化学的にケイ酸アルミニウムに分類されるコロイドが、海洋、湖沼、河川の 低質、陸地に分布する土壌など、広く自然界に存在している。このコロイドは、 表面が活性なため環境中の天然および人工物質あるいは各種生物と相互作用を起 こし、これらの物質の挙動や動態および生命現象を左右する大きな要因となる。 環境中で起こる無生物的および生物的な諸現象を解明したり予測するためには、 このコロイドについて深い知識を持っておく必要がある。化学構造を形成するケ イ素やアルミニウムなどの原子が、規則正しく配列した結晶性コロイドと不規則 に並んだ非晶質コロイドとに大別できるが、後者はとくに表面活性が大きいので 、たとえ量的に優勢でない場合でも、環境の諸現象発現の主な原因や理由になっ ていることが多い。大切さが認識されているにもかかわらず、非晶質ケイ酸アル ミニウムコロイドは、その非晶質性そのものが原因して研究手法が少ないため、 結晶性コロイドに比べて、わからない点が多く残されている。本研究室の第一の 目的は、新しい研究方法を開発・導入して、非晶質ケイ酸アルミニウムコロイド について、微細形態、化学構造、特性、物性、機能などを明らかにし、生命と環 境のシステムにおける役割や働きを、分子軌道論を中心に量子化学的な立場にお いて電子レベルで解明することである。
非晶質ケイ酸アルミニウムを主成分とする廃棄物がある。その一つは石炭灰 である。石炭灰は、石炭を燃焼した際に排出する灰(石炭の20〜25%は灰分 )であり、燃料として石炭を用いる火力発電所や工場等から膨大な量排出される 。火力発電所だけでも、毎年、概算で400万トンほどにものぼる量の石炭灰が 出でいると言われている。この灰は、一部セメント原料などに用いられる他、適 切な処理方法がほとんど無いことから、他の利用価値のない固体廃棄物と一緒に 埋め立て処分されてきた。しかし、最近ではセメント自体の需要が頭打ちになっ ていること、灰捨地(埋め立て地)の確保に困難をきたしていることなどから、 廃棄物としての石炭灰が、社会的にもまた環境保全の立場からも全国的に大きな 問題を投げかけるようになっている。度重なる事故で原子力発電に対する批判が 高まり、火力発電所が見直されている昨今、石炭を使用する火力発電所も今後さ らに増えるだろうことは容易に予知できる。こうした情勢の中で、これから益々 増加するであろうこの廃棄物の処理問題を解決することは急務となっており、そ の有効的なリサイクリングあるいは積極的な再資源化を目指して新しい技術を速 やかに開発・確立することが強く切望されている。研究目的の第二番目は、この 廃棄物を化学的処理により、ゼオライトなどの有用物質に転換し、様々な産業分 野で高度有効利用しながら、あわせて、産業廃棄物処理問題をも解決する道を開 くことにある。
・環境に存在する天然および人工の無機あるいは有機化学物質とコロイド成分 の相互作用
・酸性雨が環境中のコロイド成分に及ぼす影響
・環境中における有機塩素系化合物の非生物的反応での変化(猛毒性化あるい は分解・無毒化)および反応メカニズムの分子軌道法による解析
・土壌環境でのケイ酸アルミニウム系コロイドの生成反応と機能・役割
・水圏および土壌環境での重金属の存在様式と吸着固定化
・農耕地環境での各種植物養分の挙動と水圏移行による富栄養化の抑制
・石炭灰など廃棄物・未利用資源のゼオライト転換と再生資源化
・ゼオライト転換した石炭灰の農業、土木・建築、環境改善などの分野での有 効利用
・地球環境に生じた非晶質和水ケイ酸アルミニウムの化学構造と特性
・窒素酸化物、フロン、二酸化炭素、ハロゲン化炭化水素など環境有害成分の 吸着固定および分解
・細胞・組織培養および器官・個体培養におけるコロイド培養法(液体培地と 固体培地の中間的培地による培養法)の開発
・ケイ酸アルミニウム系無機高分子による組織培養における色素など有用成分 の生合成誘導
・生命起源における非晶質和水ケイ酸アルミニウムの寄与および化学的メカニ ズム
・生理活性物質と無機コロイドの相互作用と作用機構の分子軌道論的解析
・核酸・タンパク質・多糖類など生体高分子と無機コロイドの界面化学的反応
・酵素、微生物、動植物細胞、細胞小器官などの固定不溶化へのゼオライト転 換した石炭灰の担体としての利用
・遺伝子操作への層状ケイ酸塩および非晶質粘土の利用
岩口千鶴
「人工ゼオライトの陽イオン交換に及ぼす陽イオン種・pH・濃度の影響」
越智亮平
「各種酸による人工ゼオライトの特性・構造変化とメカニズムの解析」
山川洋亮
「交換性陽イオン種を異にする人工ゼオライトの高熱条件下における安定性 と耐熱特性」
山崎慶太
「人工ゼオライトの基礎的表面特性と特性発現のメカニズム」
山田和子
「石炭灰の人工ゼオライト転換及び転換物の重金属吸着特性、並びに特性発 現のナノスケール機構」
池内良太
「石炭灰および廃ケイソウ土の固体酸触媒ゼオライトZSM−5への転換、 及び廃プラスチック油化に関する基礎的研究」
右田義臣
「各種陰イオン、とくに無機陰イオンによる、非晶質ないし低結晶性和水ケ イ酸アルミニウムコロイドの特性と化学構造の変化」
Erni Johan
「Phosphate adsorption on poorly ordered and para-crystalline
aluminosilicates, allophane and imogolite, changes in surface
properties and chemical strucuture of the aluminosilicates by
the adsorption, and nano-level analysis for the mechanism in
the changes by means of molecular orbital method」
研究範囲が多岐多方面にわたることが特徴。分子・電子レベルにおける深い レベルでの化学的研究、および、その成果を実際の社会で役立つように実用化し ていくというように、基礎から応用まで幅広い研究を行う。独自の基礎化学研究 による成果に基づき開発を行い、これまでいくつかの実用化製品を世の中に送り 出している。人工ゼオライトの基礎研究および実用化は、その代表的なものとし て有名。高性能で価格の安い人工ゼオライトは、”貧者のゼオライト”あるいは ”第三のゼオライト”とも言われており、環境改善、生物利用工業・バイオテク ノロジー、農畜水林産、土木・建築、都市環境整備・都市計画、公衆衛生、新素 材、医薬品などの分野で利用可能。
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