柑橘の呼吸制御

収穫後の青果物は、体内にある糖分や有機酸を呼吸により消費していきます。糖分や有機酸は青果物内の主要な呈味成分でもあるため、呼吸を抑制することで美味しさを保った青果物を消費者に届けることが可能になります。呼吸の抑制は青果物外部のガス環境制御により行われており、一般的には低酸素高二酸化炭素となるように外部ガス環境を制御することが有効であるとされています。このとき、酸素濃度を下げすぎると、酸素を必要とする好気呼吸から必要としない嫌気呼吸に変わり、青果物内にアセトアルデヒドやエタノール等の有害物質が蓄積されます。
外部ガス環境の制御による呼吸抑制に関する研究では、青果物の呼吸は「外部の酸素を直接消費している」と考え、様々な呼吸予測モデル式の構築が行われています。しかしながら、実際の青果物では、「外部の酸素は外皮を通じて青果物の内部へと移動し、細胞まで到達し、細胞内のミトコンドリアでの呼吸反応で消費」されます。そのため、既往の研究における呼吸予測モデル式は実際の青果物における呼吸を簡易的に表現したものであり、より精度の高い予測式を構築するには青果物の内外におけるガス移動を考慮する必要があります。
青果物の内外におけるガス移動は、細胞内ガス濃度と大気中ガス濃度の濃度勾配に比例した物質移動現象と捉えることができます。すなわち、青果物外部の酸素濃度が高い場合では青果物外部から内部へと酸素が移動し、青果物内部の酸素濃度が低い場合では青果物外部から内部へと酸素が移動します。青果物の内外におけるガス移動には、ガスの濃度勾配の他に、青果物のガス移動抵抗が大きく影響を及ぼします。青果物のガス移動抵抗は外皮の厚さや青果物内部の間隙率等の青果物の構造的特徴に大きく影響を受け、青果物の品種毎にガス拡散抵抗は大きく異なるものと思われます。そこで、本研究室では種々の柑橘におけるガス拡散抵抗の違いを調べると共に、青果物の内外におけるガス移動を考慮した呼吸予測モデル式構築に関する研究を行っています。