愛媛大学農学部 生物環境学科 森林資源学コース

 

森林環境制御研究室

Laboratory of Geo-ecosystem Control and Watershed Management

微気象・Flux観測

 

 

森林微気象・フラックス観測は、研究室では1985年から、附属演習林の2林班長井田試験地での数年間の微気象観測を経て、2003年に地元森林所有者の協力を得て、大洲市杭瀬地区に高さ約36mの森林気象観測タワーを建設して、2004年より継続して観測し、現在まで、微気象と顕熱フラックスの観測を学内共同で行っています。 これとは別に、他大学との共同研究として、1998年からの2010年の琵琶湖プロジェクト森林常設気象観測(滋賀県伊香郡余呉町、現在長浜市余呉町)を経て、2010年から京都大学、京都大学防災研究所、京都大学生存圏研究所、石川県立大学、弘前大学とさらに2016年から科学研究費により石川県立大学の高瀬恵次教授(研究代表者)を中心に、滋賀県甲賀市信楽町国有林野内の観測試験地で森林微気象・フラックスの共同観測を実施しています。

 

 

現在研究室の長期間の観測で明らかになってきたこと

 

 

共同研究(現在、石川県立大学・高瀬恵次教授)として大洲市内に森林水文試験地が(杭瀬試験地、天貢試験地、天貢試験地は2015年に観測を終了しました。杭瀬試験地は、現在、農学部・佐藤嘉展准教授と共同観測しています。)あり、それらの試験地で、降雨量と流出量の観測が実施されてきている。これら試験地の植生は、スギ・ヒノキ人工林(整備林、未整備林)と広葉樹と針葉樹の混交林です。ここでは、これらの試験地を、杭瀬試験地(整備林:観測期間14年)、天貢試験地(広葉樹・針葉樹の混交林:観測期間30年)と呼ぶ。流域面積は、約10haから約20haである。森林気象観測タワーは、杭瀬試験地に設置されていて、さらに、相互に比較するために試験地は、約3kmの範囲内にあります。

 

 

さて、大洲市の年平均降水量は、約1600mmで松山市よりやや多い。この降水量に対して年間の蒸発散量は、約700mm~900mmであった(天貢試験地10年間の降雨量と流出量の水収支式を用いた計算結果による)。年のばらつきは思った以上に大きい。これは、その年の降雨量と気象条件(気温、日照、その他)の影響を受けるからです。 しかし、これらの試験地では、大雑把に言うと、降水量の約半分が蒸発散量で、流出量は、その量と同じ程度であると言えます。本来、森林流域では蒸発散量がきわめて多い。その理由は、森林が他の植生(畑、水田、草本)より遮断蒸発量が多いためです。遮断蒸発量とは、降雨が地表面(林地)に到達せずに、蒸発する量です。年降雨量が少ない地域では、森林の蒸発散量が多いことは、水源涵養にとって森林は、マイナスの要因を持っていると認識すべきです。 杭瀬試験地の森林観測タワーで、森林フラックス観測を実施した結果、森林からの蒸発散量が800mm程度(2004年)であり、降雨量、流出量のよる水収支式の計算結果とあまり違いがないことが分かってきました。蒸発散量は、月毎では冬期(12~2月)は平均約1mm/日(ただし、積雪がある場合は除く)、春期・秋期(3~5月、9~11月)は平均約2mm~3mm/日、夏期(6~8月)は平均約4mm~5mm/日です(2004年の森林観測タワー観測値より)。この値は、人工林のスギ・ヒノキ林の値であり、常緑・落葉広葉樹林の値ではありません。夏期にこの値が大きいのは、太陽放射エネルギー(日射量)が大きく、気温が高いため当然であるが、冬期にも約1mm/日であることに注意が必要と思われます。

 

 

このように、冬期に落葉しないスギ・ヒノキ林では、積雪がない限り、蒸発散量がゼロになることはなく、1ヶ月間に約30mmもの水を損失していると考えなくてはいけません。冬期は降雨量が少ない地域(例えば松山市で1月の平均降水量は約50mm、2月では約60mm)は、この影響は大きいと考えられます。

 

 

次に、森林観測タワーで気象観測を行うと同時に林内雨量観測を行っています。これによって、年間の遮断蒸発量を推定しています。ここで、林内雨量とは、降雨が樹冠の枝葉に遮断され蒸発する水(遮断蒸発)以外の林地に到達する降雨量であり、林内雨量の観測は、樹冠通過雨量、滴下雨量と樹幹流(樹木の枝幹を伝わって流れ落ちる雨水のこと)を測定することで求められます。これらの観測値と数値モデル(樹冠遮断タンクモデル)を用いて、2004年から2005年の樹冠遮断量を推定したところ、年約300 mm~400mmの値を得ました。およそ蒸発散量の50%であり、その量はかなり多い。さらに、数値モデルを用いて、30%間伐の効果を試算すると、樹冠遮断量が年間約35mm~44mm減少することがわかってきました。これには、間伐による蒸散量の減少分は含まれていないことから、30%間伐で40mm以上の蒸発散の減少が期待できます。そのうちの何割が流出量に寄与するかわかりませんが、年間降雨量の少ない地域では、無視できない値と考えられます。

 

 

 

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