研究紹介

主な研究の紹介

 当研究室では,紙産業界の製造現場で直面している課題や製品開発に向けた紙素材開発等の研究に取り組んでいる。

1 印刷物のインキ分布状態の評価に関する研究

 印刷品質は印刷用紙上のインキ分布状態に大きく左右される。このため,印刷用紙の品質設計においては,印刷インキの分布状態を制御することが重要となる。印刷用紙は主としてオフセット印刷されることが多く,印刷時に用紙はインキとともに湿し水を吸収する。したがって,印刷物のインキ分布状態を制御するためには用紙のインキ吸収性のみならず,水の吸収性についての知見を得る必要がある。印刷品質向上を目的に,種々の手法を用いて印刷用紙の吸液挙動を評価し,用紙の吸液特性,塗工層の組成および構造,印刷物のインキ分布状態の関連について研究を進めている。

2 用紙剛度向上に関する研究

 新聞用紙はコスト削減の観点から軽量化が進められてきている。軽量化を進めると,用紙剛度,不透明度等の用紙特性が低下するとともに,プリントスルーの問題も発生する。これらの課題を解決するために,新聞用紙には一般的にTMPが配合されているが,TMPの製造は他のパルプに比べて電力消費量が大きく,これにともないCO2の排出量も多くなる。このため,TMP使用量の削減は,コスト面,環境面の観点から重要な課題である。そこで,用紙の剛度,不透明度を向上させるために,パルプ繊維のヤング率及び不透明度の高い繊維を開発し,TMPの配合率を低減しつつ用紙剛度及び不透明度を向上させる方法について研究を進めている。

3 用紙中の顔料定着に関する研究

 内添法による用紙の着色には,顔料や染料などの着色剤が用いられている。顔料は染料と比較して耐候性に優れているが,着色性に劣り,分布ムラを発生しやすく,均一な着色が難しい。そこで,本研究では内添法による顔料使用時の分布ムラを抑制し,均一な着色を行うことを目的に,パルプ懸濁液中の電荷状態,定着状態,分布状態,地合,pH,水温等の定着に影響を及ぼすと考えられる因子に着目し,これらの因子が顔料定着に及ぼす影響度を調査するとともに,これらの調査結果を基に,顔料を均一に定着する方法について研究を進めている。

4 製紙排水有効活用の検討

 近年,様々な業界において,環境対応に向けた取り組みがなされている。特に,紙パルプ業界においては,紙パルプの製造に大量の水を使用していることから,排水処理水を有効活用する取り組みがなされている。しかしながら,特殊な紙製品を製造している工場においては,製造品種毎に使用している原材料や製紙用薬品が異なることや,製造工程部位毎に排水水質が異なることなどから,排水を有効活用することが困難な状況にある。そこで,特殊紙の製造工程における製紙排水を有効活用するために,その製造工程と排水水質に適した処理方法と処理水の活用方法について研究を進めている。

5 製紙スラッジ活用技術に関する研究

 製紙工場では製造工程で発生する製紙スラッジの処理が課題となっている。一般的には,スラッジボイラにおいてエネルギーとして熱回収を行い,残った焼却灰については種々の方法で処理が行われている。このスラッジ焼却灰の処理に関しては莫大な費用を要しており,これが課題となっている。一方,製紙スラッジ焼却灰の主な成分は,炭酸カルシウム、カオリン等であり,回収利用できれば製紙工場内での資源循環への期待がある。そこで,本研究では製紙スラッジ焼却灰を再度製紙原料として活用し,循環利用する方法について研究を進めている。