期にわたり活性を示した。

純粋ゼオライトを用いたNO分解触媒の実用化にあたっては、プロパンなどの炭化水素ガスを反応ガスに混入することなどで、O2による被毒を防ぐ対策が必要であるとされている。純粋なゼオライトを用いる方法は、高価な資材を使うのに加えて、炭化水素などを混入する装置をさらに工夫し付加しなければいけないので、経済的に大きな負担になることは明らかである。一方、ゼオライト転換した石炭灰は、炭化水素ガスなどの添加を要しないので、NO接触分解の低廉化な触媒として実用に耐える可能性が大きい。

 

第2項

PCBの吸着固定および分解への利用

 ポリ塩化ビフェニール(PCB)は、わが国では昭和29年に生産が開始され、環境を汚染するとして社会問題になり生産中止に至るまで、約5万7千トンほど累積生産されたといわれている。輸入は戦前から行われており、統計がないため古い時代の使用量は把握できない。PCBは、石炭や石油を原材料にして人工的に合成して造られた物質であり、化学的安定性、難燃性、不揮発性、高絶縁性、水難溶性、高伸展性など多くの好都合な特性を持っているため、様々な用途に使用された。つまり、絶縁油としてトランスやコンデンサーなどに、熱媒体としてボイラーなどに、機械油として真空ポンプやエアーコンプレッサーなどに使われた。PCBを添加して、可塑剤、塗料、印刷インキ、複写用ノーカーボン紙などにも使用された。1966年以来、スエーデンをはじめ世界各地の魚類や鳥類からPCBが見つかり、PCBが地球を全体的に汚染していることがわかってきた。わが国においては、1968年の夏から翌年の春にかけて起こった例のカネミ油症事件がきっかけになり、PCBの毒性や環境汚染が調査研究され始め、いまでは社会の大きな関心事になっている。生産中止後、各業界において回収作業が行われたが、回収不能となった分が2〜3万トンあり、この分は環境中に入り込んでしまったと考えられている。回収保存されているPCBを分解し無害化する技術に関して、放射線分解、光分解、微生物分解などいくつかの方法が研究されているが、どの方法も一長一短があり、コストの点から経済的に引き合わないので、ほとんど実用化されてない。焼却処理は経費が最もかからないとされ、焼却によるPCBの加熱分解が実際に行われている。しかし、この処理法は、燃焼する時に異常に高温になるため、高価な耐熱性特殊焼却炉が必要である。燃焼にともない、ホスゲン、塩素、塩酸などの有毒ガス成分が発生するので、費用のかかる排煙の浄化処理が不可欠である。PCBの不完全な燃焼は、猛毒性を有すジベンゾフランやダイオキシンを生じるので危険である。また、環境に放出されたPCBの吸着除去や固定の従来方法はほとんど無い。そこで、公衆衛生、健康保全、環境改善などの立場からPCBの被害を防止するため、この有機塩素系化合物の吸着除去や拡散抑制(固定)の方法、や、安価で実用化できる分解方法の開発・確立が切望されている。

 以下に述べるのは、平成3年に制定された「再生資源利用促進法」、通称、リサイクル法において指定副産物にあげられ、利用促進が法制化されたの石炭灰から、簡単な化学変化や処理により、環境汚染物質であるPCBの吸着および分解除去剤を得て、この灰を再生資源化しリサイクルするとともに汚染物質の除去と環境の浄化に関するものである。

 石炭灰をゼオライトに転換して、PCBの吸着および分解除去剤として調製する方法の例を述べる。冷却管を取り付けた三角フラスコに、粒径の細かい石炭灰(炭素含量の高いフライアッシュと低いフライアッシュの2種類)60gと3.5N NaOH水溶液200mlを加え、ホットプレート上で約90℃にて20時間ほど加熱処理した。処理後、遠心分離法にてよく水洗した。105℃にて乾燥して粉末試料を得て、Naイオン飽和試料とした。炭素分に富む石炭灰から得た試料をNa−HC、炭素の少ない灰からの試料をNa−LCと略記する。本試料の一部に、濃度1Nの 塩化カルシウム水溶液を加え、往復震トウ器で2時間震トウした(この処理をCaイオン飽和処理とする)。この飽和処理を5回繰返し、過剰の塩を水洗除去した後、105℃にて乾燥して粉末試料を得て、Caイオン飽和試料とした(Ca−LC)。炭素分に富む石炭灰から得た試料(Na−HC)も同様の飽和処理を行い、Caイオン飽和処理試料を調製し、Ca−HCと記する。湿式法にて、炭素含有量を測定したところ、炭素含量の高い石炭灰から調製したものは28.9%、炭素含量の低い石炭灰から得たものは9.7%ほどの炭素を含んでいた。

 調製した本剤のPCB吸着除去力を測定した。吸着実験は次のようにして行った。低質直上水や土壌水に残存あるいは工場排水などに含有可能な濃度の溶液として、水1000mlにPCBを0.08mgほど混合して吸着実験用の試験溶液を調製した。この試験溶液50mlに、調製例で得た調製物を0.5あるいは1.0g添加して、24時間ほど往復シントウ器にてシントウした後、上澄みのPCB濃度をガスクロマトグラフを用い常法(JIS K 0093)に準じて測定した。第18表に測定結果を示した。本実験条件下で、この調製物は、PCBに対して少ない場合で54%、多い場合では82%のにもぼる吸着除去率を示した。この結果より、石炭灰から本調製例の方法で得た調製物は、PCB吸着除去機能を持っていることがわかる。除去率は、添加する量を同じにした時、NaあるいはCaイオン飽和処理、および炭素含量の多少で異なっていた。多価陽イオン飽和処理および高炭素含量の調製物ほど、除去率が高いことが明らかになった。このことは、調製物の主成分に加え、マイナー成分である陽イオンや炭素分も、PCB吸着に何等かの寄与があることを示唆する。

