研究概要

酸化発酵の発酵生理学的理解と産業的応用

「酸化発酵」とは、細菌のペリプラズム空間を反応の場とする代謝系で、細菌のエネルギー代謝にリンクして機能しています。一般的に「発酵」は、空気酸素の存在しない嫌気条件下で進行する反応で、アルコールや有機酸を生成する反応を指しますが、「酸化発酵」は、空気酸素を消費しながら基質を酸化し、化学量論的にこれらを生成するという特徴をもっています。この反応は、古くは食酢の生産、近代ではビタミンCの工業生産工程において実用化されています。

当研究室がこの反応に着目する理由は下記の点にあります。
(1) 細菌の細胞外での反応であるため、微生物が自身の栄養素とする割合が少なく、
     原料基質に対する反応生成物の収量が非常に高い。
(2) 微生物の短絡的な呼吸鎖によって酸化反応が進行するために、反応が高速である。
(3) 微生物の増殖が必ずしも必要ではなく、原料炭素源からの微生物バイオマスへの
     ロスが少ない。

一般的に「発酵」では、微生物が溶存酸素や栄養源の制限などの何らかの環境ストレスを感じる培養条件になると、さまざまな有用物質を生産するようになります。したがって、制限のない通常の培養環境では、盛んに細胞分裂を繰り返し増殖することが知られています。しかしながら「酸化発酵」では、通常の培養条件で有用物質を盛んに生産する反応です。

私たちのくらしに役立つ有用物質が、微生物自身が生きるためのエネルギーを生産する反応を利用して積極的に生産されているということは、これらの物質の生産することが微生物の生存する上で何らかの生理学的な意義があると考えています。

当研究室では、酸化発酵に機能する酵素や関連する分子メカニズムを明らかにすることで生理学的意義を理解して、効率良く有用物質の生産が行える技術へと展開したいと考えています。

最近の取り組み（2011年以降）