愛媛大学農学部 生物環境学科 森林資源学コース

 

森林環境制御研究室

Laboratory of Geo-ecosystem Control and Watershed Management

森林の水源涵養機能

 

 

水源かん養機能とは森林が持つ重要な機能のうちの一つである。この機能のことを例えとして『緑のダム』と言うことがある。しかし、この表現は厳密に言うと正確な表現ではない。実は水を土壌中に一時的に貯め、その水をゆっくり流す(流出させる)機能が高いのである。その結果として貯まっているように見えるのである。また、その機能は森林の樹木が持っているのではなく、森林の土(森林土壌と言う)が持っている機能である。そもそも森林の樹木自体は、『緑の蒸発ポンプ』(塚本)と言われるように地中の水を吸い上げて蒸発させているので、水源かん養の面ではマイナスの要素が大きい。例えば、年間の水収支を考えた場合、森林は蒸発散量が大きいため、裸地や草地と比較して年間の水の流れ出る総量(流出量)は一番少なくなることがわかっている。そうすると、なぜ森林は水源かん養機能が高いと言われるのか。


まず、雨況曲線、流況曲線の図(高瀬)を用いて考えてみる。1年間に降った雨とその森林の河川の水量(日単位)を最大の量から最小の量まで大きい方から順番に並べて、それを図に描いたものである。 ただし、最大値と最小値の格差が大きいので、この図の場合、縦軸の上部を省略してある。雨量は左端に年最大日雨量となり、最小となるのは雨量がゼロのときである。一方、流量は左端に年最大日流量、右端は年最小日流量となる。この図を見ると雨況曲線と流況曲線は同じではなく、雨況曲線は急に減少し最小値になるのに対し、流況曲線は年間を通じて比較的ゆるやかに減少している。雨況曲線は、もし降ってくる雨にのみ水源を頼れば、年の約半分は水がないことを意味する。しかし、河川に水がなくなる日が生じない。つまり、流況曲線は年間の河川水の流れの変動を示している。 

さて、この流況曲線で重要なことは、図の右半分の流量の小さい部分にある。この部分の流量が大きいほど水源かん養機能が高いと言える。それは、河川水を利用する場合、河川の水を常に安定的に利用できる量がこの水量によって決まってくるからである。つまり、森林土壌があることによって雨水はゆっくりと地中を流れ、河川の水となった時は、降雨対して時間的に非常に遅れるため、無降雨の日に安定的に河川の水の量を保持するからである。結局、森林の水源かん養機能とは、常に多くの水を貯めるようなダムの機能ではなく、水の流れを遅らせ、河川水の総量を増やすのではなく、安定的な河川水量の形成に役立っていると理解した方がよい。森林の取り扱い方よって、流況曲線は変化するため、森林の水源かん養機能を維持するためには森林施業管理のし方がとても大切である。(講義資料から抜粋)

引用文献
塚本良則:森林・水・土の保全、湿潤変動帯の水文地形学、朝倉書店、1998
高瀬恵次:水資源問題に関わる農林地機能の定量的評価、平成7~平成8年度科学研究費補助金成果報告書、1997

雨況曲線・流況曲線

図は愛媛県大洲市天貢地区で観測された雨量・流量データによる

 

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