 次に、PCB分解力を調べた。分解実験は、調製物1g当たりにPCBを1あるいは10mg添加して、KOHとアルコールを加え、オートクレーブにて、温度が約250℃、圧力が約200気圧の高温高圧条件で数時間反応させた。この反応は窒素ガスで酸素を追い出して行った。反応後、残存しているPCBを、吸着実験と同様の方法で測定して、分解率を求めた。測定結果を第19表に示した。設定した条件下で、この調製物は、PCBに対して半分以上の分解率を示した。Caイオン飽和処理した低炭素含量の調製物(Ca−LC)は、90%もの高い分解率を与えた。この結果は、石炭灰から本調製例の方法で得た調製物は、PCB吸着除去機能だけでなく分解機能をも合わせて持っていることを示しており、従って、本剤がPCBの吸着および分解除去剤といえること、の根拠を与える。炭素含量の低いものの方が分解率が高いことから、調製物の主成分が、分解機能に大きく関っていることが推測できる。PCB添加量の少ない時の方が分解率が高いという結果は、この分解反応は本調製物が分解触媒として作用することを示唆する。分解の化学的メカニズムがより詳細に解明されれば、さらに効果的な分解剤も開発可能である。なお、PCBから脱離反応で発生する塩素は、KOHの作用でKClに変化する。KClは塩加と称され、カリ肥料の成分である。

 主成分がケイ素とアルミニウムで、副成分として少量の炭素を含む石炭灰をアルカリ等と化学反応させると、強い吸着機能と触媒力を有す多孔質で比表面積が大きい物質(ゼオライトを含有する)に一部ないし全てが変化する。生物体に対してほとんど毒性を示さないこの物質は、PCBを強く吸着する性質を有しているので、効果的なPCB除去作用を発揮する。この物質に一旦吸着したPCBは、二度と再び離脱しにくい上、高温高圧下の反応でこの物質の触媒作用に助けられて分解し無害化する。

 本研究は、アルカリ処理した石炭灰を用いて、土壌や底質などの環境中に放出されたPCBを吸着固定して拡散汚染を防止し、排水中のPCBを吸着除去し分解する方法を造っただけでなく、回収貯留されているPCBの分解をも可能にする技術に発展できる効果がある。また、産業廃棄物として多量に排出され、処理に困っている石炭灰を積極的に利用しょうとするものなので、環境浄化・廃棄物処理に役立つという有利な効果を生み出す。PCB分解産物の一つとして肥料成分も生じるので、この成分に対しても、農業用にリサイクルする道を開くことが可能である。

 このPCB分解法は、さらに猛毒なダイオキシンなどの有機塩素系化合物の分解処理に応用できると思われる。ゼオライト転換した石炭灰プラントを吸着剤および分解触媒に用い、吸着装置と分解装置を一体化した新しい処理プラントを開発し、汚染排水、汚染大気、汚染土壌などの対象に浄化することも可能であろう。

 

第3項 脱酸素剤への利用

 本利用法は、石炭灰を、簡単な化学変化により、分子サイズの孔隙を多数有す高吸着性多孔質体に改質し、これにピロガロールなどのポリフェノール類、第一鉄イオンなどの還元型金属イオン、亜硫酸塩などの還元型塩類等の有機あるいは無機化合物を担持させて複合化処理することで生じる脱酸素剤に関する。本剤により、食品・農産物類、医薬品類、毛皮製品、書籍類、文化財、精密機器部品、染料、塗料、など様々な品物の保存時におけるカビなどの発生や酸化を抑制し、品質低下・劣化を防止することに係わる。

 いろいろな原材料や生産物を倉庫や容器などに保蔵する時、保存環境の雰囲気から酸素を減少あるいは除去すると、酸化反応やカビ・ダニなど有害微生物の発生を抑えることで、品質低下や劣化を防止できる。すでに、米、鰹節、粉ミルク、生菓子など食品類、変質しやすい医薬品類、羽ブトン、毛皮製品、羊毛製品など寝具類や衣類、等々の保存時には、酸素の除去機能を有する各種資材(脱酸素剤)が用いられている。脱酸素剤は、また、古文書、古文献など重要書類、紙製文化財などの長期保存で、シミなどの食紙性害虫やカビ等の発生、紙面の文字の退色・薄れ、紙の黄変・褐色化を防止するためにも使用できる。レンズ、カメラなどの精密機器類、フロッピーディスク、磁気テープ、光磁気ディスクなど電子計算機用データ媒体の安定長期保存にも、脱酸素剤の用途を見いだすことができる。酸素除去機能を有し、比較的簡単に無酸素環境を作り出すための薬剤として、これまで、鉄および鉄化合物を用いる無機系の脱酸素剤と糖やレダクトン類を用いる有機系の脱酸素剤があるが、低廉価で長期にわったて効果が持続する脱酸素剤の開発が望まれている。また、人体毒性が無く、廃棄物にならないうえ再生利用できる環境保全の立場でも好都合な無公害脱酸素剤の出現も待たれている。

 ここで用いた、脱酸素剤を調製する方法を述べる。

 調製法(1):冷却管を取り付けた三角フラスコに、粒径の細かい石炭灰(フライアッシュ粉末)60gと3.5N NaOH水溶液200mlを加え、ホットプレート上で約90℃にて20時間ほど加熱処理した。処理後、遠心分離法にてよく水洗し、105℃にて乾燥して粉末試料を得た。この粉末10g当たりに、ピロガロール水溶液(10gピロガロールを脱気水100mlに溶解)を、1、2あるいは4mlほど添加して吸着複合体を形成した。1、2、4ml添加て得た複合体を、それぞれ、1A、1B、1Cと呼ぶ。

 調製法(2):調製法(1)の粉末試料を、脱気水に溶かした塩化第一鉄溶液で十分に飽和処理し、過剰の塩化第一鉄を脱気水で洗浄除去した後、真空デシケーター中で乾燥した。

 脱酸素実験は次のようにして行った。上述の調製法で得た供試剤(1A、1Bおよび1C)の10gを1000ml容の厚肉ポリエチレン製ビンに入れ、密栓して室温(約29℃)で放置した。放置中、ビン内の酸素濃度を経時的に測定した。第20表に測定結果を示した。酸素濃度測定値は、7時間放置で、1A、1Bおよび1Cに対しそれぞれ、最初の約90、76および66%に減少した。効果の大きさには差があるが、1A、1B、1Cのすべてに脱酸素機能が認められる。29時間では、1Bおよび1Cは、酸素濃度がやく0%となり、酸素はほぼ完全に除去できた。これらの結果より、調製例1の試作品は脱酸素剤としての働きを持ってこと、とくに、1Bと1Cは優れた脱酸素剤であることがわかる。

