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えひめ果実の酢酸菌AiFプロジェクト

えひめ果実の酢酸菌AiF株を活用した地域貢献

当研究室では、愛媛県の豊富な果実から分離した酢酸菌コレクション「えひめ果実の酢酸菌AiF株」を利用した、地域発酵産業への貢献を目指しています。
【えひめ果実の酢酸菌AiFプロジェクトとは】

■ グルコン酸発酵を活用した「あたらしい甘酒」商品の開発

酢酸菌甘酒ラベル えひめ果実の酢酸菌AiF85株を活用した「あたらしい甘酒」が
森文醸造様から発売中です!

森文醸造ロゴ


◯ 森文醸造株式会社(内子町)、愛媛県食品産業技術センターとの共同研究
「果実の酢酸菌甘酒(ゼリータイプ)」(2020.06.27発売)

(1) グルコン酸とは
私たちの日常的な食事で酸味を感じる食品には、クエン酸、酢酸、乳酸といった有機酸が含まれており、 私たちの健康に、疲労回復効果(クエン酸)や生活習慣病予防(酢酸)など、さまざまな生理機能をもたらしています。
グルコン酸はそのような有機酸の一つであり、蜂蜜やローヤルゼリーといった天然食品のほか、 ワインや醸造酢にも含まれています。
このような食品を通してグルコン酸は昔から摂取されており、 私たち日本人は、生鮮食品から1日当たり約49mgのグルコン酸を摂取していると算出されています。1)


(2) グルコン酸の効能
グルコン酸については、下記のような特徴および生理機能が明らかにされています。2)

1. 不揮発性である
食品中に長く留まっている性質から、食品pHの安定化剤や酸味料として用いられています。

2. 酸味度の低い有機酸である
クエン酸の1/4程度の酸味度で、おだやかで爽快、まるみがあり柔らかな酸味をもたらします。

3. ほとんど小腸で吸収されない
化学構造がよく似たブドウ糖と小腸での吸収試験を比較すると、最大20%程度の吸収率で、グルコン酸は ほとんどが大腸に移行すると考えられています。

4. 大腸でビフィズス菌を増殖する
グルコン酸にはビフィズス菌を増やす機能があり、腸内腐敗産物の生成を抑制したり、ビタミンB群の生成、 便秘の抑制、体の免疫力を高める、などの健康効果が期待できます。

このような魅力的な生理機能があるグルコン酸ですが、食品用途としては豆腐用凝固剤、 酸味料など食品添加物として少量添加されている程度です。
グルコン酸の機能性を期待するためには使用量を多くする必要があります。そのためには、「食品添加物」としてではなく、 「食品」という形でグルコン酸を摂取する手段が望まれます。3)


(3) 酢酸菌によるグルコン酸発酵
酢酸菌のグルコン酸生産は古くから知られており、醸造酢中のグルコン酸も、お酒に含まれるブドウ糖から生成されることが分かっています。
酢酸菌は細胞表面でブドウ糖をグルコン酸に酸化変換する酵素をもっており、 環境中のブドウ糖のほとんどをグルコン酸として蓄積します。4)
このように、酢酸菌はお酢をつくる能力だけでなく、さまざまな糖から有機酸を作り出す能力が現在でも発見されており、 その生成メカニズムの解明に興味が持たれています。5)

この酢酸菌のグルコン酸発酵は、工業薬品の製造法としてすでに工業化されており、 グルコン酸ナトリウムは、食品添加物としてだけでなく、工業用の 鋼板洗浄剤やコンクリートの凝結遅延剤としても使用されています。6)

今回、このグルコン酸発酵をうまく食品中で発揮させることに成功しました。


(4) AiF株による甘酒の2次発酵条件の検討

製造工程 左図のように、米こうじ甘酒は、麹菌の力によって米に含まれるデンプンがブドウ糖(グルコース)に変化して作られる発酵飲料です。

麹菌はその過程で、酵素やビタミン類などの生理活性物質を同時に作り出し、米こうじ甘酒は「飲む点滴」として、 江戸時代にはすでに栄養補給のための健康飲料として確立していました。

今回、この甘酒中のブドウ糖をグルコン酸に変換させるために、酢酸菌による2次発酵により、 ほとんどグルコン酸が含まれない甘酒にグルコン酸を高含有させることとしました。

スクリーニング まず、研究室保存の酢酸菌から、最もグルコン酸生産能力の高い菌株の選抜を行いました。
酢酸菌のグルコン酸発酵は、古くから知られている能力でしたので難しくないと思っていましたが、 甘酒中でグルコン酸を作る能力を発揮できる菌株は少なく、とくに「えひめ果実の酢酸菌」に 多く見られる特徴でした。

約140株から幾度もの試験を重ね、本商品のために選抜されたのが「AiF85株」でした。 「AiF85株」は、愛媛県産(栽培地不詳)の温州みかんから分離された株で、16S rDNAに基づくDNA検査によりGluconobacter cerinusと同定された株です。

その後、米こうじ甘酒中での2次発酵を実現するために、発酵条件の検討、大量生産のためのスケールアップ実験を繰り返し、 実際に森文醸造株式会社の蔵での試験醸造に至りました。

製造
試験醸造では、米こうじ甘酒を最適な条件にしたのち、実験室でスケールアップした「えひめ果実の酢酸菌AiF85株」を甘酒の入った保温タンクに加え、 一定条件に置くことで進めました。
実験室での細かな条件設定の甲斐もあり、保温タンク中で2次発酵は順調に進み、短期間で蔵が甘酸っぱい香りに包まれました。
その後、商品としての試作検討が行われ、「果実の酢酸菌甘酒」が商品として誕生しました。

製品 引用
1) 合田幸広ら、食品衛生学雑誌 32(4):323-327, 1991
2) 永井照和、ミツバチ科学 22(4):171-174, 2001
3) 多山賢二ら、日本食生活学会誌 22(3):241, 2011
4) Adachi O, Ano Y et al., Modern Biooxidation Enzyme, Reactions and Applications, 2007
5) 阿野嘉孝・藥師寿治、化学と生物 56(6):414-421, 2018
6) 扶桑化学工業株式会社ホームページ