 ゼオライト転換した石炭灰にピロガロールなどのポリフェノール類、第一鉄イオンなどの還元型金属イオン、亜硫酸塩などの還元型塩類等の有機あるいは無機化合物を吸着担持させると酸素の吸収除去機能を発揮する脱酸素剤が生じる。形状を加工したり、他の資材と一体化することにより、さらに大きい脱酸素効果を期待できる。酸素吸収剤として、亜二チオン酸ナトリウム、塩化クロム(II)、黄リン、銅アンモニア溶液(塩化アンモニウム飽和溶液+アンモニア水の等溶混合液に銅網を浸す)、ハイドロキノンなどを選ぶこともできる。また、食品などに適用して人の体内に入った場合でも、毒性の全くない安全な酸素吸収剤として、ポリフェノール類を多量に含む茶、ナスなどの植物を粉末にして利用することが可能であろう。カテキン等のポリフェノール類は、酸化的重合反応を起こし酸素を吸収する。酸素吸収を促進するため加えるアルカリは、炭酸ナトリウムなど毒性のない薬品が適切(炭酸ナトリウムでは、アルカリ性が弱すぎる時には、少量の水酸化ナト

リウムを補助的に加える)であろう。

 

 

 

コンクリート、モルタル、セメント二次製品の多機能化への利用

 

 ゼオライト転換した石炭灰(人工ゼオライト)の諸特性に基ずく様々な働き(機能)を、コンクリート、モルタル、セメント二次製品などに付与することで、本来の働き以外に様々な有用機能を持つ付加価値の高いコンクリート、モルタル、セメント二次製品などを作り出すことができる。以下に、多機能化の事例を述べる。

 

1)コンクリート、モルタル、セメント二次製品への断熱性の付加

 化石燃料、とくに石油の枯渇が近い将来に起こることが予想され、資源の節約と省エネルギーに対する関心が高まっている。こうしたなか、少ないエネルギーでいかに効果的な冷房や暖房おこなうかということが重要な課題となっている。建築物を建てるにあたり、断熱性の高い建材を多用して、熱的特性を有利に改善する方法の採用が大切になってきた。鉄筋コンクリート製の建物の場合、コンクリートの断熱性を高めることで、冷暖房にかかるエネルギーを大幅に減少することができる。外界の冷気や熱気が伝わりにくく一定の温度を要する恒温倉庫などにおいても、コンクリート壁の断熱性を大きくすることが肝要である。従来、断熱性の高いコンクリートとして気泡コンクリートが使われているが、このコンクリートは、発泡剤の混入や発砲量のコントロールなど製造工程に複雑な方法が必要なうえ、普通コンクリートに比べ物理的強度が小さいという欠点がある。製造工程が簡単で安価な断熱性コンクリートの開発が待たれている。従来のコンクリート、モルタル、セメント二次製品コンクリートに、人工ゼオライトを添加することで、これらの断熱性を増強することを試みた。通常の方法で、セメント,砂,砂利, 水などを一定の割合で混ぜて作成したコンクリートブロックと、さらに、人工ゼオライトをセメント量に対して5、210および20%ほど添加して作成したコンクリートブロックを用意した。人工ゼオライトを加えていないコンクリートブロックを対照試料、添加量5、10および20%のブロックを、それぞれ、試料1、試料2および試料3とする。これらの試料の断熱性を知るために、熱伝導率を測定した。測定法は、非定常熱線法(JIS A 2618)に準拠した方法で、測定装置は、京都電子工業製 迅速熱伝導率計(型式 Shotherm QTM D II)を使用した。測定温度は、33〜39℃であった。

 人工ゼオライト混入率が大きくなるにともなって、試料の熱伝導率は小さくなっている。このことより、人工ゼオライトの混入によってコンクリートの断熱性は大きくなることが明らかとなった。試料3は、対照試料に比べ、熱電導率が約4分の1にまで減少しており、著しく大きな断熱性をしめすことがわかる。人工ゼオライトを混入することによりコンクリートの断熱性が増大するのは、ゼオライトの微細孔隙に基づく孔隙がコンクリート組織のなかに生じるためである。この孔隙に多量の空気が含まれ、断熱効果を現すためである。

 

2)コンクリート、モルタル、セメント二次製品への吸湿性の付加

 わが国の気候は夏季において高湿度になることが特徴であるため、この季節は蒸し暑い日が続き、不快な生活環境に悩まされる。このため、エアコンなどの高価な空調設備を導入して、室内環境を快適にしなければならない。設備を使わず、あるいは、出来るだけ最少の設備で、居住環境の湿度を低下させ、適正に保つ技術の開発が望まれている。鉄筋コンクリート製のビルディングなどの建物は、コンクリートが湿気を多少吸うことで、わずかに湿度を下げる効果があるものの、その効果は大きくない。コンクリートそのものに高い吸湿機能を付与して、エアコンなどの機械装置が無くても、部屋の湿度を充分に低下さる技法を作り上げることが待たれている。石炭灰から得た人工ゼオライトを利用して、コンクリート、モルタル、セメント二次製品の吸湿性を向上させることを試みた。通常の方法で、セメント,砂,砂利, 水などを一定の割合で混ぜて作成したコンクリートブロックと、さらに、人工ゼオライトをセメント量の5、10、20および30%混入して作成したコンクリートブロックを用意した。これらのブロックに対して、JIS A 1135 に準じた方法で、吸水率試験を行った。コンクリートの吸水率測定結果に示すように、吸水率(質量百分率)は、人工ゼオライトを混入してないブロックが約11.7%であるのに対して、混入率が大きくなるにつれて、指数的に増大している。混入率30%のブロックは、ほぼ31.2%と、著しく大きな吸水率を示している。このことより、人工ゼオライトの混入によってコンクリートの吸水率は大きくなることが判明した。

 人工ゼオライトの混入でコンクリートの吸水率が増大するのは、ゼオライトの微細孔隙に基づく孔隙がコンクリート組織のなかに生じるためである。この孔隙は分子オーダーの孔径を持っており、多量の水分子を吸着できる。吸水率の大きいコンクリートは、回りの湿度を低下させるだけでなく、表面に結露を生じにくいので、カビの発生を防止する効果もある。

 

3)コンクリート、モルタル、セメント二次製品の結露防止

 建物内部の湿った空気が、天井、壁、床などの表面に接触すると、これらの表面に露あるいは水滴が生じることがある。この現象を表面結露といい、「汗をかく」と俗称される。わが国では、建物の壁などの結露は、冷寒地では冬季に、それ以外の地域では夏季に起こりやすい。気象条件が、天井、壁、床などの表面や内部の温度を、その回りの湿潤空気の露点より低くすることで、空気に含まれていた水分(水蒸気)が液体の水に変え付着しやすくするのである。コンクリートで造った建物は、木造に比べて気密性が良く隙間が少ないので室内の水蒸気が外に放出しにくいうえに、コンクリート壁は木造土壁より熱を伝えやすく、また、吸湿性も小さい。このことから、一般的にコンクリート造は、木造よりも、結露が生じやすい。結露の発生は、壁などの表面を変色したり、しみ、カビなどを生じさせるだけでなく、表面塗装材の剥離・脱落、破壊や破損を招くなど、不都合な現象である。従来、結露を防ぐ方法としては、湿度を極度に下げて室内に生じる水蒸気を抑えることや、コンクリート壁などに保温材を貼り付けるやり方などがある。しかし、これらの方法は、冬期に室内の湿度をあまり低くすると鼻粘膜などに悪影響をもたらし風邪の原因になるなど、副作用がでることもある。また、コンクリート壁と保温材の間に結露を生じことがあり、結露量が多い場合には、隙間から水が滲み出して、あたかも、雨漏りが起こったようになって、保温材の劣化を早めたり、その他、建物に良くない影響を与える。つまり、従来の方法は、結露防止の点で効果の少ない、極めて消極的なやり方あって、かつ、健康などへの配慮はなされていない。室内を快適な生活空間に保って、簡単な方法で、結露を抑制する技術の開発が待たれている。廃棄物の石炭灰から得た、安価な人工ゼオライトを利用して、簡単な技術でコンクリート、モルタル、セメント二次製品の結露を抑制および防止することを試みた。常法により、セメント,砂,砂利, 水などを一定の割合で混ぜて作成したコンクリートの円柱状ブロックと、さらに、人工ゼオライトをセメント量に対して5および25%混入して作成した円柱状ブロックを用意した。これらのブロックに対して結露を調べる試験法は次のように行った。各ブロックを冷蔵庫に入れ、約5℃に冷却した。これらを、湿度100%(水蒸気が肉眼で認められる湿度)、温度約32℃の部屋に放置して、ブロックの表面に生じる結露の程度を観察した。観察結果を写真(写真−1)に示した。人工ゼオライトを混入してない円柱ブロックは、全面に結露が生じ水滴が付いたため、写真では黒っぽく見える。人工ゼオライト混入率が5%のブロックは、ほんの少し結露が生じたが、25%混入したブロックは、全く生じなかった(写真では、ブロック表面が白っぽく見える)。このことより、人工ゼオライトを混ぜることによって、コンクリートは、かなり高湿度下においても、結露しなくなることが明らかになった。人工ゼオライトの混入によって、コンクリートの結露が防止できるのは、コンクリートがその断熱性や吸湿性などの特性が大きくなることによると考えられる。断熱性が増大すれば、コンクリート表面の急激な温度低下が起こらず、露点に至りにくいことが大きな理由である。たとえ、露点の温度まで下がったとしても、人工ゼオライト添加でコンクリートの吸湿性が先述のように大きくなっているため、水分を吸収してしまい、表面に水滴を生じないことも理由としてあげられる。

 

4)コンクリート、モルタル、セメント二次製品の白華現象の防止

 カラーフルな景観に対する関心が高まっているなか、道路法面擁壁、海岸消波ブロック、都市空間を構築するビルや路面などコンクリート構造物や二次製品を着色する技術が広がってきた。コンクリートには、エフロレッセンス(白華)と呼ばれる不都合な現象がしばしば生じる。この現象は、セメントで硬化したコンクリートあるいはこの二次製品の表面に白い綿状の吹出物や斑点が生じるものである。白華現象により、品質が著しく低下するのみならず、表層部が溶解、欠落して粗骨材が露出し、コンクリート構造物や二次製品を劣化する原因にもつながる。カラーコンクリートに白華が生じると、色を淡くするだけでなく、色合いが極端に悪化して着色面を汚染したり、外観を極度に損ねる。とくに、暗色のカラーコンクリリートでは、白華した部分が目立つので、着色面の見かけが著しく悪くなる。現在、白華現象を止める有効な方法がないので、効果的な防止方法の開発が待たれている。石炭灰から得た人工ゼオライトを利用して、コンクリート、モルタル、セメント二次製品の白華現象を防止あるいは抑制する実験を試みた。

人工ゼオライトを希薄な塩化アルミニウム水溶液で処理して、アルミニウム型人工ゼオライト(Al−Ze)を調製した。通常の方法で、セメント,砂,砂利, 水などを一定の割合で混ぜ、さらに、着色のため少量の黒褐色無機顔料(バイフェロックス313)を添加したコンクリート、および、このコンクリートに、Al−Zeをセメント量の15%あるいは25%混入したものを調製し、縦20cm、横10cm、高さ4cmの直方体ブロックを形成した。Al−Zeを混入していないコンクリートブロックを対照試料、15%混入および25%混入したコンクリートブロックを、それぞれ、試料Aおよび試料Bとする。これらの試料について、経持的に白華現象の発生の様子を観察した。ブロック形成後、24時間たった時、対照試料は、表面に白っぽい紛状物が析出し白華が認められ、白華現象が現れたのに対して、試料Aおよび試料Bには、この現象は認められなかった。48時間後においては、対照試料の白華はほぼ全面に広がり増大していたが、試料Aおよび試料Bでは、白華は全く観察できなかった。以上より、コンクリートにAl−Zeを少なくともセメント量に対して15%ほど混入する方法によって、白華現象(正確には、一次白華現象)を防止できることが明らかになった。白華現象は、コンクリートに硫酸ナトリウムや塩化ナトリウムなどアルカル硫酸塩やアルカリ塩化物が多く含まれたり、また、コンクリートの孔隙が大きいと外部の炭酸ガスの溶けた溶液移動が活発になり、可溶性塩を表面に溶かし出すことで生じる。アルミニウム型人工ゼオライトを混入すると、白華現象が抑制できるのは、次のような作用による。NaやKなどのアルカリイオンをイオン交換吸着して、コンクリート溶液中のこれらイオン量を減少する。イオン交換で浸出したアルミニウムイオンは、高pH条件下でアルミン酸となり、コンクリート硬化中の水和反応で生じた水酸化カルシウムと反応して、アルミン酸カルシウムを生成して安定化する。硫酸イオンが存在する場合には、エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生じて、硫酸イオンも安定化する。つまり、白華現象を引き起こす主要成分の水溶性アルカリ硫酸塩が、不活性になる。コンクリート中に塩化物イオン(Cl-)が含まれる場合には、フリーデル氏塩(3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2O)が生じ、Cl-が安定化する。硫酸イオンと塩化物イオンの両方が、コンクリート中に存在する時は、エトリンガイトとフリーデル氏塩の両方が生成する。さらに、人工ゼオライトは、サブミクロンオーダーの超微細粒子なので、コンクリートの孔隙に深く侵入して、穴を塞ぐことができる。孔隙を詰めることでコンクリート溶液の移動を抑えるので、可溶性塩類の表面への移行と析出を防止する。孔隙を塞ぐことは、コンクリートの機械的強度も上昇するので、好都合である。

 

第4節 開発可能なリサイクル技術

 石炭灰をゼオライトに転換処理することで、リサイクルが可能になる産業分野は、1)農業、農産、林業、林産、畜産、水産、2)環境(改善、保護、など)、3)土木、建築、4)公衆衛生、5)砂漠緑化、地域開発、都市開発、6)発酵、医薬品、化粧品工業、7)製紙工業、8)ゴム工業、9)食品製造、10)生活用品、11)新素材など、広域にわたる。

 実用化にあったては、研究の余地が残っているが、資源化・リサイクルできる用途を述べる。

 

1) 酸素富化剤

ガス分離(PSA)

ゼオライトなど分子フルイを利用して、空気から酸素をふるい分ける。

ゼオライトなどの担体に窒素吸収剤を吸着して、空気から酸素を分離する。

 酸素富化気体・酸素富化空気の利用と用途

低品質石炭(炭素含量の極端に少ない)の燃焼用−−廃棄物として捨てられていた石炭部分が燃料に利用できる。廃石油ピッチの燃料化。泥炭の燃料化。ボイラーの燃焼効率の上昇。低廉化かつ効果的な酸素富化剤の開発が望まれている。

 

2) 鑑賞用の水槽などに発生する緑藻類など水生微生物の生育・繁殖の防止・阻止剤

 ガラス製の水槽中や水槽内面に発生付着する緑藻類などの水生微生物は、熱帯魚、金魚、錦鯉など鑑賞用魚類を展示にあたり、視認性を著しく損ねる。

 予備実験として、水槽(縦30cm、横50cm、高さ40cm)にCa型人工ゼオライト(小造粒物)約100gを水槽底に敷き詰め、熱帯魚を飼育した。人工ゼオライトを入れてない水槽は、約1週間で、槽の内壁面(ガラス面)にクロレラ類縁の緑藻類らしい微生物が繁殖した。この微生物で覆われたガラスは透明性が損なわれ光の透過性が低下するため、水槽内の熱帯魚の様子はほとんど観察できなかった。一方、ゼオライトを敷いた水槽は、3カ月たっても微生物の発生は見られず、ガラス壁面は透明性を保ったままであった。Ca型ゼオライトは、水生微生物に対して生育抑制の効果があることがわかった。

 次に、水槽に水生植物のホテイアオイを栽培したところ、Ca型人工ゼオライトを添加した場合は、しない場合より本植物の生育は悪かった。Ca型ゼオライトは、ホテイアオイなど水生植物に対して生育抑制の効果があることがわかった。

 Ca型人工ゼオライトの、上述2例のような水生生物生育阻止効果は、次のような理由によると考えられる。水生植物は、水中から各種栄養成分を吸収して生育する。アンモニア態窒素などの大切な栄養分が水中から取り除かれたりして少なくなると、生育・繁殖は、大きく阻止される。Ca型ゼオライトが、アンモニア態窒素を中心としたいろいろな栄養成分を強く吸着し、水中養分濃度が低下するため、水生植物の生育が抑制される。事実、Ca型ゼオライトは、多量のアンモニア態窒素を強く吸着することができる。窒素やリンなどの養分は、魚の餌や排泄物に由来する。

 

3) 高度浄水処理資材としての利用

 上水道用水のカビ臭、金属臭(金臭さ)、塩素臭などの除臭に利用する。高炭素含有石炭灰のゼオライト転換物は、とくに効果が大きいと予想できる。カルシウム型およびマグネシウム型にしておくと、処理時に水を硬水に変え味を良くすることが可能。

 富栄養化や水質汚濁の進んだ河川、湖沼を水源にする都市地域の水道用水に、例年、季節的に臭気(カビ臭)が発生することがある。例えば、琵琶湖から取水する京都市、印旛沼を水源にする千葉県、霞ヶ浦の水を利用する各地。プランクトン増殖時にカビ臭が発生するからである。臭気の原因は、藻類によると推定されている。放線菌(ストレプトミセス属)から土臭を発する化合物(ジオスミン)が分離されている。ジオスミンは藍藻類にも検出される。他の臭気物質として、2−メチルイソボルネオールなどが知られている。

 

 

 

CH3

/\/\

| | |

\/\/

||

HOCH3

 

Geosmine

(C12H22O)

 

琵琶湖および印旛沼から採取した放線菌と藻類からもジオスミンと2−メチルイソボルネオールが検出されている。水道水の取水口などにゼオライト転換した石炭灰を設置して、これらの臭気成分を除去する。

 

4) メタン発酵生成ガスの純化剤

 家畜、家禽などの排泄物、畜舎廃物などのを畜産廃棄物や野菜屑、調理屑、残飯などの生活雑廃物を原料に使い、メタン発酵でメタンガスを得ることができる。このような発酵で発生するガスはメタンガスのほか、不純物を含むことが多く、燃焼しない場合もある。

不純物として、炭酸ガス、硫化水素ガス、アンモニアガス、水分などのガス成分がある。

 不純成分の除去による、メタン成分の濃縮

1)燃焼効率を上げる(燃焼を妨げる炭酸ガス、水分などの除去)。

2)装置の劣化を防止する(燃焼時に硫化水素が含まれると、酸化されて亜硫酸ガスに変わるため、炊飯器の底が錆びて劣化する)。

3)ガスに含まれる悪臭成分(アンモニア、メルカプタン類、硫化水素など)の除去

4)有毒ガス成分(悪臭成分でもある)の除去−ガスを取り扱う上で安全性の確保

 安価・低廉価で効果の高い、ガス純化剤にゼオライト転換した石炭灰を利用可能である。

 

5) 機能性の栽培用鉢、機能性のプランター

 従来、鉢は、植物を物理的に支えたり、存在のための空間的な場所を提供する単なる容器に過ぎなかった。この鉢に、イオン交換能、老廃物・生育阻害物質の吸着能など、生育環境を改善する働きを付与することで、新しい機能性の鉢を開発する(高機能性プランター、多機能性プランター)。

 カトレアなど高級ランの栽培などに適用。

イオン交換能・吸着能を有す、養液栽培用鉢(養液栽培用プランター)

 鉢の粘土材に人工ゼオライトを混入する。

人工ゼオライトで鉢を作成する。

 

6) 石炭灰とアスベストの同時処理および再資源化・リサイクル

 アスベストは、肺などにアスベストボディーを作り、人体に有害作用をあらわす物質である。ケイ酸塩化合物なので、成分的に似ている石炭灰と混合などして、ゼオライト転換処理することで無害化できる可能性がある。

 

7) 硝酸化成抑制材

 亜硝酸態や硝酸態窒素は、農畜産、健康、環境などの立場で次のように不都合な点が多い。(1)亜硝酸態や硝酸態窒素は負電荷のイオンなので、同種電荷を持つ土壌コロイド(粘土や腐植など)に吸着されにくく、雨水・かんがい水などの浸透水とともに溶脱しやすい。流出した窒素成分は、湖沼、河川、沿岸など水圏環境に入り富栄養化を加速する。

(2)水田状態などでは、脱窒作用により窒素成分が揮発・揮散し肥料経済的に不利。

(3)亜硝酸態や硝酸態窒素を取り込んだイタリアンライグラスなどの牧草を、飼料にすると、家畜はメタヘモグロビン血症などの病気を引き起こすことがあり、家畜生産・肥育に不都合なことが多い。

(4)野菜など作物に入った亜硝酸態や硝酸態窒素は、食物・食品に移行し発ガン性物質となることがある。

 アンモニア態の窒素化合物をゼオライト転換した石炭灰に吸着させて、硝化反応から保護する。事実、硫安をゼオライト転換した石炭灰と混合して土壌環境下に置いたところ、アンモニウム態窒素が酸化され亜硝酸態や硝酸態窒素に変化するのが低下した。

 微生物培養、組織培養、養液栽培などの培養液中のアンモニウム態窒素が硝化するのを抑制することも可能であろう。

 

8) 脱硫剤

 石炭、石油、炭などの化石燃料、および、化石燃料を加工して得た各種燃料の脱硫処理剤。ゼオライト転換した石炭灰、カセイソーダなどのアルカリは、残留したままでよい)に生石灰(CaO)を混入して、脱流剤を調合可能。可能な脱硫反応:

(1)ゼオライトによるSO2ガスの吸収

(2)生石灰とSO2の反応(石膏:CaSO4が生じる)

 脱硫処理済みの脱硫剤は、回収して再利用するか、ゼオライト・石膏資材(環境改善、土木・建築、農水林畜産などの領域で利用できる)として資源化する。

 

9) ゼオライト転換した石炭灰の種子保存剤としての利用

密閉容器に保存(長期保存:2〜3年間)

保存中に、ガス成分(エチレン、アルコール類、アルデヒド類など)が発生し、種子の品質を劣化する。ダイコン、カボチャ、インゲン、ハクサイ、などの高品位種子(発芽率の高い種子)が望まれている。

 容器に粉末人工ゼオライトをいれ、発生するガス成分を吸着除去。この時、人工ゼオライトは、水分をも吸着するので、種子を乾燥状態に置いておく効果もあると思われる。

 

10) 人工ゼオライトを利用した養液栽培用培養液廃物の浄化およびハウス栽培用ボイラ−排気の脱硫・完全燃焼浄化

 現在、培養液は、栽培装置からオーバーフローした培養液は、そのまま放流したり土壌に注入したりして廃棄している。地下水や河川に流入した培養液は、最終的には湖沼や内海、海洋に入って、これら水圏の富栄養化を加速する。人工ゼオライトの高いCECを利用したイオン交換体にて、

富栄養化を起こす成分(NやP、K、Mg,Caなど)を吸着除去することが可能であろう。

 ハウス暖房ボイラ−排気は、栽培にCO2を利用しょうとして排気ガスを栽培環境に持ち込む場合、排気に含まれる有害な硫黄酸化物や窒素酸化物、COなどのため、作物・植物の生育に障害がでる。人工ゼオライトの吸着性や触媒活性を応用できないか。

 

11) 燃焼排気中のCO2ガスの除去回収

 ゼオライト化した石炭灰などのガス吸着体による吸収。吸着体の結晶格子(化学構造)中に封じ込める。特定の陽イオンで飽和したゼオライト等の吸着体。吸着体の触媒作用によるCO2分子の化学変化。例えば、吸着体表面でCO2とNH3を反応させて尿素、CO(NH2)2、にする。尿素の付着したゼオライト等は、尿素の窒素肥料効果とゼオライトの土壌改良効果を併せ持つ。

 

12) 人工ゼオライトを利用したフェロモン吸着担体。

 フェロモンは、一般的に、著しく揮発性に富む。このため昆虫などの誘引剤に使用する場合、ゆっくりと徐々に気化・放出する工夫が必要である。従来は、カプセルに詰めたり、容器の形状などを工夫して、徐放させる装置を作っていた。しかし、長期にわたり効果的な徐放性を持つ装置を作成するのは困難であった。人工ゼオライトにフェロモンを吸着保持させる。徐々に脱着させることにより徐放性とする。フェロモンの希釈剤、展開剤、増量剤としての利用。

 

13) 芳香剤としての利用

芳香性を有すエステル類、各種香料などを吸着させ、香りを徐々に放つ。液体状で取扱にくい香料の固化、粉末化もできる。

 

14) ゼオライト転換した石炭灰による放射性廃棄物の処理

 90Srや137Csなどを含む放射性廃水処理

廃棄物である石炭灰も同時に処理できる。

 90Srや137Csなどをゼオライト化した石炭灰によって吸着固定する。

固定した灰を、スラッグアルミナセメントなどをバインダーにして強固な固形物とする。この固形物を、地中に埋めたり、深海に投棄する。

 

15) 家畜、家禽、ペットなど動物排泄物の無臭化洗浄剤

 清掃処理剤 清掃補助剤としてゼオライト転換石炭灰を利用する。排泄物に振り掛けて、無臭化し、ほうきなどの清掃用具で除去する。

神社、寺、公園などでの、ハトのフンなど排泄物による公害(悪臭、美観を損なう、不衛生感など)。掃除して除ける必要あり。清掃作業を容易にしたり、快適なものにするため、無臭化洗浄剤があると便利。臭いを吸着、水分を吸着し乾燥を速める。ほうきなどでの掃き取り作業を楽にする。ゼオライトが混入した動物排泄物は、肥料として利用(土壌に入れて、最終的な投棄処理ができる)。

 

16) ゼオライト転換処理した石炭灰から純粋ゼオライトの分離精製

 捜査型電子顕微鏡観察から、石炭灰粒子の表面にゼオライトが生成することが多いという結果がでている。摩砕処理や音波処理で、粒子表面のゼオライトを物理的あるいは機械的に剥ぎ落とす。未反応石炭灰と生成ゼオライトの機械的混合物となったミックスチャーから、遠心分離法や沈定法などで、ゼオライトを単離する。この時、pHを調整したり、分散剤を添加したりして、単離を容易にする処理を行うこともある。

 

17) 可塑剤が溶出しない防水シート

 人工ゼオライトで内張りした防水シート

シートに含まれるフタール酸化合物などの可塑剤が環境中に流れ出るのを防止する。

人工ゼオライトによるフタール酸やその化合物の吸着分解除去。

Ca型など各種交換性陽イオン型にした人工ゼオライトで吸着実験。

 

18) 人工ゼオライト粉末を利用する消火剤

ゼオライト転換した石炭灰

 とくに、油性物の燃焼を消火する。

調理中の食用油の発火、事故による自動車、航空機、船舶等の燃料の発火(ガソリン、重油、など)、事故によるストーブ燃料の発火(灯油など)、油性塗料やシンナー類の発火などの消火。消火作用は次のような特性に基ずくと考える。細孔に含まれる水分子が気化熱を奪うため、低温化する。粉末による空気との遮蔽。人工ゼオライト粉剤を散布する消火器(炭酸ガスボンベとの組合せ)

人工ゼオライト投げ込み式の消火器 (マットなどとの組合せ)などが考えれれる。

 

19) 石炭灰のZSM−5転換処理と廃重油、廃ピッチ、廃プラスチックなどのガソリン化への利用

 ZSM−5(クラッキング能を有す固体酸触媒)に転換した石炭灰を用いて、液体廃油の粉末固形化処理した後、そのまま反応用オートクレーブにて高温高圧で反応させて、廃油をガソリンに変える。タンカー事故などの流出原油(ガソリンなど揮発成分が減少している)の処理。

 ZSM−5転換した石炭灰と混合、反応用オートクレーブにて高温高圧で反応。

 

20) 石炭灰と故紙の合併型再資源化

 使用済みOA紙などを処理機械で処理した後の、紙廃棄物のリサイクル。

 故紙と人工ゼオライトを混合して、発酵、堆肥化する。故紙セルロースを粉末状人工ゼオライトを造粒する造粒材に使用。ゼオライト混入紙。故紙で造粒した人工ゼオライトは、脱臭剤、その他の用途に利用できる。

利用後は、発酵させて、ゼオライト入堆肥として特殊肥料にする。

 

21) 高速道路の法面(のりめん)や中央分離帯の土壌改良資材

 法面や中央分離帯に、シバなどの草や小木を植える場合、道路をつける場所によっては、法面土壌のpHが2.5と極端に低い場合がある。ある場合には、法面に草の種子を播種しても、生育条件が悪いため発芽さえ起こらないことがある。

 人工ゼオライトによる、法面土壌(中央分離帯土壌も)の酸性矯正と植物生育環境の改善効果が期待できる。

 人工ゼオライトの適当濃度の水懸濁物を調製して、吹き付け機で法面に吹き付ける(場合によっては、種子や肥料なども混合しておく)。同一場所(例えば、能登自動車道建設現場の法面)で、人工ゼオライトを吹き付けた法面区と吹き付けない区を作り、シバ種子を播いたところ、吹き付けない区では発芽が起こらなかったが、吹き付け区では、正常に発芽した後、良好に生育した。

 

 

第5章 ゼオライト転換石炭灰の資源リサイクル促進

 

ゼオライト転換した石炭灰の積極的な資源リサイクルを行うために

 

(1)最近、火力発電所などの新設計画が発表されると、石炭灰処理の問題が解決できないとして地域住民による計画反対の運動が持ち上がる事件が、いくつか起こっている(例えば、平成3年の徳島での四国電力石炭火力発電所の建設反対運動など)。今後、石炭火力発電所や工場など、石炭を利用する施設を新たに設置する場合、石炭灰をゼオライト転換してするなどして再資源化することを前提とた設備にする必要性が生じてきた。ゼオライトにしてリサイクルするには、石炭燃焼段階でゼオライト化に適する石炭灰をうまく得ることができるように工夫し、そのための装置を組み込むことも必須となろう。このためには、石炭燃焼ボイラーの改良設計、石炭燃焼方式の改善、燃焼時の添加物に工夫を加えるなど、新しい技術を開発し積極的に導入することも大切である。つまり、ゼオライトに転換して再資源化するリサイクルシステムが円滑に運営できる「新しい技術の開発推進」が必要となるのである。ボイラー等燃焼装置の設計段階でたとえ高価格になったとしても、石炭灰を回収するコストやゼオライト化して利用することで資源節減および環境保全という地球規模での社会的コストを考えれば、総体的にみて結局は有利になっているという見方・考え方を浸透させることが重要である。

石炭灰をゼオライト転換して得た素材が、たとえ機能的にみて、バージンの資材より少し劣っていたとしても、廃棄物の処理や再資源化、資源枯渇の防止というグローバルスケールでのソシアルコストを考慮すれば、あえてこのリサイクル素材を利用するほうが長期的には結局有利であるという考えをも普及させる必要があろう(環境教育の重要性)。

 

(2)石炭灰排出やゼオライト転換にかかる費用の分担原則を確立する。

石炭灰排出者は、放出税(環境改善にかかる費用)、ゼオライト転換税(ゼオライト化にかかる費用)を支払う。

ゼオライト転換石炭灰の利用者は、税的優遇処置を受けたり、助成措置や補助金の交付を受けることができる。

 

(3)ゼオライト化石炭灰の利用促進法など法律の制定

資材の、少なくとも一部は、ゼオライト化石炭灰で置き換えなければいけない。とくに、石炭灰を排出する企業・会社は、ある割合以上は必ず利用する義務を負う。石炭灰を廃棄するだけで利用しない場合には、経費がかかるというシステムを定着させる。

ゼオライト化石炭灰など再生資源は、主原料として扱われない傾向があるので、市場は不安定になりがちである。ゼオライト化石炭灰の市場における安定化を目指して、公共的機関の関与をある程度認めることが緊要である(法制化)。ゼオライト転換石炭灰の品質向上、利用・用途の開発、販路開拓のため、公官庁による優先使用を法制化する。

 

(4)ゼオライト化した石炭灰のリサイクルを普及させるためには、システム的実施計画に裏打ちされた資源リサイクル社会の形成構築が必要である。発想の転換や切換の上に成り立つ資源エネルギーリサイクル社会の形成。新発想を生むには、経済、産業、技術、社会など様々な分野領域の統合的観点からみたアプローチが要請される(システム的思考の必要性)。単一的思考発想では成立しない「資源エネルギーリサイクル経済社会システム」。国民の合意によるプロジェクトとして実現するため、長期的な見通しに立った綿密な計画を作るという基礎的作業を欠くことはできない。

 

「資源エネルギーワンウェイ経済社会システム」と「資源エネルギーリサイクル経済社会システム」において、後者のシステムを採用することが肝要である。

 

省資源・省エネルギーに対する国民意識の向上、廃棄物の処理やリサイクルにあたっては、地域住民とのコンセンサスを得ることが必要。コミニュケーションの不足を克服するには、積極的な公報活動や十分な話合いの会(この活動や会の段取りやデザイン)を持つことが重要。資源エネルギーリサイクル化のために基本的姿勢として大切なことは、地域住民の参加である。

 

 

(5)ゼオライト転換してリサイクルし尽くした石炭灰の最終処理方法

工業と農業の利用的組合せや融合を考えた物資の最適循環に組み込む必要がある。循環のための処理管理体系の確立。最終のプロセスは、土への還元(農地還元)が適する。石炭は、太古の植物に起源を発する。すなわち、植物は、生きていた大昔に、当時の土壌からケイ素やアルミニウム等の無機養分を吸収して、日光の力を借り水と二酸化炭素から光合成で生産した有機物のC−C結合間に太陽エネルギーを蓄えた。この植物が地質的変成作用で炭化したものが石炭である。石炭には、炭素の他、過去の土壌の無機成分を含んでいるのである。石炭を燃焼して、C−C結合を切りエネルギーを取り出した後に残った無機成分が、石炭灰である。従って、石炭灰は、昔の土壌の成分と見なせる。石炭灰の最終処分場所として土を選ぶことは、過去の土壌成分を現在の土壌に戻すことであり、耕地の肥沃化とも相まって適切な選択である。

 

(6)無公害資源(資材)生産型火力発電所構想

コール・センター:

今後ますます需要の増えるエネルギー用に、石炭の使用は多くなる。石炭を燃焼した時に生じる、様々な環境汚染物や廃棄物(ダスト、硫黄酸化物、窒素酸化物、石炭灰など)の処理は大切になる。石炭の利用を合理化するとともに、無公害で環境とも調和した石炭エネルギー供給センター(コール・センター)の設置が望まれる。石炭火力発電所を、石炭の荷揚げに便利な港の近くに置く。汚染物や廃棄物の処理施設を併置する。廃棄物は、できるだけ再利用できるよう資源化することが大切である。システム分析による事前評価の必要性がある。

 

コール・センターに、石炭灰ゼオライト転換装置(工場)を組み込むことで、ゼオライト転換した石炭灰を、いろいろな産業で利用できる資材として送り出すことができる。

 

(1)石炭火力発電所

 

(2)石炭灰ゼオライト転換装置(プラント)

 

(3)排煙脱硫装置(プラント)

 

(4)NOx分解装置(プラント)

 

(5)CO2固定化装置(プラント)

 

構想:

(1)、(2)、(3)、(4)を複合した無公害資源(資材)生産型火力発電所システムを構築する。将来的には、(5)も含むシステムに発展させることが必要であろう。

 

 石油枯渇の危機、石油代替エネルギーである原子力の安全性に対する不信が広がっている。200年分以上の埋蔵量があると推定され、世界中に広く分布する石炭は、燃料として再認識されてきている。石炭火力発電所は近い将来さらに増加すると見られている。すでに、1988年度(昭和63年度)には、石炭輸入が初めて1億トンを越し、電力向け中心の一般炭の輸入量の増加が大きくなっていることはすでに述べた。

 石炭、とくに微粉炭を燃料とするボイラーを使用する発電所は、燃焼残さとして大量の石炭灰(フライアッシュ、クリンカーアッシュなど)を排出する。燃焼に伴い排煙中に硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)を放出(炭酸ガスの排出も地球温暖化と関連ありとする意見もある)。SOxやNOxは、光化学スモッグやオキシダント発生や酸性雨の原因物質となるため、環境保全の観点から問題がある。

 産業廃棄物としての石炭灰の処理問題が発生した。排煙のSOxやNOxを吸着・分解・除去処理して、環境中に放出しないことが肝要となっている。CO2も同様に放出しないことが大切になりつつある。同時解決策の模索。つまり、廃棄石炭灰をゼオライトに転換。このゼオライトを使い、i)脱硫剤を調製し

SOxの排出を防ぐ、ii)NOx分解触媒を調製しNOxの発生を抑制、iii)CO2固定剤を調製しCO2の放出を防止する。

i)、ii)、iii)の用途に使いきれない余分のゼオライトは、資材としていろいろな分野で多目的に利用する。i)、ii)、iii)で使用済みとなったゼオライトは、土壌改良資材として農業用に使い、土壌に混入することで地中に戻し(石炭は元来地中から採取したもの)、無公害的に最終処理できる。

 

 

参考文献

本論文を執筆するにあたり下記の文献やパンフレットなどを参考あるいは引用した。本書著者の未発表分を除いて、文献等はすべて公表されており印刷物として入手できるので、ご興味を持たれ、詳細をお調べになりたい方は参照してください。

 

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